もそ。
布団が擦れる。
まだ空が藍色なのに起きちゃった。
そんな音が、深い深い海の中に手を入れるように、ひとすじ、聞こえた。
「…」
…そういえば、自分は寒いのかもしれない。
ぼんやり瞼を引っ張って見えたあなたの背中でそう思った。
……もう起きたんだ。おんりーちゃん。
「………、……」
それでも、寒がりなそのひとは、脆くさびしそうに、唯一の弱さをさらけ出すみたいに、眠ったままの布団を頭から被って、死ぬように生きていた。
「…おんりーちゃん、」
「………………めん」
ぎゅ、
もそ。って、やさしく、抱き締める。
あなたの、細くて、ぬるくて、どこか頼りないような、いとおしくなっちゃうような、背中。
「…おはよ。」
爆発したかみのけと真白いうなじが愛らしい。
「……………」
「……今朝は冷えるね、」
「……ん。」
すん、って、おんりーちゃんの肩に顔を埋めたら、やわらかい石鹸の香りがしたからだいすきになっちゃった。
あぁ、ね。おんりーちゃんだ。おんりーちゃんのにおいがする。感触が。
「…………。」
「……~…………、」
ほんの少しのまどろみが視えた。
それでももう眠れないね。目が冴えちゃった。
こんなに、霧がかかるような朝は、仕方がない。
「……ん~…、きょう、なにする、…?」
「あ゛~…まずぅ、俺ぁプレミア公開しないといけなくて~……」
「ぁ~…………。」
やる気のない声。いいじゃん。今はね。
ふたり、まだやさしい夢うつつでいたいから。
「あと…なまほ~そ~…だっけ………。」
「なま…………、……あ~そか……。」
「ん~~………。」
おんりーちゃんに触れる肌のところから、すこしずつ体が温まっていく。きっとはなれたら、なくなってしまう、まだたった一瞬のぬくもり、だ。
「………いまなんじ、ぃ?……」
裸眼の彼というのは、なかなかに新鮮だし、おもしろいし、なんとも可愛らしい。
「ん~~~~……………ん~~……ろくぅ?んぁ?あ~六時半。」
視力、何だったっけ?メガネ買いに行かないとね。まぁ、今月末。
「…まじかぁ………」
「アレ、もう動く感じぃ?」
「…どうしよ、」
そっか、おんりーちゃん早起きだものね。
「んぁ~~~でもトイレいきたい……」
「わかる…」
「うごきたくない…………」
「わかるぅ……………。」
…朝のけだるさというのは、どうして、こんなにも。
だけど朝にしか眠らない獅子のようなものが鈍く自分の中に生きているのは、なんとなく、好きかも。しれない。
「………あとじゅっぷん………。」
「おれも~…。」
おんりーちゃんをこの腕から逃してしまったら、いちにちが、始まってしまう。ひどく恐ろしいと思った。
朝日が明るいのが厭だ。
起きろ起きろと強制的に光のほうへ連れ出していく太陽というのは、おそろしい。
ずっとこの暗くて鈍くて甘いようなまどろみの中にいたい。いちごミルクみたいな生ぬるい濁りの中で漂っていたい。
それだけでいいのに。それだけじゃ許してくれなかったから。
「………おんりーちゃん」
「…なぁに。?………」
「…………きょうは…、ね。…あったかい、よ。…………」
まだ、まぶしく、ないから。
まだ、世界は、ふたりがぼうっとしているのを許していてくれるから。
薄暗いやさしい朝日の布団の中では、
いつもよりすこし、素直になれる。
コメント
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おぅおぅ フォロー失礼します
なんかすげぇ(語彙力