テラーノベル
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「トワに渡したぁ!?」
ソラの声が、牢の中に大きく響いた。
「じゃあ、あいつが持ってるってことか!?どうすんだよ!鍵が無いんじゃ――」
「……どうしようもないわね……」
アイリンの声は、わずかに沈んでいた。
「そんな……」
その弱さに引き寄せられるように、マゴットの声も小さく震える。
重苦しい沈黙が落ちかけた、その時。
「……だが」
ロミオだけが、静かに口を開いた。
「待っていても何も変わらない。出してもらえる保証もない以上――動くしかないだろう」
「でもさ……どうすんだよ。鍵が無いんだぞ……」
ソラが不安げに視線を向ける。ロミオと目が合う。
しばらく、二人は視線を交わし続けていた。
「方法は――」
ロミオが言いかけた、その瞬間。
「無駄な抵抗はやめときなって、あんちゃんら」
軽い声が、隣の牢から飛んできた。
四人が一斉に振り向く。
鉄格子の向こう。
そこには、場違いなほど軽やかな笑みを浮かべた男がいた。
水色の髪を揺らしながら、気楽そうにこちらを見ている。
その隣では、紫髪の男が腕を組み、壁にもたれて座り込んでいた。
「……無理って、どういうことよ」
アイリンが眉をひそめる。
すると、水色髪の男が肩をすくめた。
「いやだってさー、この国の王様、ヤバいじゃん?本当にヤバいからな?」
軽い口調のまま、続ける。
「ついさっきもさ、戦士の“ブレナン”って奴が、ちょっと王様の悪口言っただけで処刑されたし」
その言葉に、四人の顔が一斉に引きつる。
だが男は気にも留めない。
「ま、オレも、隣のコイツも死刑囚なんだけどさ」
ひらひらと手を振る。
「ついでに言うと、ここにいる奴ら、ほぼ全員そうらしいぜ?」
その横で、紫髪の男が片手だけを上げ、気だるそうに応じた。
「……あなたたちは……何を……?」
マゴットが恐る恐る尋ねる。
「んー?オレら?」
水色髪の男は、あっさり答えた。
「王様に逆らった。それだけ。てかもう処刑は決まってるしなー。あと一週間もすれば終わりじゃね?なあ、リベっち」
「……まぁな。ダルい。クソほど」
「いや、死ぬのに“ダルい”とかないと思うんですけど〜?」
あまりにも軽い会話。
それが逆に、この場の異常さを際立たせていた。
「……アイリン……私たち……どうなるんでしょう……」
マゴットはその場にしゃがみ込み、震える。
アイリンはそっと肩を抱き寄せた。
「……大丈夫よ。大丈夫だから。
そう言いながらも――確信はなかった。
沈黙の中、今度は紫髪の男が口を開く。
「……お前ら、サマンオサの人間じゃないな」
鋭いが、どこか気の抜けた声音。
「……王に会いに行って、こうなったクチか」
「……はい…そうです」
マゴットが奥からか細い声で答えると、男は小さくあくびをした。
「ふーん……まぁ、いきなり死刑は無いだろうけど」
どうでもよさそうに続ける。
「どんな罪だろうが、“ここから出られたら奇跡”――そう思っときな」
その言葉が、重く沈んだ空気をさらに深くする。
――だが。
次の瞬間、空気は一変した。
「てかさ!」
水色髪の男が、急にソラへ身を乗り出す。
「金髪のあんちゃん、いいピアスしてんじゃん!どこで買ったわけ?」
「え?あ、これか?えっとな――」
「めっちゃいいじゃん!え、なにそれ、大事な人から?カノジョ?」
「いや、カノジョじゃなくて――」
「え、じゃあ“ただ大事な人”ってやつ?なにそれ気になる!名前は?カノジョいたことあんの?」
一気にまくしたてる。
「オレ、ソーヤっていうんだわ。で、こいつがリベっち」
親指で隣を指す。
「…リヴェルだっての」
紫髪の男が、面倒くさそうに訂正した。
「あ、オレ、ソラっていうんだ」
「へー、ソラ? 名前エモっ。ソラくんね、いいじゃんいいじゃん」
ソーヤは楽しげに目を細めると、さらに身を乗り出した。
「でさ、その髪長いあんちゃんとはどういう関係?さっきめっちゃ見つめ合って、モールス信号みたいなことしてたけど。親友?それとも、オレとリベっちみたいな“相棒”?」
あまりの勢いに、ソラだけでなく他の三人も言葉を失う。
「ちょっと、ソーくん――」
リヴェルが制止しようとした、その時。
「またお前か、ソーヤ・レイザール!!」
怒号が、牢の中に叩きつけられた。
二人の兵士が、鉄格子の向こうに立っている。
「騒ぐなと何度言わせる!!」
「……いやさぁ」
ソーヤは肩をすくめ、声を落として返す。
「今の、お前の声の方がよっぽどうるさくね?それにさ、どうせあと一週間で死ぬんだぜ?最後くらいテンション上げさせてくれよ」
その言葉に、兵士の眉がぴくりと動く。
やがて、そのうちの一人が――ゆっくりと視線を横に滑らせた。
金髪の青年――ソラへ。
「……貴様、何か――」
だが、言葉は途中で止まる。
兵士の目が、さらにその奥へと移ったからだ。
そして――一点に、釘付けになる。
「……貴様……それは……」
視線の先。
ロミオの耳元に光る、ピアス。
空気が変わる。
兵士は無言で鍵を取り出し、牢の扉を開けた。
「――!」
もう一人の兵士が、出口を塞ぐように立つ。
「おい!ロミオに触るな!!」
ソラが反射的に叫ぶ。
だが。
「……やめろ、ソラ」
ロミオが低く制した。
「無駄な抵抗はするな」
その一言で、ソラは動きを止める。
アイリンとマゴットは、互いに身を寄せ合ったまま、息を潜めていた。
(……その通りだわ)
アイリンは唇を噛む。
(ここで逆らえば、終わる)
だが――その瞳だけは、鋭く兵士を射抜いていた。
兵士はゆっくりと歩み寄る。
「……おい、貴様。そのピアスは何だ」
ロミオは髪で耳を隠す。
だが。
「隠すな!!見せろと言っている!!」
乱暴に手が伸び、髪を払いのけられる。
露わになる、証。
それは――悟りの試練を越えた者にのみ与えられるもの。
賢者の証。
兵士の顔が、はっきりと歪んだ。
「……まさか……」
かすれた声が漏れる。
「賢者……か……?」
背後の兵士も、明らかに動揺する。
「……賢者ロミオ……?」
空気が、張り詰める。
「……こいつら……ただ者じゃ……」
二人の兵士は顔を見合わせ、小声で何かを交わすと――
そのまま、慌ただしく牢を出ていった。
再び、静寂。
重く、張りつめた沈黙が落ちる。
「……なんだったんだ、今の……」
ソラが呟く。
座り込んだロミオを支えながら。
「……もしかして……助かるのかしら……」
アイリンが、かすかに希望をにじませる。
ロミオは俯いたまま、静かに答えた。
「……そうだと、いいがな」
その表情は――晴れてはいなかった。
「王よ。恐れながら申し上げます――あの者たちは、解放すべきかと」
玉座の間に、兵士の緊張した声が響く。
「……何じゃと?」
王はゆっくりと顔を上げる。
細い目が、鋭く兵士を射抜いた。
「貴様……死にたいのか」
「ひっ……!」
兵士は一瞬、言葉を失う。
それでも、震える声を絞り出した。
「お、恐れながら……白髪の男が……“賢者ロミオ”であることが判明いたしました」
「……なんだと……?」
王の瞳が、わずかに揺れる。
「賢者ロミオは、勇者一行の一員として旅をしているとのこと。あの者たちは――アリアハンから来た勇者一行である可能性が高いかと……」
兵士は頭を垂れたまま続ける。
「であれば……軽々しく拘束すべきではなく、解放し――」
「……ならぬ」
低く、冷たい一言。
「……え……?」
思わず顔を上げた兵士に、王は言い放つ。
「今すぐ、処刑の準備をせよ」
「お、王様!?」
動揺が隠しきれない。
「お気は……確かでございますか……?」
「……何じゃ」
空気が、凍る。
「貴様……わしの判断が誤りだとでも言いたいのか」
王の声は、静かだった。
だが――底にあるのは、明確な殺意。
「であれば……まずは貴様から処刑してやろうか?」
「っ……!」
兵士の顔から血の気が引く。
「い、いえ……そのようなことは……!」
必死に首を振る。
だが、それでも食い下がるように言葉を続けた。
「し、しかし……王様。明日も明後日も、処刑予定の者が多数おります……!すぐに新たな処刑を組むのは――」
「……ならば」
王は、わずかに口角を上げた。
「明後日の処刑は中止とせよ」
「……え?」
「その枠を、あやつらに回す」
淡々と告げられる、死の宣告。
「執行日は――明後日だ。直ちに執行官へ伝えよ」
「……っ、は……!」
兵士は、もはや逆らうこともできず、深く頭を下げた。
その背に――
王の、歪んだ笑みが突き刺さっていた。
コメント
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王様〜?
、。…え?!どうなっちゃうの?!