カノーカ王国。それは何千年もの文明を築き、平和な街が続いていた国である。
秘宝「ルーペント」という星型の宝石がこの国の繁栄を支え、その宝石があることで土地が潤い人々は賑わっていた。貿易も盛んに行われるほど文明は長く続く。
宝石はカノーカ王国にある豪華な城「フリーダム城」の地下に封印され、誰にも取られないように大きな氷の中へ保存している。だが、氷は溶かされていた。地下に謎の人物がやってきて、盗まれてしまったのだ。
街の人々はそれを知らず普通に生活していたが、徐々に作物が枯れ果て太陽がほとんど照らなくなった。真っ暗な冷え冷えとした、暗黒世界へと変化してしまう。
その街に多くのモンスターがやってきた。翼が生えた鳥の顔にライオンの胴体を持つグリフォンや緑色の肌をしたキングゴブリンの群れなど、様々な種類がいる。
彼らはそこにいる人々を縄で縛って次々と捕まえ、どこかに運んでしまう。人々は皆パニックに陥り、街を離れることに絶望した。
カノーカ王国にはモンスターが蔓延り、彼らの棲み家になってしまう。
そんなことも知らずに、18XX年。ルミリア国では結婚式が開かれていた。
ルミリア国の第一王子が、隣の国バイレット王国の姫と結婚する。
この二つの国の貿易を盛んにし、街を強化する必要があるからだ。隣には強大な勢力、イーリェット帝国があり、彼らに侵略されないためにこの結婚は必要不可欠である。
遠くから見れば戦略結婚であるが、パレードの中を通って二人とも幸せな表情で馬車の中から手を振る。
紙吹雪が撒き散らされる中、国民たちは新婚夫婦に笑顔で振り返す。とても華やかなパーティで締めくくられた。
二人は結婚式を終えて煉瓦造りの豪華な城に入り、寝室へ向かう。
貴族が使いそうな豪華なベッドにたくさんの本が入った棚。豪華な椅子もあり、隣の部屋には風呂場がある。
赤毛のシプリートは、めんどくさそうにため息をつきながら椅子に座る。
人見知りなので、正直赤の他人と関わりたくないのが本音。大きなため息をついた。
貴族は大体周りの環境を断ち、家族やメイド以外と関わらないように閉鎖的な空間で生活する。そのため、人見知りになるのは必然である。
「あーあ、疲れたな。人がいっぱいいると、疲労がすごいんだよねー」
「もう、そんなこと言ってはいけないわよ。あなたはこの国を父上の代わりに継ぐ王子ですわ。貿易を結ぶために人と関わる機会は増えますもの」
金色の触り心地の良いロングヘア。ピンク色の瞳をしたエミリ姫がだるそうにしている彼に叱咤する。
シプリートは目を少し開けたが、知らんぷりんして目を閉じた。疲れているから仕方ないよね。
心の底では彼女のことが好きである。
しっかり者で頭が良く、困ってる時は助けてくれるので気がきく。
胸も大きくて美しいボディーに母親の母性も持っており、こんな完璧な女性は滅多にいない。
逆にエミリ姫は、人見知りで臆病だけど、優しくて正義感が一番強いシプリートについて、もっと知りたいと思っている。つまり両思いである。
これでようやく新婚生活が始まった。
彼女は手を叩いて、提案してくる。
「さ、食事にしましょう」
「はぁ……そうだな」
椅子から立ち上がり、シプリートは彼女の細い腰を掴んでエスコートする。そのまま大広間に向かおうとしたその時。城全体が揺れて寝室の床が盛り上がった。
「この姫は我々のものだ!!」
野太い声と共に床から口が大きくて鋭い歯を生やした丸い形の小型ロボットが顔を出し、長い腕と大きな手で姫を握りしめて去っていく。
壁と窓は食われて崩壊し、飛び散ったカケラや折れた柱が倒れていた。
「シプリート、助けて!」
大きな声で叫んだが、彼はどうすることもできずその場で立ち尽くしてしまう。
弱い自分が醜いと感じる一方、ロボットは大きな翼を広げて去っていく様を見ていることしか出来ず。その場で膝をつき顔を真っ青にする。そして、なぜ助けられなかったのか後悔する。
扉が勢いよく開き、メイド服を着た女性カロリーヌが慌てた様子で入ってきた。
「王子!城がグワングワンと揺れましたが、大丈夫でしたか!?」
「……」
彼女の声も聞こえず、その場に座り尽くす。顔は真っ青だ。
「王子……?」
「エミリが……エミリが……」
「もしかして盗まれたのですか!?」
目を見開いて言われた言葉は、図星だった。
シプリートは何もできず、助けてあげられなかったのだ。悔しい……。涙が溢れてくる。
両方の手で拳を握りしめ、歯を噛み締める。
「僕……エミリを助けにいく」
「私も世界の果てまでお供させてください!」
「し、しかし……」
彼女はただのメイドさんだ。
貴族に仕える下っ端で、貴族間の問題だからあまり無茶をさせたくない。
その気持ちを読み取ったのか、彼女の手からメラメラと真っ赤な炎が吹き出た。どうやらこのメイド、魔法が使えるようだ。
魔法。それは遺伝によって、有無が決まる。
炎、水、風、木、闇、光の属性があり、それぞれに相性がある。
水は炎に強く、炎は風に強く、風は木より強く、木は水に強い。闇と光はお互いの相性が良く、強さなど関係ない。
実際闇と光の魔法を所有するものは少なく、ルミリア国の王様は光属性。女王は水属性。
彼の息子であるシプリートは光魔法が使えるのではと期待されていたが、女神曰く彼は魔法がないという。13歳の頃。魔法の鑑定儀式で魔法が使えないことを知り、絶望と混沌の渦に落とされる。魔法が使えれば、みなから頼りにされるのに。
「やはりそうだったか、安心したぞ。我が息子よ、頑張りなさい」
偉大なる父はそんな彼を貶めることはせず、褒め称えた。魔法がなくても力でも勝てるのだ、と。
シプリートは剣士になるため、必死に剣術を学んだ。そして勉学にも励む。
学べば学ぶほど彼は強くなり、剣術で師匠のブリーズが尻餅をついた。とても喜ばしいことだ。
それなのに姫を救うことができなかったのは、予想外だった。もっと自分が強ければ、あのロボットを真っ二つにできたのに!
心の中で嘆いていたら、カロリーヌは意気込んだ声を張り上げる。少し頬が熱っているのは気のせいだろうか?
「この力を使って、王子を助けます!」
「あ、ああ……一緒に行こう」
シプリート自身は魔法が使えないので、戦ってくれる仲間が増えたことは心が躍る出来事。とはいえ、助けて欲しいのは嫁のエミリなのだが……。気にしない方が良さそうだな。
コメント
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とても面白い物語ですね!これからも頑張って下さいッ!👍