カノーカ王国は何千年もの文明を築き、そして平和な街が永遠に続いていた国である。
この国には秘宝「ルーペント」という星型の宝石がこの国の繁栄を支えており、その宝石があることで土地が潤い人々は賑わっていた。貿易も盛んに行われるほど文明は長く続く。
しかしその宝石が何者かに盗まれてしまった。
宝石はカノーカ王国にある豪華な城「フリーダム城」の地下に封印されており誰にも取られないよう大きな氷の中に保存していたが、氷は溶かされていた。地下に謎の人物がやってきて、盗まれてしまったのだ。
街の人々はそれを知らず普通に生活していたが、徐々に作物が枯れ果て太陽がほとんど照らなくなった。真っ暗な冷え冷えとした、暗黒世界へと変化してしまう。
その街に謎の人物の仲間である多くのモンスターがやってきた。翼が生えた鳥の顔をしたガーゴイルや緑色の肌をしたキングゴブリンの群れなど、様々な種類がいる。彼らはそこにいる人々を縄で縛って次々と捕まえ、どこかに運ばれてしまう。
人々は皆パニックに陥り、街を離れることに絶望した。
カノーカ王国には鋭い爪を持ったモンスターが蔓延り、彼らの棲み家になっていた。
そんなことも知らずに、ルミリア帝国では結婚式が開かれていた。
カノーカ王国には主に、金と羊を輸出している。昔から二つの国王同士の仲がよく、いつも彼らは何度も王国を行ったり来たりしている。
ルミリア帝国は金の宝庫であり、金でお金が作られている。
平和なルミリア帝国の王様マグラスの息子シプリートが、隣の国の姫エミリと結婚することになったのだ。戦略結婚であるが、二人とも幸せな表情で馬車の中からパレードを潜り抜けて手を振る。
紙吹雪を撒き散らして応援する人もいて、国民たちはそれに笑顔で振り返す。
二人は結婚式を終えて煉瓦造りの豪華な城に入り、寝室へ向かう。赤毛のシプリートは、めんどくさそうにため息をつきながら椅子に座る。
コミュ障なので、正直人と関わりたくないのだ。
貴族は大体周りの環境を断ち、人と関わらないように閉鎖的な空間で生活するのでコミュ障になるのは当たり前であるが。
「あーあ、疲れたな。人がいっぱいいると、疲労がすごいんだよねー」
「もう、そんなこと言ってはいけないわよ。あなたはこの国を父上の代わりに継ぐ王子ですわ。貿易を結ぶために人と関わる機会は増えますもの」
金色のロングヘアにピンク色の瞳をしたエミリ姫がだるそうにしている彼に叱咤する。
シプリートは知らんぷりんをして、目を閉じた。
このような態度をしているが、心の底では彼女のことが好きである。
しっかり者で賢く、実は軍人並みに強いということを隠している。
母親の母性も持っており、こんな完璧な女性は滅多にいない。
逆にエミリ姫はコミュ障なシプリートについて色々と知りたいと思っている。これでようやく新婚生活が始まる。
「さ、食事にしましょう」
「はぁ……そうだな」
椅子から立ち上がり、二人で並んで大広間に向かおうとしたその時。城全体が揺れて寝室の床が盛り上がった。
床から口が大きくて鋭い歯を生やした丸い形の小型ロボットが顔を出し、長い腕と大きな手で姫を握りしめて去っていく。
「シプリート、助けて!」
大きな声で叫んだが、彼はどうすることもできずその場で立ち尽くしてしまう。
弱い自分が醜いと感じる一方、ロボットは大きな翼を広げて去っていく様を見ているしか出来ずその場で膝をつき顔を真っ青にする。
そこへ扉が開き、メイド服を着た女性が慌てた様子で入ってきた。
「王子!城がグワングワン揺れましたが、大丈夫でしたか!?」
「……」
彼女の声も聞こえず、その場に座り尽くす。
「王子……?」
「エミリが……エミリが……」
「もしかして盗まれたのですか!?」
目を見開いて言われた言葉は、図星だった。
シプリートは何もできず、助けてあげられなかったのだ。
両方の手で拳を握りしめ、歯を噛み締める。
「俺……エミリを助けにいく」
「私も世界の果てまでお供させてください!」
「し、しかし……」
彼女はただのメイドさんだ。
貴族に仕える下っ端で、あまり無茶をさせたくない。
その気持ちを読み取ったのか、彼女の手からメラメラと真っ赤な炎が吹き出た。どうやらこのメイド、魔法が使えるようだ。
「この力を使って、王子を助けます!」
「あ、ああ……一緒に行こう」
シプリート自身は魔法が使えないので、戦えってくれる仲間が増えたことは心が躍る出来事。とはいえ、助けて欲しいのは嫁のエミリなのだが……。気にしない方が良さそうだな。
魔法。それは遺伝によって、有無が決まる。
そして炎、水、風、木、闇、光の属性があり、それぞれに相性がある。
水は炎に強く、炎は風に強く、風は木より強く、木は水に強い。闇と光はお互いの相性が良く、強さなど関係ない。
実際闇と光の魔法を所有するものは少なく、ルミリア帝国の王様は光属性。女王は魔法を持っていない。
彼の息子であるシプリートは魔法を貰えるチャンスだったが、女神曰く彼は魔法がない方に遺伝してしまったという。13歳の魔法の鑑定儀式で魔法が使えないことを知り、絶望と混沌の渦に落とされる。魔法が使えれば、みなから頼りにされるのに。
偉大なる父はそんな彼を貶めることはせず、褒め称えた。魔法がなくても力でも勝てるのだから。
シプリートは剣士になるため、必死に剣術を学んだ。学べば学ぶほど彼は強くなり、師匠のブリーズが尻餅をついた。とても喜ばしいことだ。
それなのに姫を救うことができなかったのは、予想外だった。もっと自分が強ければ、あのロボットを真っ二つにできたのに!
コメント
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とても面白い物語ですね!これからも頑張って下さいッ!👍