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「戻ってたんだ。ゴメン、起きて待ってるつもりだったんだけど」
「ううん。僕の方こそ待たせて悪かったね。立てるか? 送っていくからそろそろ帰ろう」
蓮がそう言って手を差し出すと、ナギは素直にその手に自分の手を重ねて立ち上がった。
まだ少し足元が覚束無い様子でフラついているのをすかさず支える。
少し気まずそうに伝票を差し出し、一つ呼吸を置いてから真っすぐにナオミを見据えた。
「ケンジにはわからないかもしれないし、信じては貰えないかもしれないけど……。少なくともアイツの事は本気だったよ。伝え方がわからなくて酷い事をしてしまった自覚もあるし、後悔もしてる。確かに僕はケンジが言うように、愛するって事がどういうものなのか、よくわかってないのかもしれない。でも、今回は何も企んでないよ。これから先の事なんてまだ何もわからないけど、少なくとも今はこの子を大事にしたいと思ってる。その気持ちに嘘やごまかしは一切ない」
「……本気なの?」
「勿論。……別に信じてくれとは言わない。言ったってお前には茶番に見えるのかもしれないしな」
そう言ってナギの肩を抱き寄せると、ナオミはどういう心境の変化があったのかと訝し気に眉を寄せ二人を交互に見た。
しかし、それ以上は何も言わず、ただじっと蓮の顔を見つめた後、諦めたように息を吐き出し会計を済ませると静かに店の扉を開けた。
「……今度またゆっくり話しましょ。その時はちゃんと話を聞かせなさいよね」
「あぁ」
じゃぁ、また。と、ナオミに向かって軽く頭を下げるナギの肩を半ば強引に引き寄せ、複雑な気分で店を後にした。
そのままぎゅっと抱きしめると、ナギは驚きつつも何処か嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
「本当はさ、不安だったんだ……。ゆきりんがもし、抱いてって言ったら流されてそのまま帰って来ないんじゃないかとか、やっぱりあっちがいいって言って捨てられちゃうんじゃないかって嫌な事ばっか考えちゃった」
「……そんなことしないよ」
そっと髪を撫でていると、ナギは甘えるように首筋に顔を埋めてきた。その仕草が可愛くて、蓮は思わずクスリと笑う。まるで大きな猫みたいだ。と、思った。
他の男だったら同じことをされても鬱陶しいだけなのにナギなら嬉しいと感じる。そんな風に思う自分が不思議だ。
しばらくそして好きにさせていると、満足したのかナギは顔を上げて上目遣いで蓮を見上げてきた。
その表情が妙に艶っぽくてドキリとする。
つい、キスをしてしまいたくなる衝動を抑えて、唇に指を押し当て囁いた。
「流石にタクシーの中じゃまずいだろ?」
「そ、そんな事わかってるし……!」
恥ずかしそうに俯いたナギの耳が赤くなっている。そんな反応がいちいち可愛らしくて、蓮は堪らず声を出して笑ってしまいそうになり口元を手で覆って、それでも堪えきれずにクツクツと肩を震わせて笑った。
ナギはそれが面白くなかったようで、不貞腐れてぷいっとそっぽを向いてしまう。
「ごめんって、部屋に戻ったら沢山甘やかしてやるから」
「別に……そんな事しなくてもいいよ」
素っ気なくそう言いながらも、チラリとこちらに視線を向けたナギを見て蓮は確信する。
これは絶対に甘やかして欲しい時の態度だと。きっとそうだ、そうに違いない。
(早く、マンションに着かないかな)
そしたら思う存分抱きしめて、たくさんキスをして、ドロドロに蕩けさせてあげるのに。
蓮は逸る気持ちを抑えつつ、隣に座るナギの手をさり気なく握って窓の外に視線を移した。