テラーノベル
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翌朝の教室。まだチャイムが鳴る前、
カーテンの隙間から朝の光が
差し込んでいる。
ざわめく教室の中で、すちとみことは
隣の席でプリントを眺めていた。
「…デザイン部、結構雰囲気よかったな〜」
「うん!部長さんも優しそうだったし。
すっちー向いてる気がする」
「そうかな」
すちがペンを指で転がしながら、
ふっと笑う。
しばらくして、みことが声を少し落として 言った。
「――ねえ、すっちー。
昨日のこさめちゃんの顔、見た?」
「……顔?」
すちの手が止まる。
「うん。帰りぎわにさ、
俺、 廊下の窓から見えたんだよ。
部室の前で、こさめちゃん一人で
立ってて なんか……、笑ってるようで、
全然笑ってなかったんよね。」
すちの視線が、机の上に落ちた。
ペンの転がる音が、やけに大きく響く。
「……見てない。」
「そっか」
「……別に、俺、
悪いことしたわけじゃないし」
「そういうことじゃないよ」
みことが少し笑って言う。
「こさめちゃん、頑張ってるの
見てたでしょ?あれ、たぶん
“すちくんと仲良くなりたくて”だよ」
すちは俯いたまま、ペンを握りしめた。
「……そんなの、わかってる」
「だったら、少し優しくしてあげてもいいんじゃない?」
沈黙。
そのとき、教室のドアが開いた。
「おはよ〜!」
こさめが明るく入ってくる。
昨日のことなんてなかったみたいに、
軽く笑っている。
でも、
その目の奥の赤みを、
すちは気づかないふりをした。
隣でみことが軽く手を振って「おはよー!」 って言う。
その声に応えるように、こさめちゃんが
笑顔で返す。
その笑顔を、ちらっと横目で見ながら。
胸の奥が、また小さく揺れた。
(俺、ほんと…… 何してんだろ。)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
一方通学路。
空はうっすらと曇っていて、
まだ冷たい風が頬をなでていく。
制服の襟を軽く押さえながら、
なつは隣を歩くいるまの横顔を
ちらっと 見た。
「なあ、いるま。今日ちょっと
顔色悪くね?」
「……別に。寝不足なだけ」
淡々とした声。
その言い方はいつも通りだけど、
いるまの足取りが少しだけ重く見えた。
(やっぱ無理してんじゃん。)
なつは何か言いかけて、
でも口を閉じた。
いるまがそういう時、
あんまり構われたくないのを
知ってるから。
「……ま、そういうときこそ、
コンビニの カフェオレな」
「は?」
「ほら、糖分足りねぇと頭回らんだろ。
奢るから飲めよ」
「……あー、はいはい」
いるまが小さく笑って、ポケットから
小銭を出す。
「だから!奢るから」
「いいん?」「もち!」
二人が並んで歩く姿は、
通学路の中で妙に 自然だった。
風の音と足音が混ざるだけで、
どこか落ち着く。
学校の校門が見えてくる頃、
なつが小声で呟いた。
「マジで無理すんなよ、いるま」
「……うるせぇ、親かよ」
「はは、誰が親だ」
そう言い合いながら、
二人は並んで昇降口へと向かう。
靴を履き替えるとき、
いるまがふと顔を上げて言った。
「……ありがとな、なつ」
「ぇ?//」
「…いや、なんでもねーよ」
そう言って、いるまは先に教室へ
歩き出した。
その背中を見ながら、なつはほんの
少し笑った。
(ほんと素直じゃねぇな……
でも、そういうとこ好きなんだよな)
(……、?ん…好き?、俺が…誰かを?
いや今は考えないでおこ)
昇降口を抜けて階段を上がると、
廊下の奥の教室から、
すでに賑やかな声が 漏れてきた。
「……賑やかだな」
「らんの声だな、あれ」
なつが肩をすくめると、
いるまが 小さく笑った。
その笑顔は少しだけ疲れてるけど、
さっきよりは少し元気が戻っているよう
にも見えた。
ドアを開けると、教室の中にはすでに
みんながいてLANとこさめが話していて、
その向かいにみこととすちが並んでいる。
こさめが何か話している途中で、
ふとドアのほうを振り向いた。
「あっ、いるまくんとなつくん
おはよ〜!」
「おーっす」
「おは」
いつも通り軽く返す二人。
LANが手を振りながらにやっと笑った。
「やっと来たねー!
今ちょうど部活の話してたんだよ!」
「部活?」
いるまが教室に入って鞄を下ろすと、
LANが得意げにプリントを広げて見せる。
「そう、どこ入るか話してたとこ!
なつといるまはもうバスケ部
決まりなんだよね?」
「んー、まあな」
なつが答えると、いるまが驚いた声で
「お前、バスケ部入るん?」
「おん いるまのこと見てたし…、、//」
「へ〜、」
いるまも無言でうなずいた。
なつといるまはその輪の中で、
ふと窓の外を見上げた。
まだ少し頭が重い。
けど、こうして笑い声があるだけで――
なんか、少しだけ気が楽になる気がした。
なつが横で小声で言った。
「……やっぱ来て正解だったな」
「ん?」
「いや、なんでも」
そう言って笑うなつの顔を、
いるまは横目で見て。
ほんの一瞬だけ、笑い返した。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
昼休み。
外の空が急に暗くなり始めたと思ったら、
ぱらぱらと小さな雨粒が窓を叩き始めた。
「……雨、降ってきたな」
LANがつぶやくと、こさめが窓際に
顔を近づけて外を覗きこむ。
「ほんとだ〜、天気予報
はずれてるじゃん」
すちはノートを閉じ、静かに窓の音に
耳を傾けていた。
教室全体が少しだけ落ち着いた空気に
包まれる。
そのなかで、
いるまは机に 肘をついたまま、
こめかみを押さえていた。
素早くなつが気づく。
「……おい、いるま」
「ん?」
「さっきより顔色悪いぞ」
「……平気。ちょっと頭痛いだけ」
「“ちょっと”って顔じゃねぇけど」
「マジで平気だって」
そう言いながら、いるまは立ち上がる。
だけど、少し足元がふらついた。
「だから言っただろ」
いるまは手を振ってなつの言葉を遮る。
「……保健室、行ってくる」
「俺も――」
「来んな。平気だから」
短くそう言って、
いるまは傘も持たずに教室を出ていった。
廊下の向こうでは、
雨の音が少しずつ強くなっていく。
白い光が窓を照らして、
その中を歩くいるまの背中が
ぼんやり滲んで見えた。
なつは席に戻りながら、
小さく息をついた。
(ほんと、無理すんなっての)
そして心の中で、
(……でも、そういうとこが
いるまらしいんだよな)
と、少しだけ苦笑する。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
保健室の白いカーテン越しに、
雨のしずくがポツポツと窓を叩く音が
響いていた。
ベッドの上、いるまは制服の
上着を脱いで、
額に冷たいタオルを乗せていた。
目は閉じてるけど、眠ってはいない。
(……これだから雨嫌いなんだよな)
そんな自嘲気味な思考が、
ぼんやりとした頭の奥を流れていく。
ドアが開く音がして、
小さく覗き込む声がした。
「……いるま?」
なつだった。
その後ろにLANとこさめも立っていた。
三人とも少しだけ髪が濡れてる。
「お前ら、来んなって言ったろ」
いるまが低い声で言うと、
LANがあっけらかんと笑う。
「でも雨宿りしようと思ったら、
ここしか空いてなかったんだよね〜」
「うそつけ」
なつが呆れ気味に笑いながら、
ベッドの横の椅子に座る。
「先生、いないの?」
「どっか行ってる。昼飯かも」
「……そう」
こさめは持っていたハンカチで
いるまの机の上に置かれた水滴を
拭きながら、 少し声を落とした。
「……無理しすぎだよ、いるまくん」
「してねぇって」
「してる」
こさめは笑わずに言った。
その静けさが逆に重たくて、
いるまは少しだけ視線をそらした。
LANが横からフォローするように
口を挟む。
「まあまあ、いるまは頑丈そうに見えて
デリケートだからな〜」
「お前な」
いるまは枕越しに軽く睨むが、
LANは悪びれもせず笑った。
「お前が心配しすぎなんだよ」
「心配ぐらい、するだろ」
短い沈黙。
カーテンの向こうでは、
雨が静かに流れ落ちている。
やがてこさめが小さく笑った。
「……ほんと、みんな優しいね」
その声はどこか寂しげでもあって、
LANがちらっと彼の顔を見た。
「なにそれ、こさめも同じでしょ」
「こさめは……見てるだけだから」
その言葉に、
なつもいるまも一瞬だけ視線を向けた。
けど、誰も何も言わなかった。
外の雨は、少しだけ強くなる。
保健室の中は静かで、
でも確かに“絆の輪郭”が見え始めていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
コメント
1件
神作すぎる… 続き楽しみにしてます!!