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導かれるまま一行が向かった場所はJA的な倉庫の前であった。
出迎えた職員風味の男に虎大は告げたのである。
「あ、この前予約させて貰った者ですけどぉ、準備して貰えたでしょうかぁ? ドッグフード十キロを三十袋(たい)なんですけどね、えへへぇ」
出迎えた職員も厳しかった顔を柔和な物に変えて答えたのである。
「ああ、聞いてるよ! おーい、あの注文詐欺だとか何とか話題になっていたドッグフードあっただろうぅ! あれ、持って来てくれよぉ!」
「アイアイサー!」
程なくしてフォークリフターがフォークリフトで串刺しにして持って来たパレットには、如何にも重そうなドッグフードが山と積まれていたのであった。
「すいやせん、運ぶのは俺達だけでやりやすんで、姐さんたちは休んでいて下さいよ」
「っ!」
んな事言われて、はいそうですか、じゃあ頑張ってねん♪ んな事言える訳無いのがコユキである。
故に瞬で答えた、瞬である。
「馬鹿言ってんじゃないわよっ! 一蓮托生(いちれんたくしょう)っ! 分配して持つに決まってんじゃないのっ! さあ、お婆ちゃん! レグバの皆! 持ちなさいよっ! 皆で力を合わせるのよぉぉぅ! アタシはお腹が空き過ぎて無理なんだけどね…… んねえ、善悪ぅー、持ってくれるかなぁ? アタシの分もぉー、無理? 無理なの? はぁぁー、やっぱりアンタでも無理かぁー、ねえ、無理ぃ?」
善悪が答えた。
「は? 何が? 無理ってどう言う意味の言葉なのでござる? 不覚にも日本人として生を受けて四十一年! ムリって言葉を聞いた事が無かったのでござるよ? んまあ、いいか! 師匠も運命神達も持ち切れない荷は僕チンに任せてねっ! そうそうそんな感じでっ! んぐぐぐぅ…… まだまだぁっ! ムッシュッゥ! ム、ムッシュゥゥゥゥッ! ムラムラムラムラァァァァァッ! ほ、ほれ、立ち上がれたのでござるぅ、よぉっ! 心配ご無用でござるぅぅぅっ!」
三十袋のドッグフードの内、二十五袋、二百五十キロを背負った善悪は、一袋づつ両手で持つフェイト、フューチャー、ロット、虎大、竜也に向けて堂々と言ったのである、噂に違わぬガッツであった。
横に手ぶらで立つトシ子とコユキ、デスティニーは案の定にやけ顔である。
何ら重荷を感じていないままに気楽な感じで言い放ったのである。
「それ行けぇ、レッツゴー大魔王の元へぇ!」
荷役担当の者達は何とか息も絶え絶えに答えたのである。
『お、応ぅー』
こうして心を一つに合わせる事に成功した一行は、一路、大魔王の待つクラックへと歩みを進めるのであった。
三十分程かけて歩いた結果、レグバ達と虎大竜也の兄弟も疲れたらしく、袋を持つ手を入れ替える回数も増え始めていた。
善悪は大量に背負っているせいで休む事も叶わずに、上体を前方九十度に曲げて地面を見続け、膝をガニ股にしながら必死に歩を進めている。
せめて善悪の目印になれば、そう思ったコユキが善悪の前を歩きながら、後ろ手に持った木の枝を揺らしていた手を止めて虎大と竜也に言う。
「あれ? あの有名なファームじゃ無いのん? スマホのナビだと真っ直ぐって書いてあるわよ」
虎大が答える。
「いいえ、ここを左に入った先でさあ、途中に町営のラベンダー園がありやすから勘違いされたんじゃないですかね?」
「へーそうなの、んじゃ案内続けて頂戴」
流石に一年住んでいる二人はこの辺りには詳しい様だ。
安心したコユキは善悪の前を歩きながら、一所懸命に後ろ手を振り続けるのであった。