テラーノベル
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クロエの体は日に日に弱っていた。だが二人は決して歩みを止めなかった。
小さな街のライブハウスから、大学のホール、都市の路地裏ステージまで、二人は駆け抜けた。
ギターのコードを押さえるクロエの指は震え、息は荒い。
それでもステージに立つと、彼女の瞳はまるで別人のように輝いた。
「今日も最高の音を出すよ」
クロエは弱々しい声で言ったが、その笑顔はいつもの鋭さと優しさを持っていた。
ハルは彼女の背中を押し、ギターを抱えながら隣で演奏する。
観客はその熱を敏感に感じ取り、手拍子で応えた。
ツアー中、二人は困難に直面することもあった。
ホテル代が払えず、夜通し路地で眠った日もある。
ハルがギターを抱えて歌うクロエを守り、彼女を励ます。
「無理すんなよ……」
「無理じゃない。これは生きるための歌だから」
クロエは微笑む。疲れた体に鞭を打ちながらも、魂を込めて歌った。
ある街で、テレビの音楽オーディション番組の出演が決まった。
全国放送のステージ。緊張と期待が入り混じる中、クロエは息を整えた。
医師からは「もって数週間」と告げられていたが、彼女は微塵も弱気を見せない。
「ステージで燃え尽きる。これが私の選択だから」
予選、準々決勝、準決勝。
クロエは弱々しい体ながらも、魂の声で歌い上げた。
観客の涙、拍手、歓声――すべてが彼女の生きる証となった。
ハルは横でギターを鳴らし、クロエを支える。
心の中では恐怖が渦巻く。
「もし最後のステージで……倒れたら……」
しかし彼女は振り返り、微笑む。
「心配しないで。あたし、死なない。音の中で生きてる」
夜、ホテルのベッドで二人は静かに寄り添う。
クロエの手は冷たいが、温もりを感じる。
「ハル……ありがとう。最後まで一緒にいてくれて」
「当たり前だろ。俺はずっと隣にいる」
最後のツアーは、街と街、人々の声と歓声、そして二人の音楽で彩られた。
クロエの歌声は、弱さと強さ、孤独と優しさを全て含んでいた。
ステージを降りた彼女は、まだ立っていられることに微笑み、ハルと手を取り合った。
夜空を舞う青い蝶が、二人の旅路を祝福するかのように揺れた。
光と影が交錯する中で、クロエはステージで燃え尽きる覚悟を胸に、最後の音を鳴らすことを誓ったのだった。
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