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ギャングの情報屋拠点。叶が小さく手を振ると、葛葉は反射的に近づく。
「葛葉、今日の任務……僕と一緒に行こうか」
「え、俺? 不破もいるんじゃ……」
「ううん。今回は“葛葉とじゃなきゃできない”やつだから」
そう言って叶は、意味ありげに笑った。
いつもの柔らかい声なのに、今日はどこか甘さが強い。
葛葉は首を傾げながらも、胸がきゅっと高鳴るのを抑えられなかった。
装備を整えるため、狭い準備室に二人で入った時。
叶は背後から葛葉の肩越しに覗き込み、
自分の手で葛葉の胸元のホルスターを直し始めた。
「ちょ、叶……自分でできるって……」
「だめ。葛葉、こういう所ちょっと雑だから」
指先が、葛葉の肩をすべって首元に触れる。
ひやっとした指の温度が、ぞくりと背筋を走らせた。
「ほら……動かないで。僕がやるから」
耳元で囁かれる声は、いつもより低くて甘い。
葛葉の耳がじわじわ赤く染まる。
(……なんだよ、これ……)
叶はそんな葛葉の反応を、こっそり楽しんでいた。
(照れてる、!もっと見せて……)
準備室の扉が開き、2人が出てくると、
不破湊は壁にもたれながら、いつものように明るく笑った。
「行ってらっしゃい。任務、気をつけてね」
一見、いつもの不破湊。
明るくて、軽くて、余裕のある笑顔。
……だけど。
葛葉の腰元に触れていた叶の手。
耳を赤くした葛葉の横顔。
それを見た瞬間、
不破湊の胸の奥に、ざらりとした焦りが広がる。
(……叶さん、マジだ)
(ずは、あんな顔……俺にだけ見せてほしいのに)
笑顔は崩さない。
むしろ少しだけ柔らかくなる。
「葛葉……無茶すんなよ?
帰ってきたら、話……聞かせろよ」
その声には、叶だけが気づくほどの低く鋭い棘が含まれていた。
叶は微笑んだまま、静かに応える。
「もちろん。葛葉は僕が守るから」
(……挑発してきたな)
不破湊の指先が小さく震えた。
胸の奥で、独占欲がじりじりと形を変えていく。
葛葉はただ、不破の少し強ばった表情に不安を感じながら、二人の空気に気づかず
戸惑い気味に後ろを振り返るだけだった。
任務地へ向かう車内。
助手席に座る葛葉は、何度も横目で叶を見た。
さっきから距離がすごく……近い。
「叶、今日ちょっと……優しすぎない?」
「優しかった? なにそれ笑
葛葉には、とくべつだよ?」
車を停めると、叶は顔を近づけ、指で葛葉の耳の後ろに触れた。
「……本当はさ。
僕、葛葉のこういう“警戒してる時の顔”好きなんだよね」
「っ……!」
言葉にできない震えが走る。
顔が熱い。
逃げられない。
叶の瞳は静かで優しいのに、
奥の奥に、葛葉だけを射抜くような濃い感情が宿っていた。
(叶……なんで、こんな……)
葛葉の心がまた、知らない感情に引き込まれていく。