テラーノベル
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〇〇side
廉に告白されてからもう少しで一か月経つ。どうしたらいいのか、まだ決められない。誰かに相談したいけど、知っているのはメンバーとストーンズだけ。誰に話せばいいのだろう。みんな仕事で忙しいし、迷う。
スマホを見ると慎太郎からLINEが届いていた。
慎太郎「〇〇、最近大丈夫?」
〇〇「一緒にご飯食べながら聞いてくれる?」
慎太郎「もちろん!じゃあ今度誘うね」
〇〇「ありがとう」
――裏での3人のやり取り――
慎太郎「北斗、〇〇のこと好きなら動けよ」
北斗「関係が壊れるのが怖い。Mステの楽屋の時のこと覚えてる?あの天然な行動からしてアピールしても鈍感だから無理だと思う」
樹「じゃあ〇〇も誘って飯行こう」
慎太郎「誰が誘う?」
樹「じゃんけんで決めよう」
慎太郎「負けた……俺が誘う」
――後日、〇〇からLINE――
〇〇「一緒にご飯食べながら聞いてくれる?」
慎太郎「お、いいね!ちなみに北斗と樹もいるよ」
〇〇「え、そっちも?楽しみ」
――集合場所――
LINE
慎太郎「もう着いたよ」
北斗「俺も到着」
樹「俺も来た」
〇〇「……あ、迷った!ちょっと遅れる」
慎太郎「了解、待ってる」
北斗「いつも通りだな」
樹「でもあれが素だから許す」
――全員揃い、席につく――
慎太郎「席決めようか。〇〇、どこ座る?」
〇〇「えーっと、北斗の隣は嫌かな」
北斗「なんで?」
〇〇「だって、ちょっと恥ずかしいもん」
北斗「何恥ずかしがってんだよ」
〇〇「久々だし。てか乗ってくるんだ」
北斗「乗るも何も、隣空いてるし、座るだけじゃん」
慎太郎「本当にそんな感じでいいのか……」
樹「完全に北斗が遊んでるだろ」
〇〇「じゃあ冗談だけど、やっぱり遠慮しようかな」
北斗「遠慮しなくていいよ、座りたいんだろ?」
〇〇「いや、ちょっと恥ずかしいだけ」
北斗は微笑みながら席に座り、〇〇も少し照れつつ隣に座る
北斗「ほら、座れたじゃん」
〇〇「うっさい!」
慎太郎「見てられないな」
樹「本当に何やってるんだろう」
北斗「俺は楽しんでるだけだよ」
〇〇「もう、やめてよ!!」
北斗「やめるも何も、俺ら楽しんでるだけじゃん」
――ご飯を頼み、落ち着く――
〇〇「今日は甘いものにしようかな」
北斗「甘いのか、おこちゃま笑笑」
〇〇「こいつ、、、」
慎太郎「本当にこの二人……」
樹「隣に座るだけで、こっちが恥ずかしい」
〇〇「本当に、二人ともやめて!」
北斗は少し微笑み、〇〇の言葉を軽く受け流す
北斗「やめるも何も、楽しんでるだけじゃん」
――しばらくして〇〇、本題へ――
〇〇「実はね、ちょっと相談したいことがあるんだけどさ」
慎太郎「ほら来た、聞くよ」
〇〇「このこと知ってるの、メンバーとストーンズだけだよね?誰に話すか迷ってて」
北斗は隣で黙って聞き、軽く笑みを浮かべつつも真剣な眼差し
樹「じゃあ俺たちがサポートするよ」
慎太郎「ゆっくりでいいから話せばいいよ」
〇〇「ありがとう……ちょっと緊張するけど」
北斗「俺も聞くから、安心していいよ」
〇〇は少しほっとした顔で、深呼吸しながら話を始める
〇〇「実はね……今まで、いろんな人から告白されたことがあるんだけどさ」
慎太郎「うん」
〇〇「でも正直、気持ちが動いたものもあったけど、多くは動かなかったのね。恋愛は嫌いじゃないし、むしろ好きなんだけど、仕事を優先してたんだ」
北斗「ふーん」
〇〇「仕事っていうのは私の生活の軸で、ここまで積み重ねてきたものだから。恋愛で気持ちが揺れて集中できなくなるのが怖かった。でも、廉から告白されて……正直揺れてる自分がいる」
北斗は軽く頷く程度で、あえて深く反応はせず、少し距離を感じさせる雰囲気になる。
樹「そっか……でも、迷うのは当然だよ」
〇〇「そうかな……でも、まだ答えを出す勇気がなくて」
慎太郎「ゆっくりでいいよ。俺たちがいるから」
〇〇「ありがとう……」
北斗は少し微笑むが、目はどこか冷静で、わずかに距離を置く。〇〇はその冷たさに少し気づくが、話は続ける。
〇〇「廉のことは特別で……告白された後、自分でも驚くくらい気持ちが動いたんだ」
北斗「そうなんだ……」
(心の中で、少し嫉妬が渦巻く)
北斗(心の声)
そうか……俺じゃなくて、廉のことを気にしてるんだ。そりゃ当然かもしれないけど……なんでこんなに悔しいんだ
〇〇「でも、まだ答えを決められなくて……」
北斗「…まあ、そうだよね」
(言葉は短く、少し冷たさを含ませる)
慎太郎「でも話せてよかったじゃん。俺たちも聞けて嬉しい」
〇〇「うん、ありがとう」
北斗は隣で微笑むが、どこか胸の奥はざわついている。
――――――――――
その後、ご飯は普通に進む。北斗はわざと話をそらすように軽口を言ったりして、表面上は普通に会話する。しかし心の中は嫉妬と悲しみに沈んでいた。〇〇は楽しそうに話すが、北斗の視線は時折、〇〇が廉の話題に触れるたびに鋭くなる。
――帰宅――
北斗side
家に着き、ドアを閉める。静かな部屋の中、肩の力が抜けると同時に、胸にぽっかり穴が空いたような気持ちが押し寄せる。
北斗(心の声)
俺は……〇〇のことが好きだ。ずっと、前から。
でも、今〇〇は……他の男のことを気にしてる。廉のこと。あの告白以来、〇〇の心が揺れているのが手に取るように分かる。
北斗はソファに腰を下ろし、頭を抱える。目はスマホの通知を何度も確認するが、〇〇からの連絡はない。
北斗(心の声)
嫉妬だ……嫉妬してる。
ご飯一緒に食べれて嬉しいはずの話なのに、俺は胸が痛い。
〇〇が楽しそうにしているのを見ると、嬉しいはずなのに、同時に悲しい。
俺の気持ち、届いてないんじゃないか……
深く息を吐き、頭を振る。
でも、焦ったら壊れる……今は見守るしかない。
俺が動くことで〇〇を迷わせるくらいなら、黙って待つしかない。
でも……このもどかしさは、どうすればいいんだ
窓の外を見つめ、夜の静けさに心を沈める。
〇〇のことを想うたび、胸の奥で嫉妬と悲しみが混ざった感情が波打つ。
北斗(心の声)
いつか……〇〇が俺を見てくれるその時まで、俺は耐えるしかないんだろうな
静かな部屋の中、北斗の孤独な覚悟が静かに広がっていった。
部屋の明かりを落としても、全然眠くならない。
ソファに沈み込んだまま、スマホを手に取る。
画面を開くと、一番上に〇〇の名前。
北斗(心の声)
……連絡、するか?
いや、何て送るんだよ。
「今日はありがとう」?普通すぎる。
「ちゃんと考えろよ」?それは違う。
「俺はお前が好きだ」……それはもっと違う。
親指がトーク画面を開いたまま止まる。
〇〇が廉の話をしていた時の表情が頭に浮かぶ。
少し照れて、でも真剣で、迷っていて。
北斗(心の声)
あんな顔、俺の前でしないでくれよ。
期待しそうになるだろ。
一度画面を閉じる。
深呼吸。
でもまた開く。
北斗(心の声)
このまま何も送らない方が、大人だよな。
でも……今日、あんな話したあとだぞ。
何もない方が変じゃないか?
スマホを握り直す。
文字を打つ。消す。
打つ。消す。
そして、ようやく決める。
北斗「今日は話してくれてありがと。ちゃんと聞けてよかった」
送信ボタンを押した瞬間、心臓が少し跳ねる。
北斗(心の声)
今さら何ビビってんだよ。
数分。
既読はつかない。
北斗は天井を見つめる。
北斗(心の声)
別に返信なんて期待してない。
……いや、ちょっとはしてる。
スマホが震える。
〇〇「こちらこそありがとう。話せてよかった」
短い文章。
でも、ちゃんと〇〇らしい柔らかさがある。
北斗(心の声)
……よかった。
画面を見つめたまま、少しだけ指が動く。
北斗「焦らなくていいと思うよ。〇〇のペースで」
送る前に、一瞬止まる。
北斗(心の声)
これでいい。
背中押しすぎない。
でも、離れすぎない。
送信。
少しして返信。
〇〇「うん。ありがとう。なんか安心した」
その一文で、胸がぎゅっと締め付けられる。
北斗(心の声)
安心、か。
それでいい。今はそれで。
恋人じゃない。
特別でもない。
でも、〇〇が迷った時に思い出す存在でいたい。
北斗はスマホを胸の上に置き、目を閉じる。
嫉妬も悲しみも消えない。
廉の存在も消えない。
それでも。
北斗(心の声)
俺はまだ、諦めない。
〇〇が誰を見るか、最後まで見届ける。
スマホを胸の上に置いたまま、天井をぼんやり見ている。
さっきのやり取りを何度も思い返す。
〇〇「うん。ありがとう。なんか安心した」
その一文が、ずっと残っている。
北斗(心の声)
安心、か。
俺は安心枠か。
……いや、それでもいい。今は。
目を閉じようとしたその時、スマホがもう一度震える。
画面を見る。
〇〇「ねえ」
北斗の心臓が一瞬強く鳴る。
〇〇「今度また、ちゃんと話してもいい?」
一瞬、呼吸が止まる。
北斗(心の声)
また、って。
俺でいいのか。
既読をつける前に、少しだけ迷う。
期待してしまいそうになる自分を抑える。
でも結局、画面を開く。
北斗(心の声)
ここで距離取ったら、後悔する。
ゆっくり文字を打つ。
北斗「もちろん。いつでもいいよ」
送信。
すぐに既読がつく。
〇〇「ほんと?ありがとう!!」
〇〇「なんかさ、今日話してみて思ったけど」
〇〇「北斗、ちゃんと聞いてくれるから!」
胸の奥が熱くなる。
北斗(心の声)
やめろよ。
そんなこと言われたら、余計に好きになる。
返信を考える。
強くも出ない。
軽くもしない。
北斗「聞くくらいならできるから」
〇〇「それが助かるんだってば」
少し笑ってしまう。
北斗(心の声)
廉のことを考えてるのに、
こうやって俺に連絡してくるんだな。
嬉しい。
でも苦しい。
〇〇「ちゃんと自分の気持ち整理したい」
〇〇「また迷ったら付き合ってよ」
北斗は一度目を閉じる。
北斗(心の声)
迷った時の相手が俺。
それはチャンスなのか、ただの安全地帯なのか。
でも。
北斗「いくらでも付き合うよ」
送信。
〇〇「ありがとう。おやすみ」
北斗「おやすみ」
トーク画面が静かになる。
北斗はスマホを握ったまま、静かに息を吐く。
北斗(心の声)
俺は待つ側か。
でも、完全に外れてるわけじゃない。
〇〇がまた話したいと思った。
それだけで、今日の嫉妬も悲しみも、少しだけ和らぐ。
北斗(心の声)
次は、もう少しだけ近づけるか。
暗い部屋の中で、
ほんのわずかな希望を抱えながら、北斗は目を閉じた。
ーーーーーーーー☀️
朝。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
昨日のLINEを思い出す。
〇〇「今度また、ちゃんと話してもいい?」
その一言が、まだ胸の奥に残っている。
北斗(心の声)
また、か。
俺に話したいって思ってくれたんだよな。
スマホを手に取る。
通知欄にマネージャーからの連絡。
「本日、映画『秒速5センチメートル』単独インタビュー解禁です。朝から取材続きです」
北斗は画面をじっと見る。
北斗(心の声)
今日だったか。
主演映画『秒速5センチメートル』。
ずっと向き合ってきた作品。
静かで、繊細で、どうしようもなく切ない物語。
現場で感じた感情が、ふと蘇る。
届きそうで届かない距離。
好きなのに、すれ違う時間。
北斗(心の声)
……タイミング悪いな。
〇〇のことが頭に浮かぶ。
好きな人がいて、
でもその気持ちはまだ定まっていなくて、
揺れている。
まるで映画の中の主人公みたいだ、と一瞬思う。
――――――
スタジオ。
カメラ、ライト、静かな空気。
インタビュアー「主演おめでとうございます。今回の『秒速5センチメートル』、どんな思いで演じられましたか?」
北斗「ありがとうございます。すごく繊細な作品なので、感情を大きく出すというよりは、抑えることを意識しました」
インタビュアー「抑える、ですか?」
北斗「はい。言えなかった言葉とか、伝えられなかった気持ちとか。そういう“間”を大事にしました」
自分で言いながら、胸が少しざわつく。
北斗(心の声)
言えなかった言葉。
まさに今の俺じゃん。
インタビュアー「主人公は、想い続ける男性ですよね」
北斗「そうですね。相手が別の道を選ぶかもしれない。それでも、想い続ける。そういう不器用さに共感しました」
インタビュアー「松村さんご自身は、想い続けるタイプですか?」
一瞬、間。
北斗「……たぶん、そうだと思います」
スタッフが少しざわつく。
穏やかに微笑む。
北斗「簡単に諦められるなら、こんな役はできないと思うので」
北斗(心の声)
諦められるわけないだろ。
〇〇の笑顔が浮かぶ。
昨日、安心したって言ってくれた顔。
インタビューは続く。
インタビュアー「この映画は“距離”がテーマでもありますが」
北斗「距離って、物理的なものだけじゃないと思うんです。気持ちの距離とか、タイミングとか。ほんの少しずれるだけで、すれ違うこともある」
北斗(心の声)
今の俺と〇〇も、そうなのかもしれない。
廉という存在。
〇〇の揺れている心。
自分はその隣にいるのに、中心じゃない。
インタビュアー「最後に、作品を楽しみにしている方へメッセージを」
北斗「この作品は派手ではないです。でも、きっと誰かの記憶や経験に重なる瞬間があると思います。届かないかもしれない想いも、無駄じゃないって思ってもらえたら嬉しいです」
撮影が終わる。
「お疲れさまでした」と声が飛び交う。
北斗は一人、控室に戻る。
ソファに座り、スマホを開く。
〇〇からはまだ連絡はない。
北斗(心の声)
昨日は俺に話したいって言ったくせに。
……いや、忙しいだけだろ。
画面を閉じる。
主演映画の解禁日。
本来ならもっと高揚していてもいいはずなのに。
北斗(心の声)
俺が想い続ける役、か。
現実の方がよっぽど難しい。
ふと、昨日送った言葉を思い出す。
「いくらでも付き合うよ」
北斗(心の声)
言ったからには、覚悟決めろよ、俺。
嫉妬もある。
不安もある。
でも、逃げないと決めた。
主演として立つ今日。
そして、一人の男として立ち続ける今日。
北斗は静かに立ち上がる。
北斗(心の声)
秒速でもいい。
少しずつでいい。
いつか、俺の方を向かせる。
そう心の中で呟き、次の取材へ向かった。
ーーーーーーーー
〇〇side
朝。
ヘアメイク中、スタッフに声をかけられる。
スタッフ「今日、松村北斗さんの主演映画の単独インタビュー解禁ですよ」
〇〇「え、もうそんな時期?」
軽い気持ちでスマホを開く。
トップに出てきた記事。
『松村北斗、想い続ける男を熱演』
〇〇「へえ、想い続ける、か」
なんとなくタップする。
“相手が別の道を選ぶかもしれない。それでも想い続ける”
〇〇(心の声)
難しそうな役だなあ。北斗っぽいけど。
“簡単に諦められるなら、こんな役はできないと思う”
〇〇は小さく笑う。
〇〇「真面目だよね、本当」
そこに特別な意味なんて考えていない。
ただ、役とちゃんと向き合っているんだなと思っただけ。
〇〇(心の声)
主演だもんね。プレッシャーもあるよね。
写真の中の北斗は、落ち着いていて、少し大人びて見える。
〇〇(心の声)
なんか遠く感じるな。主演俳優って感じ。
ふと、昨日のLINEを思い出す。
「いくらでも付き合うよ」
あれはきっと、友達としての優しさ。
昔から変わらない距離感。
〇〇(心の声)
やっぱり北斗と話すと安心するんだよな。
廉のことが頭をよぎる。
真っ直ぐな告白。
ちゃんと向き合わなきゃいけない人。
〇〇(心の声)
だからこそ、ちゃんと整理したい。
スマホを開いて、北斗とのトーク画面を表示する。
少し迷ってから、打ち込む。
〇〇「おはよう。インタビュー見たよ」
既読。
北斗「早いね」
〇〇「主演って感じだった」
北斗「どういう意味それ」
〇〇「ちゃんと俳優してるなって意味」
北斗「一応いつもしてるけど」
〇〇はくすっと笑う。
やっぱりこの感じ、落ち着く。
少し間をあけて、続ける。
〇〇「ねえ」
北斗「ん?」
〇〇「この前、また話そうって言ったじゃん」
北斗「うん」
〇〇は深呼吸する。
〇〇(心の声)
変に考えなくていい。ただ予定を聞くだけ。
〇〇「次、いつ会える?」
送信。
ドキドキはするけど、それは“話さなきゃいけないこと”があるから。
北斗「急だな」
〇〇「ちゃんと話したいから」
北斗「……そっか」
少し間があって。
北斗「明後日の夜なら空いてる」
〇〇はスケジュールを確認する。
〇〇「私もいける」
北斗「じゃあその日」
〇〇「うん、ありがとう」
スマホを閉じる。
〇〇(心の声)
よし。
北斗の気持ちなんて、考えたこともない。
ずっと隣にいる幼なじみで、戦友みたいな存在。
だからこそ、正直に話せる。
〇〇(心の声)
ちゃんと整理しないと。
廉のことも、自分の気持ちも。
窓の外を見る。
明後日。
ただの話し合いのはず。
そう思っているのは、きっと自分だけ。
ーーーー
北斗side
あれから1日が経った。
仕事を終えて、車に乗り込む。
今日、話す日。
スマホを何度も確認してしまう自分に苦笑する。
北斗(心の声)
落ち着け。
ただ話すだけだろ。
震える通知。
〇〇からのLINE。
〇〇「今日どこで話す?」
北斗は少し考える。
外だと人目がある。
でも――
返信を打とうとした瞬間、もう一件。
〇〇「私の家においでよ」
……は?
画面を二度見する。
北斗(心の声)
え?
〇〇「外だと落ち着かないし」
〇〇「ちゃんと話したいから」
北斗はスマホを持ったまま固まる。
北斗(心の声)
無防備すぎるだろ。
自分がどんな気持ちでいるか、あいつは知らない。
好きな女の家に、夜、二人きりで来いって。
北斗(心の声)
本当に何も考えてない顔して言ってるんだろうな。
頭の中に、〇〇の部屋が浮かぶ。
ソファ。
いつも飲んでるマグカップ。
ラフな部屋着姿。
北斗は深く息を吐く。
北斗(心の声)
試されてるのか?
いや、違う。あいつは本気でただの“話し合い”のつもりだ。
だから余計に危うい。
北斗「本気で言ってる?」
送信。
すぐ既読。
〇〇「うん?」
〇〇「何か問題ある?」
北斗は額に手を当てる。
北斗(心の声)
問題しかないだろ。
でも、それを言える立場でもない。
北斗「いや、ないけど」
〇〇「じゃあ決まり」
〇〇「先に帰ってるね」
あっさり。
北斗はスマホを握りしめる。
北斗(心の声)
本当、無防備。
俺がどれだけ必死で抑えてるか、知らないくせに。
車の窓に映る自分の顔は、思ったより真剣だった。
北斗(心の声)
家に行ったら、たぶん廉の話だよな。
好きな男の相談を、好きな女の部屋で聞く。
地獄か。
それでも。
北斗(心の声)
逃げる選択肢はない。
「いくらでも付き合うよ」
自分で言った言葉。
北斗「分かった。30分後くらいに着く」
送信。
既読。
〇〇「了解」
それだけ。
北斗はシートに深く背を預ける。
北斗(心の声)
覚悟決めろ。
今日、何を聞かされても顔に出すな。
でも一つだけ。
北斗(心の声)
少しでも、俺の方を見てくれる瞬間があればいい。
好きな女の家に向かう夜。
期待と嫉妬と、不安を抱えたまま。
ーーーーーーーーーーーー
北斗side
マンションのエントランス。
ガラス越しに見えた姿に、一瞬息が止まる。
ラフな格好。
少しだけ巻いた髪。
スマホをいじりながら、時々入口を見る。
北斗(心の声)
……本当に何も考えてない顔。
自動ドアが開く。
〇〇「お疲れ」
北斗「お疲れ」
自然な距離。
でも今日は、少しだけ緊張しているのが分かる。
並んでエレベーターへ向かう。
無言。
エレベーターの扉が閉まる。
狭い空間。
ふわっと香る、いつもの匂い。
〇〇「今日はありがとう」
不意打ち。
北斗「まだ何もしてないけど」
〇〇「来てくれただけで十分」
北斗は視線を逸らす。
北斗(心の声)
だから無防備なんだよ。
エレベーターが止まる。
廊下を歩き、〇〇が鍵を開ける。
カチャ、と静かな音。
〇〇「どうぞ」
北斗は一瞬だけ躊躇う。
北斗(心の声)
入ったら、戻れない気がする。
でも足は止まらない。
部屋に入る。
いつもの空気。
柔らかい照明。
きちんと整えられたリビング。
北斗は自然と部屋全体を見回す。
北斗(心の声)
ここで、あいつは一人で考えてるのか。
〇〇「ソファ座ってて」
北斗「うん」
腰を下ろす。
クッション。
テーブル。
生活感。
心臓の音がやけに大きい。
キッチンから水の音。
〇〇「はい」
コップを差し出される。
北斗「ありがと」
少しだけ指が触れそうになって、避ける。
沈黙。
〇〇は向かいに座る。
〇〇「ちゃんと話そうと思って」
北斗「うん」
真剣な顔。
北斗(心の声)
廉のことだな。
覚悟を決める。
〇〇「実はさ」
北斗「うん」
〇〇「明日、映画の公開初日舞台挨拶があるの」
北斗は一瞬、瞬きをする。
北斗「……急だな」
〇〇「正式発表はまだなんだけど」
〇〇は少し困ったように笑う。
〇〇「だから、ちょっと気持ちが落ち着かなくて」
北斗は黙って聞く。
北斗(心の声)
廉の話じゃない?
〇〇「最近、いろいろ考えてて」
北斗「うん」
〇〇「舞台挨拶ってさ、作品のスタートじゃん」
北斗「そうだな」
〇〇「だから、ちゃんとした気持ちで立ちたいの」
北斗はコップを置く。
北斗(心の声)
……ちゃんとした気持ち。
〇〇は視線を落とす。
〇〇「中途半端なまま出たくない」
部屋が静まる。
北斗はゆっくり息を吐く。
北斗(心の声)
それで俺を呼んだのか。
〇〇「北斗はさ」
名前を呼ばれるだけで、胸が跳ねる。
〇〇「主演の初日って、どんな気持ちだった?」
北斗は少し考える。
北斗「怖かった」
〇〇が顔を上げる。
北斗「作品を背負うってことは、逃げられないってことだから」
〇〇は真剣に聞いている。
北斗(心の声)
好きだな、こういう顔。
北斗「でも」
〇〇「でも?」
北斗「ちゃんと向き合ってるなら、大丈夫だよ」
静かに言う。
北斗「中途半端じゃないなら」
〇〇は小さく頷く。
〇〇「……そっか」
北斗はその横顔を見つめる。
北斗(心の声)
廉の話じゃない。
でも、いずれは出てくる。
今日ここに来た理由は、きっとそれだけじゃない。
〇〇「北斗」
北斗「ん?」
〇〇は少し迷うように唇を動かす。
この先、何を言うのか。
北斗は覚悟する。
部屋の空気が、少しだけ変わる。
北斗side
部屋の空気が、少し変わる。
〇〇「北斗」
北斗「ん?」
〇〇は少しだけ視線を泳がせる。
〇〇「さっきの話だけど」
北斗は黙って待つ。
〇〇「ちゃんと向き合ってるなら大丈夫って言ったよね」
北斗「言った」
〇〇「……私、ちゃんと向き合えてるのかな」
来た。
北斗(心の声)
やっぱりそっちか。
〇〇は膝の上で手を握る。
〇〇「廉のこと」
胸が、ずきっとする。
北斗「うん」
できるだけ平坦に返す。
〇〇「告白されて、もうすぐ一ヶ月でしょ」
北斗「そうだな」
〇〇「待ってくれてるの分かってるし、真剣なのも分かってる」
北斗は視線を落とす。
北斗(心の声)
分かってるなら、答え出してやれよ。
でも言わない。
〇〇「なのに、私ずっと決めきれなくて」
〇〇は少し笑う。弱い笑い方。
〇〇「最低だよね」
北斗「最低ではないだろ」
即答だった。
〇〇が驚いて顔を上げる。
北斗は少しだけ息を整える。
北斗「簡単に決められる方が怖い」
本音だった。
〇〇は少し安心したように息を吐く。
〇〇「でもさ」
北斗「うん」
〇〇「最近、自分の気持ちがよく分からなくて」
北斗の鼓動が速くなる。
〇〇「廉のこと、ちゃんと向き合わなきゃって思うのに」
〇〇は少し言葉を探す。
〇〇「……違うことで頭がいっぱいになる時があって」
北斗の喉が乾く。
北斗(心の声)
それ、誰だよ。
〇〇「だから今日、北斗に聞きたかった」
北斗「何を」
〇〇「好きって、どうやって分かるの?」
その質問は、あまりにも無防備だった。
北斗は一瞬、笑いそうになる。
北斗(心の声)
それを俺に聞くなよ。
北斗「分からないままのこともある」
〇〇「え」
北斗「気づいたら手放せなくなってるとか」
自分で言いながら、苦しくなる。
北斗「他の男の話されて、妙にイライラするとか」
言ってから、しまったと思う。
〇〇「イライラ?」
北斗は視線を逸らす。
北斗「例えばの話」
〇〇は少し首をかしげる。
〇〇「北斗って、嫉妬とかするの?」
北斗は数秒黙る。
北斗「するだろ」
声が少し低くなる。
〇〇「へえ笑笑」
無邪気な相槌。
北斗(心の声)
本当に気づいてない。
〇〇はソファに深く座り直す。
〇〇「私、ちゃんと決めたい」
北斗の胸が締め付けられる。
〇〇「明日の舞台挨拶、曖昧なままで立ちたくない」
北斗「それは分かる」
〇〇「でも怖い」
やっと、弱さがこぼれる。
〇〇「選ぶってことは、誰かを傷つけるってことでしょ」
北斗はゆっくり息を吐く。
北斗「そうだな」
〇〇「どうしたらいいの?」
その声は、本当に迷っている声だった。
北斗は立ち上がる衝動を必死で抑える。
抱きしめたい。
言ってしまいたい。
北斗(心の声)
俺を選べって。
でも、言わない。
北斗「自分が後悔しない方を選べばいい」
〇〇「後悔しない方」
北斗「他人基準じゃなくて」
〇〇はじっと北斗を見る。
〇〇「北斗は?」
北斗「何が」
〇〇「もし選ぶ側だったら」
沈黙。
北斗はゆっくり答える。
北斗「俺は」
喉が熱い。
北斗「好きな方を選ぶ」
〇〇は少しだけ目を見開く。
北斗は続ける。
北斗「たとえ報われなくても。」
部屋が静まる。
〇〇「……それ、つらくない?」
北斗は小さく笑う。
北斗「慣れてる」
一瞬だけ、本音が漏れる。
〇〇はその言葉の意味を深く考えない。
〇〇「北斗って本当不器用だよね」
北斗(心の声)
お前のせいだよ。
〇〇は立ち上がる。
〇〇「明日、ちゃんと立つ」
北斗も立ち上がる。
〇〇「ありがとう」
北斗「礼言うの早い」
〇〇は少し笑う。
でも、空気はまだ張り詰めている。
玄関まで送られる。
ドアの前。
〇〇「また報告するね」
北斗「うん」
ドアノブに手をかけた瞬間。
北斗は一瞬だけ振り返る。
言うか。
今。
喉まで出かかった言葉。
でも――
北斗「舞台挨拶、頑張れ」
それだけ。
〇〇「うん!」
ドアが閉まる。
廊下に一人。
北斗(心の声)
また言えなかった。
エレベーターに乗る。
北斗(心の声)
好きな方を選べって言ったの、俺だからな。
もしその好きが自分じゃなくても。
それでも。
北斗(心の声)
逃げない。
嫉妬も、悲しみも抱えたまま。
でもまだ、終わっていない。
ーーーーーーーー
その日の深夜🌙
廉side
深夜1時過ぎ。
部屋は暗い。
スマホの光だけが顔を照らしている。
明日――
「消えゆく君のために、僕は笑っていよう」初日舞台挨拶。
〇〇と並ぶ日。
なのに、胸がざわついている。
廉(心の声)
今日、北斗と会ったやろ。
確信はない。
でも分かる。
〇〇の返信の間。
言葉の選び方。
少しだけ遠い感じ。
廉はスマホを握り直す。
逃げたくない。
でも重くなりすぎたくもない。
それでも今日は――
廉「起きてる?」
送信。
既読。
〇〇「起きてるよ」
早い。
廉(心の声)
俺の連絡、ちゃんと待ってる顔やな。
廉「明日、いよいよやな」
〇〇「うん」
〇〇「ちゃんと立てるかな?笑笑」
廉は少しだけ笑う。
廉「今日誰かに相談でもした?」
既読。
止まる。
長い。
〇〇「うん」
やっぱり。
廉(心の声)
北斗やな。
廉「そっか」
数秒、打たない。
廉「俺のこと、ちゃんと考えてる?」
既読。
〇〇「考えてるよ」
その“よ”が曖昧。
廉「他に気になるやつ、おる?」
直球。
既読。
長い沈黙。
廉(心の声)
逃げんな。
〇〇「……分からない」
廉は目を閉じる。
終わってない。
でも、始まってもいない。
廉「分からんのは、もう半分答えや」
送ってから少し後悔する。
〇〇「そうかな」
廉は息を吐く。
廉「俺は待つって言った」
〇〇「うん」
廉「でもな」
一拍。
廉「明日、俺の隣に立つのは俺」
〇〇「……うん」
廉「その時間で、ちゃんと分からせる」
既読。
〇〇「分からせるって何?」
廉「俺を選ばんと後悔するってこと」
送信。
心臓が速い。
〇〇「強いね」
廉「強くならんと負けるから」
打ったあと、消したくなる。
でも消さない。
〇〇「明日、終わったら会える?」
廉は一瞬止まる。
廉「会おう」
〇〇「うん」
廉「舞台挨拶、俺のことだけ見といて」
〇〇「無理」
廉「半分でええ」
少しだけ笑いの空気。
でも本気だ。
廉(心の声)
北斗が何も言わへんなら。
俺が取りに行く。
廉「おやすみ」
〇〇「おやすみ」
通話終了。
暗い部屋。
廉(心の声)
明日、決める。
待つ男は、今日で終わりや。
ーーーーーーー
〇〇side
深夜1時過ぎ。
ベッドの上。
部屋は暗いのに、頭の中だけがうるさい。
明日――
「消えゆく君のために、僕は笑っていよう」初日舞台挨拶。
廉と並んで立つ日。
なのに、心は落ち着かない。
今日、北斗と話した。
「後悔しない方を選べばいい」
「好きな方を選ぶ」
あの言葉が、ずっと残っている。
スマホが震える。
廉「起きてる?」
〇〇(心の声)
来た。
〇〇「起きてるよ」
すぐ返す。
待ってたわけじゃない。
……たぶん。
廉「明日、いよいよやな」
〇〇「うん」
〇〇「ちゃんと立てるかな」
本音がこぼれる。
廉「今日誰かに相談でもした?」
指が止まる。
〇〇(心の声)
どうして分かるの。
〇〇「うん」
送信。
胸が少しざわつく。
廉「俺のこと、ちゃんと考えてる?」
〇〇は天井を見る。
〇〇(心の声)
考えてる。ずっと。
でも、それだけじゃない。
〇〇「考えてるよ」
送る。
でも自分でも分かる。
この言葉は少し曖昧。
廉「他に気になるやつ、おる?」
心臓が跳ねる。
〇〇(心の声)
気になる……?
北斗の顔が浮かぶ。
でもそれを“好き”とはまだ言えない。戦友。
〇〇「……分からない」
正直に送る。
既読。
時間が止まったみたい。
廉「分からんのは、もう半分答えや」
〇〇は息を止める。
〇〇(心の声)
そうなの?
廉「俺は待つって言った」
〇〇「うん」
廉「でもな」
鼓動が速い。
廉「明日、俺の隣に立つのは俺」
その言葉が、真っ直ぐ胸に刺さる。
〇〇「……うん」
廉「その時間で、ちゃんと分からせる」
〇〇は小さく笑う。
〇〇「分からせるって何」
廉「俺を選ばんと後悔するってこと」
強い。
逃げない。
〇〇(心の声)
ずるい。
こんな風に言われたら、揺れるに決まってる。
〇〇「強いね笑」
廉「強くならんと負けるから」
“負ける”
その言葉に、胸がきゅっとなる。
〇〇「明日、終わったら会える?」
自分から言っている。
〇〇(心の声)
決めたい。
廉「会おう」
〇〇「うん」
廉「舞台挨拶、俺のことだけ見といて」
〇〇「無理」
即答。
廉「半分でええ」
少し笑ってしまう。
でも通話が終わったあと。
部屋はまた静か。
通話が終わったあと。
部屋は静か。
スマホを胸の上に置いたまま、天井を見つめる。
廉の言葉は真っ直ぐだった。
「俺を選ばんと後悔する」
強いな、と思う。
ちゃんと向き合ってくれている人の言葉。
〇〇(心の声)
私はちゃんと応えなきゃいけないよね。
ふと、今日の夜を思い出す。
北斗の部屋じゃなくて、自分の部屋。
ソファに座る北斗。
落ち着いた声。
「後悔しない方を選べばいい」
〇〇は小さく息を吐く。
〇〇(心の声)
北斗は本当、頼れる。
昔からそうだ。
仕事で悩んだ時も、叩かれた時も、
隣で何も言わずにいてくれた。
戦友。
それが一番しっくりくる。
〇〇(心の声)
だから安心して家にも呼べるし、夜でも普通に話せる。
もし北斗が自分を好きだなんて思っていたら、
あんな風に自然にいられない。
でもそんな想像、そもそも浮かばない。
〇〇「北斗が嫉妬ね」
思い出して、少し笑う。
あれはきっと、一般論。
役の話。
“例えば”の話。
〇〇(心の声)
北斗はそういうの、ちゃんと線引きするタイプだもん。
自分に向く感情だなんて、1ミリも思っていない。
〇〇(心の声)
私のことを好きになる人って、もっと分かりやすいタイプだと思う。
廉みたいに、言葉にする人。
北斗は違う。
北斗は仲間。
仕事のパートナー。
お互い背中を預けられる存在。
恋愛の対象として、考えたことすらない。
〇〇(心の声)
だから、安心して相談できるんだよ。
ベッドで寝返りを打つ。
明日、隣に立つのは廉。
〇〇(心の声)
ちゃんと見なきゃ。
廉の本気。
自分の気持ち。
北斗のことは――
〇〇(心の声)
大丈夫。
あの人は強いし、ブレないし、
私がいなくてもちゃんと立ってる。
そう思い込んでいる。
その“思い込み”が、どれだけ残酷かも知らずに。
目を閉じる。
〇〇(心の声)
明日で、少しは分かるかな。
好きって気持ち。
姫野〇〇はまだ、北斗の方には一切向いていないまま。
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