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【舞台挨拶前】
〇〇side
楽屋。
衣装に着替え、鏡の前に座る。
スタッフ「あと10分です」
〇〇「はい」
手が少し冷たい。
〇〇(心の声)
隣に立つのは廉。
昨日の深夜の言葉が蘇る。
「その時間で、ちゃんと分からせる」
〇〇(心の声)
分からせるって何。
緊張なのか、別の感情なのか分からない。
コンコン、とノック。
廉「入るよ」
〇〇「うん」
ドアが開く。
廉はいつもより少しだけ真剣な顔。
廉「大丈夫か?」
〇〇「うん、なんとか」
廉「今日、俺の隣やで」
〇〇「当たり前でしょ」
軽く返すけど、胸はざわつく。
〇〇(心の声)
私、ちゃんと見れるかな。
ーーーーー
廉side
廊下。
深呼吸。
廉(心の声)
今日で動かす。
待つのは終わり。
〇〇は揺れてる。
分かってる。
なら、押す。
マネージャー「本番まもなくです」
廉「はい」
廉(心の声)
舞台の上で、嘘はつかへん。
ーーーーー
【舞台挨拶 本番】
大きな歓声。
司会「本日は映画『消えゆく君のために、僕は笑っていよう』初日舞台挨拶にお越しいただきありがとうございます!」
拍手。
キャスト、監督登壇。
〇〇と廉が並ぶ。
歓声が一段と上がる。
司会「まずは一言ずつご挨拶をお願いします」
監督「この作品は“想い続ける強さ”を描きました。派手ではありませんが、心に残る映画です」
拍手。
〇〇「本日はありがとうございます。やっと皆さんに届けられること、本当に嬉しく思います」
少し震える声。
廉が横目で見る。
廉「今日はありがとうございます。この作品は、誰かを本気で想うことの覚悟を描いています」
“本気で”の部分が、少し強い。
〇〇の心臓が鳴る。
司会「撮影中の印象的なエピソードは?」
監督「お二人は本当に息が合っていて。特にクライマックスの長回しのシーンは圧巻でした」
〇〇「監督、あれ無茶振りですよ」
笑いが起きる。
廉「でもあのシーンは大事でしたよね」
監督「ええ。感情を隠さない瞬間でした」
その言葉に、〇〇は少し息を飲む。
司会「お互いの印象はいかがですか?」
廉がマイクを持つ。
廉「〇〇は」
一瞬、間。
廉「強い人やと思ってた」
客席が静まる。
廉「でも本当は、めちゃくちゃ不器用やなって」
〇〇が驚く。
廉「ちゃんと悩むし、ちゃんと迷う」
〇〇(心の声)
なんでそんなこと言うの。
廉は続ける。
廉「だから隣におりたいと思った」
会場がざわつく。
司会「おっと?」
〇〇の鼓動が速くなる。
〇〇「ちょっと、映画の話でしょ」
笑ってごまかす。
廉「映画の話やで」
でも目は逸らさない。
司会「〇〇さんから見た廉さんは?」
〇〇は少し考える。
〇〇「真っ直ぐです」
廉がわずかに笑う。
〇〇「ぶれない人。自分の気持ちに正直で」
〇〇(心の声)
それが、今は少し怖い。
司会「この作品は“選ぶ”というテーマもあります。お二人は大きな選択を迫られたことは?」
廉が即答する。
廉「あります」
視線はまっすぐ。
廉「好きな人を諦めるかどうか」
会場がざわつく。
〇〇の呼吸が止まりそうになる。
司会「それは……?」
廉「諦めませんでした」
拍手。
廉「後悔する方が嫌やから」
その言葉は、完全に舞台の外の温度。
〇〇(心の声)
私を見てる。
逃げ場がない。
質疑応答。
記者「お二人の関係性は、現場でも特別でしたか?」
監督が答える。
監督「はい。正直に言うと、カメラが回っていない時の空気感も、そのまま使いたいと思ったくらいです」
笑い。
監督「二人とも本気でした」
廉「本気でしたよ」
視線。
〇〇の胸が揺れる。
司会「最後に、公開を記念してサプライズがあります」
会場がざわつく。
司会「本日は応援に駆けつけてくれた方がいます!」
スポットライト。
登場したのは
高橋海人。
歓声。
廉「なんでおんねん!」
海人「サプライズでーす!」
笑い。
海人はまず〇〇の前へ。
海人「先輩、公開おめでとうございます」
花束を渡す。
〇〇「ありがとう、海人」
二人は自然な距離感。
次に廉へ。
海人「廉、頑張ったな」
廉「お前絶対裏で聞いてただろ」
海人「聞いてないよー?」
会場笑い。
海人「でもさ」
少し真面目な顔。
海人「この二人、本当にいい映画作ったんで。ぜひ何回も観てください」
拍手。
廉が花束を受け取る。
〇〇の隣に立つ。
歓声。
写真撮影。
フラッシュ。
〇〇(心の声)
今、隣にいるのは廉。
その事実が、少し重い。
でも視線の奥で。
〇〇(心の声)
私は、何を見てるんだろう。
廉はそっと言う。
廉「終わったら、話そ」
〇〇は小さく頷く。
舞台挨拶は大成功。
でも。
本当の本番は、このあと。
ーーーーーーーー
Xの反応まとめ
映画「消えゆく君のために、僕は笑っていよう」公開初日舞台挨拶後
@cinema_today
廉くんと〇〇ちゃん、並びが美しすぎた…映画の世界観そのまま
@kp_tiara
廉くんの視線ずっと〇〇ちゃんに向いてなかった?優しすぎる空気
@oo_actress_fan
〇〇ちゃん今日ちょっと照れてたよね?珍しく言葉詰まってたの可愛かった
@movie_report
監督の「この2人だから成立した作品」というコメントに大きな拍手。会場の空気が温かかった
@ent_watch
舞台上の距離感が自然すぎて、本当に役を生きてきた2人なんだなと実感
@kp_fan
海斗くんサプライズ登場やばい!!同じグループから花束ってエモすぎるでしょ
@oo_support
〇〇ちゃん、海斗くん出てきた瞬間一気に素の笑顔になったの良かった
@stage_eye
廉くんが「現場で支えられてました」って真っ直ぐ言うの素敵すぎた
@drama_addict
2人の空気感が柔らかくて、見てるこっちまであったかくなった
@cinema_girl
〇〇ちゃんが廉くんの言葉に少し間を置いてから笑う感じ、リアルだったなあ
@movie_fan_jp
監督の話長めだったけど裏話たくさん聞けて嬉しい回だった!
@kp_news
トレンド入り
#消えゆく君のために
#永瀬廉
#姫野〇〇
#高橋海斗
@fan_voice
舞台挨拶ってこんなに多幸感あるんだ
@neutral_view
カップルみたいって言われるの分かるけど、あくまで作品の延長線って感じも良い
@oo_love
〇〇ちゃん今日ほんとに綺麗だった。表情が柔らかい
@kp_ren
廉くんの落ち着いたトーンが大人すぎた
ーーーーーーーーーー
北斗side
「はい、カット!――松村さん、クランクアップです!」
拍手が広がる。
主演映画
秒速5センチメートル の撮影が、今日で終わった。
花束を受け取り、深く頭を下げる。
北斗「ありがとうございました」
やり切ったはずなのに、胸の奥がざわついている。
今日は――
〇〇と廉の映画
「消えゆく君のために、僕は笑っていよう」
公開初日舞台挨拶。
約一か月前。
廉は〇〇に告白している。
それは公にはなっていない。
知っているのは、ごく一部。
そして〇〇は、まだ答えを出していない。
楽屋に戻り、スマホを開く。
タイムラインが舞台挨拶一色。
トレンド
#消えゆく君のために
#公開初日舞台挨拶
#廉くん
#〇〇ちゃん
嫌な予感がする。
記事を開く。
――――――――――
【映画「消えゆく君のために、僕は笑っていよう」公開初日舞台挨拶レポート】
本日、都内で公開初日舞台挨拶が行われ、主演の永瀬廉とヒロイン姫野〇〇、監督が登壇。
舞台上ではお互いを「信頼できる存在」「支えられた」と語り合い、会場は温かな空気に包まれた。
質疑応答では、永瀬が「撮影中、何度も救われました」とコメント。姫野も「廉の真っ直ぐさに何度も背中を押された」と語った。
終演後も2人は楽屋裏でしばらく言葉を交わしていたという。
――――――――――
北斗の指が止まる。
北斗(心の声)
終演後も、しばらく。
胸が嫌な音を立てる。
一か月前の告白。
あの日から、廉は待っている。
今日という節目の日。
言わないわけがない。
北斗「……まずい」
通話ボタンを押す。
コール音。
鳴る。
出ない。
嫌な予感が強くなる。
もう一度。
出ない。
北斗(心の声)
今、あいつといる。
完全に、そうだ。
焦りで呼吸が浅くなる。
――――――――――
一方その頃。
〇〇side
舞台挨拶を終え、楽屋裏。
緊張が抜ける。
〇〇「はあ……」
廉「お疲れさま」
少し静かな廊下。
スタッフの数も減ってきた。
廉が静かに言う。
廉「少し、いい?」
〇〇は頷く。
約一か月前の告白。
ずっと心の中にある。
廉「今日、区切りだと思って」
真っ直ぐな目。
廉「返事、聞いてもいい?」
胸が大きく揺れる。
逃げ場がない。
〇〇は視線を落とす。
〇〇「……まだ、迷ってる」
正直な気持ち。
廉は一瞬だけ息を止める。
廉「そっか」
でも目は逸らさない。
廉「俺は変わらない。待つ。でも、ちゃんと俺を見てほしい」
その言葉に、〇〇の心がまた揺れる。
その時。
〇〇のスマホが震えていた。
画面には――
北斗。
着信。
でも気づかない。
廉の目から、目を逸らせなかった。
――――――――――
北斗side
コールが切れる。
北斗「……」
間に合わなかった。
まだ告白は公になっていない。
だから外からは何も分からない。
でも分かる。
今、何かが動いている。
一か月前、
自分が言えなかった言葉。
それを、あいつは言った。
北斗(心の声)
俺は、何してるんだ。
焦りと後悔が、胸を締めつける。
好きなのに。
言わなかった自分のせいで、
今、遠くなる音がする。
一方その頃。
〇〇side
廉の目から、目を逸らせなかった。
静かな廊下。
遠くでスタッフの話し声がかすかに聞こえる。
廉は一度だけ深く息を吐いた。
廉「……待つって言ったけど」
〇〇の胸が小さく跳ねる。
廉「正直に言うと、ずっと余裕でいられるわけじゃない」
その声は落ち着いているのに、奥に熱がある。
〇〇は黙って聞くしかない。
廉「〇〇が迷ってるのは分かる。簡単なことじゃないのも分かってる」
一歩、距離が近づく。
廉「でも俺、もう何年も待つつもりはない」
空気が変わる。
〇〇「……」
廉「待つ。でも、期限のない“保留”は嫌だ」
はっきりした言葉。
廉「〇〇の中で俺がちゃんと選択肢に入ってるなら、向き合ってほしい」
心臓の音がうるさい。
廉「俺は〇〇を奪われたくない」
その一言が、強く落ちる。
〇〇「奪われるって……」
廉「〇〇の周りには人が多い。支えてくれる人も、隣にいる人も」
北斗の顔が一瞬浮かぶ。
でもそれは“仲間”。
恋ではない。
そう思っている。
廉「その中の一人のまま終わるのは嫌なんだ」
視線が真っ直ぐすぎて、逃げられない。
廉「〇〇をちゃんと好きでいたい。中途半端じゃなく」
胸が締めつけられる。
〇〇は視線を落とす。
〇〇「……まだ答えは出てない」
廉は頷く。
廉「分かってる」
でも続ける。
廉「だから言う。俺は待つ。でも、長くは待たない」
静かで、揺るがない声。
廉「〇〇が誰かに取られる前に、ちゃんと俺を見てほしい」
その瞬間、〇〇のスマホがまた震える。
画面には――
北斗の着信履歴。
さっきのもの。
胸が、ほんの少しざわつく。
廉はその一瞬の揺れを見逃さない。
廉「……今、〇〇の中に俺はどれくらいいる?」
核心。
〇〇は言葉を失う。
廉は目を逸らさない。
それだけ言って、ほんの少し距離を取る。
廉「俺は本気だから」
その言葉が、静かに重く残る。
〇〇はまだ気づいていない。
“待つ”と言いながら、
もう覚悟を決めている人の強さに。
そして――
別の場所で焦っているもう一人の存在に。
廉「次に聞く時は、ちゃんと答えがほしい」
その言葉が、まだ胸に残っている。
〇〇は小さく息を吐く。
〇〇「……分かった。ちゃんと考える」
廉は数秒、〇〇を見つめたまま何も言わない。
その視線が真剣すぎて、逃げたくなる。
でも逃げない。
廉「俺、これから取材ある」
現実に引き戻すみたいな一言。
〇〇「あ、私も移動。夜から別の現場」
お互い、止まっていられない立場。
廉は少しだけ距離を取る。
さっきまで近かった分、その一歩がやけに寂しい。
廉「今日はお疲れさま」
〇〇「うん。廉も」
沈黙。
まだ何か言い足りない空気。
でも時間がない。
スタッフが遠くから声をかける。
「〇〇さん、車準備できてます」
「永瀬さん、次お願いします」
廉は一瞬だけ目を伏せて、また〇〇を見る。
廉「……本気だから」
それだけ。
さっきよりも柔らかい声。
〇〇の胸がまた揺れる。
〇〇「……うん」
曖昧な返事。
でも、嘘じゃない。
廉はそれ以上言わない。
すれ違うように歩き出す。
数歩進んで、立ち止まる。
振り返らない。
そのまま前を向く。
廉(心の声)
次は、答えをもらう。
一方、〇〇はその背中を見つめたまま動けない。
〇〇(心の声)
どうしてこんなに重いんだろう。
好き、と即答できない自分。
でも、何も感じていないわけじゃない。
スマホを見る。
北斗の着信履歴。
胸が少しだけざわつく。
〇〇「……なんで今」
無意識の呟き。
でもすぐに首を振る。
今は仕事。
〇〇はマネージャーの元へ歩き出す。
それぞれ違う方向へ向かう二人。
同じ映画の主演。
でも、これから向き合うのは別々の現場。
止まらない日常の中で、
気持ちだけが、取り残されていく。
ーーーーーーー
北斗side
〇〇に電話をかけた夜から、折り返しはない。
履歴だけが残っている。
“発信 北斗”
“応答なし”
既読もつかないメッセージ画面。
北斗(心の声)
忙しいだけ。そうだよな。
分かってる。
舞台挨拶の日だ。
取材も山ほどある。
でも――
胸の奥がずっとざわついている。
あのあと、廉と話したはずだ。
何を言われたのか。
何を言ったのか。
想像が止まらない。
――――――――――
完成披露イベント当日
映画
秒速5センチメートル
会場は満員。
共演の 高畑充希 さんと並んでステージへ。
フラッシュが一斉に光る。
司会「松村さん、完成披露を迎えた今のお気持ちは?」
北斗「……そうですね」
一瞬、言葉が遅れる。
〇〇のことが頭から離れない。
北斗(心の声)
今、何してる。
高畑が横で小さく肘でつつく。
高畑「ちゃんと現実戻ってきてくださいよ?」
会場が笑う。
北斗「あ、すみません。嬉しいです。本当に」
なんとか言葉を繋ぐ。
司会「高畑さんから見た松村さんは?」
高畑「すごく繊細。役に入り込みすぎるくらい。でも今日ちょっとふわふわしてません?」
また笑い。
図星。
北斗「してないです」
否定しながら、視線はどこか遠い。
トークは進む。
撮影裏話。
役作りの話。
原作への想い。
でも集中が続かない。
客席の拍手が遠く感じる。
北斗(心の声)
返事、どうなった。
考えるな。
今はこの映画だ。
それでも、
“奪われたくない”
もし廉がそう言ったなら。
北斗の喉が乾く。
――――――――――
公開直前特番収録
スタジオ。
モニターに映画の名シーンが映る。
ナレーションが流れる。
司会「松村さん、今回の作品で“すれ違い”がテーマですが、ご自身はどうですか?」
一瞬、息が止まる。
すれ違い。
まさに今。
北斗「……ありますよね。タイミングって」
言葉が少し低くなる。
北斗「言えなかった一言で、全部変わることもある」
スタジオが静かになる。
高畑がちらりと横を見る。
高畑「実体験みたい」
冗談っぽく言う。
北斗は笑う。
北斗「どうでしょう」
でも目は笑っていない。
収録中も、ポケットのスマホが気になる。
震えていないのに、錯覚する。
北斗(心の声)
頼むから、連絡してくれ。
自分がどれだけ不安か、
こんなに弱いか、
きっと知らない。
収録が終わる。
拍手。
「お疲れさまでした!」
北斗はすぐスマホを見る。
通知なし。
胸が沈む。
北斗(心の声)
俺、こんなに余裕なかったっけ。
主演映画の大事な日。
本当はもっと喜ぶべきなのに。
頭の中は〇〇だけ。
好きだと認めたくないほど、
好きだ。
でも――
言ってない。
だから今、何も言える立場じゃない。
北斗はスマホを強く握る。
次に震える時、
それが救いなのか、終わりなのか。
分からないまま。
ーーーー
北斗side
公開直前特番の収録が終わった楽屋。
スタッフの声が遠く聞こえる中、北斗は一人でソファに沈んでいた。
スマホを握りしめたまま。
通知は、ない。
北斗(心の声)
やっぱり、そういうことか。
考えなくていいことまで考えてしまう。
廉と話している姿。
真剣な顔。
“長くは待たない”と言われているかもしれない〇〇。
胸が締めつけられる。
その時――
震えた。
画面に表示された名前。
〇〇
心臓が跳ねる。
一瞬、出るのが怖い。
でも指は勝手に動いた。
北斗「……もしもし」
〇〇「ごめん!」
明るい声。
北斗の思考が一瞬止まる。
〇〇「この前電話くれてたよね?気づかなかった!舞台挨拶終わってバタバタしてて」
……あれ?
北斗「……ああ」
〇〇「本当にごめんね。マネに回収されててさ、スマホ見てなかった笑」
笑っている。
いつもの、何も変わらない声。
北斗(心の声)
……それだけ?
〇〇「何だった?急ぎ?」
あまりにも普通。
北斗の中で、ぐちゃぐちゃだった不安が宙に浮く。
北斗「いや、別に。なんでもない」
〇〇「え、なにそれ。気になる」
軽いトーン。
まるで、あの日と何も変わらない距離。
北斗は少し黙る。
言えばいいのに。
言えない。
北斗「この前、舞台挨拶だっただろ。お疲れって」
〇〇「それだけ?」
笑う。
〇〇「ありがと。無事終わったよ」
その声に、裏の重さは感じられない。
廉の話も出ない。
北斗(心の声)
俺だけか。
勝手に焦って、
勝手に苦しくなって。
〇〇「北斗は?今日特番とか完成披露だったよね」
北斗「うん」
〇〇「どうだった?」
北斗は一瞬、言葉を探す。
どうだった?
頭の中は〇〇のことしかなかったのに。
北斗「……普通」
〇〇「なにそれ」
また笑う。
北斗の胸がじわっと痛む。
〇〇は何も知らない。
自分がこんなに揺れていることも。
〇〇「今度ちゃんと感想聞かせてよ」
その言い方が、仲間。
戦友。
それ以上でも以下でもない。
北斗「……ああ」
電話を切ったあと。
楽屋の静けさが戻る。
北斗(心の声)
俺、何してんだ。
奪われたわけでもない。
何かが決まったわけでもない。
〇〇はただ忙しくて、
電話を忘れていただけ。
なのに。
胸のこの重さは消えない。
廉は、動いている。
自分は、動いていない。
北斗はスマホを見つめる。
さっきまで“間に合わなかった”と思っていた。
でも本当は――
まだ何も始まっていない。
苦しいのは、
全部、自分の中だけ。
ーーーーー
〇〇side
数日前の舞台挨拶。
終わったあと、廉と話した。
真っ直ぐな目。
「長くは待たない」という覚悟。
胸がざわついたまま、取材をこなして、帰宅して、
そのままベッドに倒れ込んだ。
スマホを見る余裕もなかった。
翌日。
通知の山の中に、北斗の名前。
着信履歴。
〇〇「……あ」
かけ直そうと思った。
でも、その時マネージャーに呼ばれて、そのまま現場へ。
気づけば数日。
完全にタイミングを逃していた。
そして今。
やっと落ち着いた夜。
〇〇は深呼吸して、発信ボタンを押す。
コール音。
少しだけ緊張するのは、なぜだろう。
北斗「……もしもし」
いつもの声。
少し低い。
〇〇「ごめん!!!」
思わず明るくなる。
〇〇「この前電話くれてたよね?ほんとごめん、バタバタしてて完全に忘れてた!」
本当だ。
悪意なんてない。
でも、胸の奥に小さな引っかかりがある。
北斗「……ああ」
声が、少しだけ静か。
〇〇「舞台挨拶終わって、そのまま取材ラッシュでさ。帰ったら寝落ちしてた」
半分本当で、半分は――逃げ。
廉の話をしたあとだったから。
頭の中が整理できていなかった。
北斗「なんだったの?」
その問いに、〇〇は一瞬言葉に詰まる。
本当は聞きたい。
“なんで電話くれたの?”
でもそれを聞くのが少し怖い。
北斗が何かを察していたらどうしよう、と。
そして、廉の告白のこと。
言わなかった理由は、はっきりしている。
一つ目。
まだ答えを出していないから。
曖昧な状態を、北斗に共有する意味が分からない。
二つ目。
北斗は仲間。
戦友。
余計な心配をかける必要はないと思った。
三つ目。
――もし話したら、何かが変わる気がしたから。
それが一番大きい。
北斗との関係は、今ちょうどいい距離だと思っている。
冗談を言い合えて、
背中を預けられて、
余計な緊張がない。
そこに“恋の話”を持ち込んだら、
空気が変わるかもしれない。
それが少しだけ、怖い。
〇〇「別に急ぎじゃなかった?」
明るく聞く。
北斗「いや。お疲れって言おうと思っただけ」
その言葉に、胸が少しだけ温かくなる。
〇〇(心の声)
ああ、やっぱり北斗は北斗だ。
安心する。
だからこそ、言わない。
廉のことは、自分の中で整理がつくまで。
北斗は仲間。
それ以上でも、それ以下でもない。
そう思っているから。
〇〇「ありがと。今度ちゃんと話そ」
何も知らない声で笑う。
でも電話を切ったあと、少しだけ天井を見上げる。
〇〇(心の声)
なんでちょっとだけ、言えなかったんだろ。
気づいていない。
その“言えなさ”が、
もう少しだけ、特別な感情に近づいていることに。
ーーーーーーーー次の日ーーーーーーーー
北斗side
映画
秒速5センチメートル
公開初日舞台挨拶。
ステージに立った瞬間、割れんばかりの拍手。
主演として中央に立つ重み。
隣には共演の 高畑充希 。
高畑は柔らかく微笑み、客席に手を振る。
北斗も笑う。
笑っている。ちゃんと。
でも胸の奥は、少しだけ空洞みたいだ。
司会「ついに公開初日です。今のお気持ちは?」
北斗「…やっと、皆さんに届く日が来たなという気持ちです」
丁寧に言葉を選ぶ。
本当は、別の“届いてほしい人”の顔が浮かんでいる。
司会「撮影期間を振り返っていかがでしたか?」
北斗「すれ違いの物語なので…距離感を大事にしていました」
“距離感”
自分で言って、少しだけ喉が詰まる。
高畑が横から軽く笑う。
高畑「でも松村さん、意外と寂しがりですよね?」
会場が笑う。
北斗「そんなことないです」
即答。
でも否定が少し早い。
高畑「現場でも静かに見えて、実は色々考えてるタイプ」
北斗は視線を落とし、苦笑する。
当たっている。
考えすぎて、勝手に不安になって、勝手に苦しくなる。
まさに今。
司会「もし大切な人とすれ違ってしまったら、どうしますか?」
また、その質問。
会場が静まる。
北斗は一瞬だけ、息を止める。
数日前の電話。
明るい声。
何も知らない〇〇。
北斗「……追いかけます」
はっきり。
自分でも驚くくらい迷いがない。
会場がざわっとする。
高畑「強いですね」
北斗「後悔したくないので」
その一言に、ほんの少し本音が混ざる。
司会「松村さんらしいですね」
らしい、のかは分からない。
でも今はそう言うしかない。
トークは続く。
撮影裏話。
印象的なシーン。
高畑との掛け合い。
笑いも起きる。
ちゃんと盛り上がる。
主演としての役目は果たしている。
でもふとした瞬間、
客席の向こう側に〇〇の姿を探してしまう。
いるわけないのに。
イベント終盤。
司会「最後にメッセージを」
北斗は客席をゆっくり見渡す。
北斗「この作品は、“伝えられなかった想い”の物語です」
一瞬、間。
北斗「でも現実では、伝えられるなら伝えた方がいい」
静かな声。
会場がまた少し静まる。
北斗「皆さんが大切な人と、ちゃんと向き合えますように」
拍手。
大きな拍手。
ステージを降りる。
裏に入った瞬間、ふっと力が抜ける。
楽屋。
花束。
スマホを取り出す。
通知は、ない。
北斗(心の声)
追いかけるって言ったよな。
でも現実は、まだ動いていない。
映画は公開された。
物語は始まった。
自分は、まだ同じ場所に立ったまま。
ーーー
〇〇side
朝、移動車の中。
マネージャーが言う。
「昨日の特番と公開初日、かなり記事出てるよ」
タブレットを受け取る。
映画
秒速5センチメートル
主演・松村北斗
公開初日舞台挨拶
写真の中の北斗は、静かで、少しだけ大人びて見える。
隣には 高畑充希 。
並んで笑っている、きれいな一枚。
記事を読む。
“伝えられるなら伝えた方がいい”
“失ってからでは遅い”
〇〇(心の声)
北斗らしいな。
真面目で、ちゃんと作品を背負う人。
特番の記事も開く。
“すれ違いについて語る松村”
“追いかけると思います、と即答”
即答。
そこだけ少し目に止まる。
でも。
〇〇は深く考えない。
北斗は、作品に真摯な人だ。
役の延長線で話しているだけ。
そういうタイプ。
何より――
北斗が自分を好きかもしれないなんて、
一度も思ったことがない。
北斗は仲間。
一緒に戦ってきた相棒。
遠慮もなく、冗談も言えて、
気を遣わなくていい存在。
恋の対象として見たことは、ない。
だから。
あの記事を読んでも、
“誰かいるのかな”
くらいにしか思わない。
むしろ少しだけ安心する。
〇〇(心の声)
よかった。ちゃんと前向いてる。
自分との電話がどうこう、なんて発想すらない。
あの時の北斗の静かな声も、
ただ忙しかっただけだと思っている。
マネージャー「感想送る?」
〇〇「あとで送る」
軽く答える。
でも画面を閉じたあと、
なぜか少しだけ胸がもやっとする。
理由は分からない。
ただ、
“追いかける”
という言葉が、ほんの少しだけ引っかかっている。
でもそれは、
北斗の物語であって、自分の話じゃない。
そう思っている。
まだ、何も知らないまま。
ーーーーーーー
〇〇side
夜。
仕事終わりの楽屋。
ふと思い出す。
今日の記事。
映画
秒速5センチメートル
公開初日舞台挨拶。
写真の北斗。
少し大人びた顔。
〇〇(心の声)
ちゃんとお疲れって言ってなかったな。
スマホを開く。
トーク一覧。
北斗。
指が止まる理由はない。
いつも通りでいい。
〇〇
「公開初日おめでと!」
少し考える。
〇〇
「記事見たよ。なんか真面目に語ってて笑った」
送信。
既読はつかない。
〇〇(心の声)
今忙しいか。
もう一通。
〇〇
「ちゃんと主演してたね」
送ったあと、少しだけ照れる。
すぐ画面を閉じる。
特別な意味はない。
仲間として。
ただそれだけ。
――――――――――
北斗side
楽屋。
花束の香りがまだ残っている。
映画
秒速5センチメートル
公開初日、無事終了。
スマホを無意識に見る。
通知。
〇〇
心臓が跳ねる。
開く。
「公開初日おめでと!」
その一文だけで、呼吸が浅くなる。
続けて。
「記事見たよ。なんか真面目に語ってて笑った」
苦笑がこぼれる。
さらに。
「ちゃんと主演してたね」
その一行で、時間が止まる。
北斗(心の声)
……見てたんだ。
ただの記事。
ただの感想。
それだけなのに。
胸の奥がじわっと熱くなる。
“追いかける”
あの言葉。
もしかして。
いや。
考えすぎるな。
北斗は深く息を吐く。
返信欄を開く。
何度か打っては消す。
北斗
「ありがとう」
送信。
短い。
それ以上、言えない。
本当は。
“お前に言ってるんだよ”
なんて言えるわけがない。
既読がつく。
すぐ返信。
〇〇
「映画絶対観に行くわ」
その軽さ。
何も知らない、いつもの距離。
北斗(心の声)
それでいい。
まだ、これでいい。
画面を見つめたまま、
少しだけ笑う。
苦しいのに、嬉しい。
何も進んでいないのに、
少しだけ救われる。
ただのLINE。
ただのやり取り。
それだけで、今日は眠れそうだった。