テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
370
書きたいこと全部書いたら後編なのに詰め詰めになって長くなったので分けました…大汗
後編①
もう1週間ほどまともに勇斗と話していなかった。メッセージは既読はつけたものの、なんて返事をしたらいいかわからず、結局既読無視のような状態だ。やがて勇斗からも連絡がくることがなくなってしまった。
口づけされたところに触れるとあの日のことを思い出して全身が熱くなる。また触って欲しいと思ってしまっているのだ。
あんなに暑かったのに、いつの間にか吹く風はすっかり冷えていた。陽が沈むのも早くなり季節は夏から秋へと静かに移り変わっていった。
3年生は本格的に受験に向けて勉強に取り組んでいるようだった。勇斗に以前進路はどうするのか聞いたら大学受験をすると言っていたので、きっと勉強で忙しくなるだろう。でもその前に、サッカー部の大会があるらしい。今週末に試合があることをクラスの女子が会話しているのを盗み聞きして知った。
それに負ければ3年生は引退のようだった。
「(試合…見に行こうかな…)」
勇斗の姿を見たい。応援しに行きたい。
でも、開催場所とか時間とか知らない。
勇斗に聞けば1番早いのだが、いかんせん気まずいので聞けず…誰かに聞かなきゃなのか…
いや、もういっそ直接聞いちゃった方が早い気がする。
仁人が珍しくゔ〜ん…と小さく唸りながら悩んでるのをクラスメイトたちは不思議そうに見ていた。
ーーー放課後、こっそりサッカー部が練習しているグラウンドへ来た。そろりそろりと用具倉庫の裏へ近づき、ひょこっと顔を出す。
勇斗はキャプテンマークをつけているから、すぐ見つかるはず…と思っていたが見つからない。まだ来ていないのだろうか。
ジッと準備運動や練習をしている部員たちを見つめていると、ふと背後に人の気配が。
「仁人、なにしてるの」
「……ひゃぁ…」
耳元で囁かれるように名前を呼ばれた。
くすぐったくって変な声が出てしまった。
後ろを振り返れば、ユニフォーム姿の勇斗がいた。久しぶりにちゃんと顔を見たので、少し恥ずかしくて目を逸らしてしまう。
それにしても、ユニフォーム姿がとても似合っててかっこいい…
「いや、あの……えっと…」
うまく言葉が出てこなくて、しどろもどろになってしまう。視線を落として俯いて黙り込んでしまった。勇斗もこれから練習が始まるというのに、引き留めてしまっては申し訳ない。
「……仁人?」
「………なんでもない、帰る…」
その場を去ろうとすれば、手首を掴まれる。
「俺に会いに来たんじゃないの?」
「…あ、…ッ…」
「違う?」
「………違くない、…会いに…来たの」
「…嬉しい。そういえば今週の土曜、大会の初戦なんだ。仁人…観にきてくれる?」
「うん…行く。絶対行く…今日、そのことを聞きにきたの」
「そっか。俺が連絡すればよかったね」
「ううん、大丈夫。」
お互いあの保健室でのことには触れなかった。あとでメッセージで送っとくね、と言い勇斗は練習に向かった。
掴まれていた手首はひどく熱い。ドキドキと胸が高鳴って苦しい。呼吸が浅くなってしまうくらい。やっぱり、好きなんだ。勇斗のこと。
※
出掛けることを親に伝えたら、珍しいねと言われた。基本的に休日は家で過ごすことが多かったからだ。サッカー部の応援に行くと言えば少し驚かれた。
「お友達?」
「うーん…先輩かな、3年生の」
「あら、じゃあ終わっちゃったら引退になっちゃうのね」
「……負けないよ、先輩は」
「…そうよね、まだ試合終わってないものね」
ごめんねと謝られた。親にムキになることなんてなかったのに、勇斗のことになるとどうも自分が変になる。身支度を終えて、試合の場所に向かうことにした。
「……道がわからない」
最寄駅に無事着いたもののを、会場までの道が複雑だった。住所を入力したスマホの道案内アプリと睨めっこする。とりあえず、会場に向かう人っぽい人たちに着いていくか…いやでも、間違っていたらどうしよう。
ゔ〜ん…とまた立ち止まって唸っていたら突然見知らぬ人に顔を覗き込まれた。
「うわぁあッ!?」
「あれ、吉田さんじゃん!どうしたん、こんなところで突っ立って」
「ど、どちら様ですか…」
「俺か?隣のクラスの塩﨑太智や!」
「お隣さんじゃわからないです…」
「俺は知ってたで!隣のクラスにボッチな奴がおるって!綺麗な顔してるのに!」
「ボッチって…合ってるけど」
「俺な、ひとりでサッカー部の応援に行くねん!同じクラスの奴がふたり試合に出とるからな、1年でふたりともレギュラー入りやって!凄ない??」
同級生のものすごい勢いのマシンガントークに若干引きつつ。どうやらこの人も応援に行くらしい。
「俺も…試合の応援に行きたいけど道がわかんなくて」
「ほぉ〜そんなら一緒にいくか!どうせお互いボッチなら!」
「そのボッチって言葉地味に刺さるからやめて…」
「事実だからしゃあないやん!」
じゃあ行こか、とぐいぐい腕を引っ張られる。痛い痛いと言っても引っ張る強さは変わらない。力加減というものを知らないのかこの人は。でも一緒に行ってくれる人がいるなら安心する。どうやら話を聞くと何度か応援に来てるので道を知っているらしい。なんとか助かった。
学校関係者の応援席に無事着いた。
吹奏楽部や試合に出ないサッカー部員たちは前の席の方だった。後ろの方の端っこに座る。
試合前のウォーミングアップを各学校の試合に出場する選手たちがしていた。勇斗もそこにいた。
パス練習をしており、表情はきちんと見えないが真剣さが伝わってくる。
「(きっと3年間…頑張ってきたんだもんね…)」
ぎゅっと…強く拳を握る。
試合に出ないのに、こっちが緊張してしまう。すると、勇斗が応援席の方に顔を向けた。キョロキョロしていて誰かを探しているようだった。
「(……えッ)」
誰かに気づいて大きくこちらに向けて手を振っていた。
俺に振ってるのか?いや、もしかしたら違う人かも…間違ってたら自惚れてるみたいで恥ずかしいし…
しばらくその様子を見てるが、一向に手を振るのをやめない。しまいには大きく口を開けて何かを言ってるようだった。
「……なぁ、佐野先輩、吉田さんのことめっちゃ見てないか?」
「…そんなはず……」
口唇術ではないが勇斗の口の動きを見つめる。
「(じ、ん、と………じんと?)」
ボンッと頭から湯気が出そうなくらい顔が一気に熱くなる。
恐る恐る小さく手を振り返せば、勇斗はニカッと特大の笑顔で親指を立てて練習に戻っていた。
「…なんで……」
「やっぱ吉田さんに手ぇ振ってたんや!ふたり知り合いなん?」
「…うん、ちょっとね…」
「すごいなぁ、あの佐野先輩と仲良いなんてな!」
「……」
もうなにも言えなかった。
顔が熱くて心臓がバクバクしてうるさくて口を開けたら飛び出してしまいそう。
しばらくしてピーーッと試合開始の笛が鳴る。きちんとサッカーの試合を見るのは初めてだった。
試合中ずっと勇斗を見ていた。
人一倍動いていて、かと思えば指示を出したりキャプテンらしく仲間を鼓舞したり、この試合で何点か得点を決めた。とてもキラキラ輝いていて眩しかった。
かっこ良過ぎて、もっと好きになってしまった。
初戦は無事突破した。
応援席にいる人たちが片付けや帰る人がいたが、勇斗のところへ行きたくってどうしようかと悩んでいた。
「吉田さん、佐野先輩のとこ行かんの?」
「えっ……でも、サッカー部じゃないから行けないよ…」
「だぁーいじょーぶやって!俺、友達のとこ行くから一緒に行こか!」
「や、平気っ!やだやだ引っ張らないで塩﨑くんッ!」
「だいちや!今から名字じゃなくって太智って呼んで!」
「だいちー!!お願いだから引っ張らないでー!!腕がもげるッ!」
「あははッ、面白い奴やなぁ、仁人は」
「おーっす!おつかれ!」
「あれ、太ちゃんだ」
「おー!ほんまに太ちゃん来てくれたん!?ありがとうなぁ!」
腕を引っ張っていた太智は荷物を片付けてるサッカー部の、とあるふたりに話しかけていた。ふたりとも芸能人みたいに綺麗な顔をしておりスラッとしていて、顔は似てはないが雰囲気が双子のようだった。こんな奴ら隣のクラスにいたなんて全然知らなかった。
「……あれ、太ちゃんこの人は?」
高校生にしてはとんでもなく美貌の人がこちらに視線を向ける。
「ほら、隣のクラスの吉田さんやで!噂の!」
「あー…そういえば言ってたね」
「噂の吉田さんかぁ!えらい綺麗な顔しとるな!」
まじまじと太智のふたりのお友達に顔を見られて恥ずかしくなってしまう。
「柔とはまた系統が違う綺麗な顔やなぁ…」
「ちょ、ち、近いです……」
「はいダメー、舜太レッドカード」
ブブーッと言いながら肩に手をまわされ、強く誰かに引き寄せられる。声の主を見れば、ユニフォーム姿からもうすでに着替えた勇斗だった。
「柔太朗もイエローカード」
「なんでですか」
「仁人とちょびっと近かったから」
「そんな近づいてないですよ」
「はいはい、ほら、さっさと帰るぞ。忘れものないようにな、今日はお疲れ様。ふたりとも良かったよ」
「勇ちゃんゴール決めるのかっこよかったなぁ!さすがや!」
「ははッ、舜太と柔太朗のアシストのおかげでもあるよ」
「また月曜日な」と勇斗が言えばふたりと太智も一緒に帰って行った。
「…仁人、今日はありがとう。来てくれて」
「…ううん。勇斗……あの、」
「ん?」
「すごく…かっこよかった……」
直接顔は見れない。顔を俯かせながら今日の試合見て思ったことをそのまま伝えてみた。
何も返事がなくって不思議に思って顔を上げる。そこには見たことがないほど顔を真っ赤にさせて口元を抑えている勇斗がいた。
「……勇斗…?」
「ご、ごめん…今、顔…見せられない…」
そう言って後ろを向いてしまった。
そんな勇斗がなんだかとても可愛く思えて手を伸ばす。
腕を引っ張り、こっちを向かせた。
「…顔、真っ赤…」
「…仁人のせいだよ」
「おれ?」
「無自覚なの?恐ろしい…」
「だって、本当にかっこよかった」
「だぁー!わかったからそれ以上言うな…」
「ふふッ、変なの…」
「あのさ、仁人…」
「?」
「大会が終わったら、伝えたいことがあるんだけど…」
少し冷たい秋風が吹いて、髪が揺れる。
先ほどの照れた表情とは打って変わって、真剣な表情で真っ直ぐな目をしていた。
「…うん、わかった」
俺の返事に勇斗はホッとしたようだった。
「仁人、もし予定が空いてるなら…2回戦も観にきてくれると嬉しいな」
「うん、行く。絶対行く」
次戦を観に行く前にこそっと隣の教室へ顔を出してある人物を探す。なかなか見つからないので、また後で来てみようと思ったら背後から声を掛けられた。
「吉田さんやん!どうした?」
そう、探していたのは太智のこと。
「…あのさ、」
「おう」
「今度、はや、…佐野先輩の試合また応援行くんだけど……一緒にどうかなって……」
きょとんと目を丸くさせてるので、嫌だったのかなって不安になった。気まずくて指先を組み替えてたりしてれば「なぁ〜んだ!」と大きな声。
「全然ええよ!俺のこと誘ってくれるん、嬉しいわぁ!」
「本当に?いいの?」
「俺も柔太朗と舜太の応援行こうと思ってたから!」
「よっしーも応援来てくれるんだ」
「…え?よっしー?」
「仁ちゃん、俺らのために来てくれるん?」
「じ、仁ちゃん??」
廊下にはモデル体型の太智のお友達ふたりがいた。
イケメンだし高身長だしサッカーも上手ってどういうこと…
ガバッと後ろから抱きつかれる。
ぎゃあ!と声を上げれば大型犬みたいな奴が嬉しそうに笑った。
「仁ちゃん、抱き心地えぇなぁ〜お餅みたいや」
「や、急になに!?離せッ」
「俺の名前は舜太、……覚えてな?」
「舜太!わかったからぁ…」
「わーい♡嬉しい、ありがとうなぁ仁ちゃん!」
「舜太……そんなことしたら勇ちゃんに殺されるよ…」
「そんなおっかないこと言わんといて〜柔!大丈夫、1年のとこに3年生はいないはず……」
「居るんだなぁこれが」
ドスの効いた低ーーい声が廊下に静かに響く。ビキッと舜太の動きがとまる。
「は、はは…勇ちゃん…!?」
「舜太お前……俺がいないからって仁人に…」
「やば、佐野先輩めちゃくちゃ怒ってるやん」
「ははッ、ウケる舜太どんまい」
「わぁあ!ごめん勇ちゃーん!」
「今日の練習、舜太だけ特別メニュー組んでやっからな、覚悟しとけ」
「えぇーーん仁ちゃんからも勇ちゃんに何か言って!」
予鈴が鳴った。太智たちのクラスは移動教室みたいでクラスの大半が移動し始める。
「じゃ!勇ちゃん次の授業始まるから行くねー!」
「おいこら舜太逃げんな」
「よっしーまたね〜」
「吉田さん、あとで連絡先教えてな!」
「…あ、…うん…」
そそくさと3人は行ってしまった。
急に勇斗とふたりきりになる。
「……仁人、舜太と柔太朗になんかされたら俺に言ってね」
「…大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないんだって俺が!」
「…なんで、勇斗…1年のところに?」
「…いや、……ちょっと仁人の顔を見に…」
「え?」
「ぁあー!ちょっとなんていうか、その…」
珍しく語尾にかけて小さな声で喋ってる勇斗。そわそわしていてなんだか可愛い。サッカーしてる時とのギャップがすごい。
「今度の土曜日、頑張ってね」
「……ッ!お、おう。絶対勝つから」
そして、2回戦。太智と一緒にまた応援しに行った。最初は1点差で負けていたが途中で逆転。舜太がなんと勝ち越しのゴールを決めて、逆転勝ち。思わず立ち上がってしまった。
「勇ちゃん!今日頑張ったから仁ちゃんのことチャラにして?」
「それはそれ。これはこれ。ということでチャラにはしません」
「なんでぇ!」
※
翌週に3回戦目。
太智の情報によると去年サッカー部はこの大会はベスト8だったようだ。今日勝てばベスト4入り。なんとしてでも去年を越えたいと勇斗は言っていたようだ。
「佐野先輩、顔めっちゃくちゃ怖いな、遠くから雰囲気でもわかるくらいやわ」
「…そうだね」
ピリピリとした感じ、あまり見たことない。去年負けた相手が今日の対戦相手だから尚更だろう、眉間に皺を寄せていた。どうしようか迷ったが、スタンド席の階段を降りて、前方の方へ行く。すうぅ……っと息を思いっきり吸った。
「勇斗ーーーッ!!」
吹奏楽部が演奏の練習してたり、部員たちが応援の練習をしてガヤガヤしている音の中、聞こえるかわからないが思いっきり勇斗の名前を呼んだ。
すると、ピタッと勇斗の動きがとまってこちらを見上げる。間違いなくぱっちりと目があった。
大きく手を振ってあげた。
もう周囲の目なんか気にしない。ただ目の前の勇斗にだけさえ届いてくれればそれでいい。そうしたら、険しくなっていた表情も気づいたらいつもの勇斗の表情に近くなって、やがて笑顔になっていった。
集合の合図がなって、勇斗は走って行ってしまった。気がついてくれたことにホッとして、太智の元へ戻る。
「吉田さんって意外と大胆やな」
「えッ、そ、そうかな…」
「まぁ佐野先輩嬉しそうやったから、いいんちゃう?」
指摘され今更ながらの自分のした行動が恥ずかしくなってきて、頭を抱えた。しばらくしたら「ほら試合始まるで!」っと太智がビシバシ腕を叩いてくる。だから痛いってば。
試合開始の合図がすればワァア…っとお互いのチームの観客の声援が湧いてくる。ハラハラして気が気じゃなかった。どうか勝ちますようにと何度も心の中で願った。
ーーー結果は、負けた。
後半のアディショナルタイム残り1分で相手チームに点を入れられてしまった。俺も太智も呆然としてなにも言葉が出なくなってしまった。まさか負けるとは思ってもいなかったから。ピッチ上で汗だくで息を切らして立ち尽くす勇斗を見ていて、なんともいえない気持ちになってしまった。舜太は、負けだと確定した瞬間に泣き出してしまって、柔太朗がとなりで慰めているようだった。
まさか負けるとは思っていなかったので太智とふたり呆然としてしまい、なにも言葉を発することができなかった。
「仁人、佐野先輩のとこ…行くんか?」
「………」
「…舜太と柔太朗は、佐野先輩の最後の大会だから頑張ろうって言ってたんや…でも……。俺はふたりに会わないでメッセージだけ送って帰りますわ。今はそっとしておきたい…」
「…俺は、……少し考える」
「そっかぁ…じゃ、気をつけて帰ってな」
「うん、また…」
普段と違って太智はとても静かだった。
舜太と柔太朗ふたりの気持ちを考えてあげられる優しさをある人なんだと初めて気づいた。
とぼとぼ歩いて向かった先は関係者や選手たちが出入りする玄関口だった。
壁に寄りかかって、勇斗がもしかしたらまだ残っているかもしれないから待つことにした。勇斗を置いて帰れなかった。でもなにを話せばいいのかわからない。待ってる間、悶々としていた。
30分くらい待ってたら、ガラス戸の向こう側から俯きがちでゆっくりとした足取りで帰ろうとしていた勇斗がひとりで出てこようとしていた。
ドキドキと心臓がうるさい。
なんて言おう…
ギィ…ッと扉が開く。
「……仁人…」
「…勇斗」
少し虚ろ気味の瞳をこちらに向ける。
元気がないのは明らかだった。
「……なんでいるの…先帰っててよかったのに」
思いがけない言葉が胸に刺さる。
言葉に詰まってしまったが、伝えたいことだけ言うことにした。
「……ひとりにしたくなかった」
「…なにそれ、同情してるつもり?」
いつもと違う勇斗だった。
ちょっとだけ怖い。優しさなんて1ミリも感じなかった。
ふたりの間に気まずい空気が流れる。
なにか言わなければと焦る。
「俺が…最後まで攻めていれば…勝てたかもしれないのに…俺が……」
ぽそっと呟いたのは自責の言葉。
「そんなこと言わないでよ…勇斗はあんなに頑張っていたのに……」
「仁人は俺のなにを知ってるの」
「………え?」
「何も……知らないくせに、今、そういう上っ面だけの言葉…要らない」
さぁ…っと血の気が引いていく感覚。
頭が、手が、足が……全身が急激に冷えていく。それと同時に死にたくなるほど恥ずかしくなった。わかっていたようで、勇斗のことわかっていなかった。わかった気でいただけだった。
自分の前を通り過ぎていき、帰ろうとする勇斗の背中をただ眺めることしかできなかった。視界がぼやける。泣くな、耐えろと拳を握る。………もうここに居たくなかった。
勇斗は足をとめた。
「(俺、仁人になに言って……)」
負けたことが頭の中がいっぱいで冷静でいられなかった。俺はとんでもないことを言ってしまった。仁人は、ずっと応援してくれていたのに…今すぐに謝らなければ、振り返る。
「じん、………あれ、…仁人?」
振り返った先には誰もいなかった。
さっきまでいたはずの仁人がいないのだ。
「仁人!?……仁人!!」
走って走って周囲を懸命に探すが、仁人らしき人はいなかった。スマホを急いで取り出して電話をかける。無機質な音声がただ流れるだけで電話にでてくれることはなかった。
メッセージを送る。だけどすぐに既読がつくことはなかった。
「(俺はなんてことを…)」
あんなこと言いたかったわけじゃない。
俺は好きな人を傷つけてしまった。
続
中編から更新空いちゃってすみません💦
コメント
1件
わああ〜〜😭💕 試合のシーンも応援に行く仁人もめっちゃドキドキしたのに…最後の勇斗の言葉、胸がギュッてなったよ…!「何も知らないくせに」って、あの優しい勇斗がそんなこと言うなんて、それだけ自分を追い詰めてたんだね。。でもその後すぐ後悔してる姿も切なくて…続きが気になりすぎるよ〜!!かなさん、更新ありがとうございます🌸 次話も楽しみにしてます✨