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──食卓を囲み、私の父とお酒を酌み交わすと、
「ああ、こんな風に飲むひとときは楽しいですね」
彼がグラスを手にして呟いた。
「よければ、いつでもまたいらしてください」
父が話して笑顔でお酒を注ぎ、彼がお酌を返すそんな些細なやり取りを見ていると、
家族であまり食事をしたことがないと言っていた政宗先生が、少しでも温かな雰囲気を味わえるなら、やっぱり実家に来てよかったと思えた。
「ええ、またきっとお邪魔させてください」
メガネ越しに目を細めて微笑む彼を見ていると、私も彼と共に幸せな温もりに包まれていくのを感じるようだった……。
実家から帰る際に、玄関で母から「これを持って行って」と、手提げの紙袋を渡された。
「手土産をいただいたからお返しと……あと中にカードを入れておいたから、後で読んでみて」
「ここでじゃなくて、後でなの?」と、聞き返すと、「恥ずかしいでしょ、だって」と母は軽く笑って、「帰りの電車の中ででも読んでね」と、話した。
「今日はありがとうございます。ごちそうになりました」
お礼を口にする彼に、「いいえ、こちらこそとっても楽しかったです。いらしていただいて、ありがとうございました」と、母は応えて、
「じゃあね。智香」
と、ひらひらと手を振った。
──電車に乗り、二人掛けのシートに並んで座り、母から受け取ったカードを開いてみた。
そこには…………
『智香 結婚おめでとう
とても素敵な方と出会えて、本当によかったわね。
政宗先生 智香を結婚のお相手に選んでいただいて、ありがとうございます。
智香のことを、どうぞよろしくお願いしますね。
ふたりとも、末永くお幸せに』
と、母の字で綴られていた。
「いいお母様で……」
彼の言葉に、うれし涙が思わずこぼれると、肩が優しく抱き寄せられた……。