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〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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〜ぼっちの月の神様の使徒〜

204 - 40話  第二部 第一章最終話      北西部〜北東部。

♥

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2024年05月02日

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「うーーん。漸く春だな。朝、布団から出るのが随分と楽になった」

交易路工事は冬の間も休むことなく続けられた。

そのお陰か、昨日をもって全線開通となったのだ。

もちろん開通した事を知っているのは作業員と俺達だけ。

これからアーメッド共王国へと赴き、 報告をすることになっている。

手紙は昨日届けたから、今頃大急ぎで俺への歓迎の準備をしている所だろうな。

歓迎される側が手紙を持っていったとは、誰も思うまい……

「おはよう。今日は私も行くからね?」

リビングに行くと聖奈さんがコーヒーを淹れて待っていた。

コーヒーを受け取って口に含んだ俺は、寝耳に水だった為むせることになった。

「ゴホッ!?そ、そうなのか?てっきり俺だけかと思っていたよ…」

「それなら手紙なんて回りくどい真似をしなくても良いよね?すでに急な来訪を繰り返していた常習犯なんだし」

「…確かに。じゃあ昨日の手紙には?」

「もちろん私のことも書いておいたよ。楽しみだね!」

聖奈さんは王妃として他国に招かれるのは初めてのことで……

いや、招いたというと語弊があるな……

アーメッド共王国の立場で考えると……『乗り込んでくる』だな。

「あまり共王をいじめるなよ?」

「人聞きの悪い……私は優しいでしょ?」

優しい人は…以下略。






「凄いね!!猫耳!うさ耳!狐耳!『ぐさっ』どうしたの?」

聖奈さんが初めてのアーメッド共王国の王都ではしゃいでいるが、偶々俺の古傷を抉ってきた。

「な、なんでもない。それより王城はあっちだぞ」

俺はすぐに誤魔化して城の方角を向いた。

「お城は…普通だね。それよりもこんなに歓迎されるものなんだね!!これなら他の国にも行ってみようかな?」

他の国の為にもやめてあげてくれ。

今回は王都民にも周知させていたようで、王都近郊に馬車が用意されていて、それに乗り込むと王都内ではパレードだ。

今は馬車の上で王都の街並みを眺めながら城を目指している。

周りには獣人を含む沢山の人集り。

自分の国でもこんなことをしたことがないから、極めて恥ずかしい………

聖奈さんは平気で手を振っているが……貴女は皇室の方ですか?





「よくぞ来られた。ささっ。長旅で疲れておるだろう。座って楽にしてほしい」

城に入った俺達は謁見の間へと通された。

そこでは王の座る他より少し高くなっているところに椅子が何脚か用意されていた。

見る限り品質はどれも同じレベルに見える。

これは内外にアーメッドとバーランドは同格だと知らしめるためだろうか?

「お初にお目にかかります。セーナと申します。王妃様におかれましてはこの様な素晴らしい催しを。感謝申し上げます」

聖奈さんは座る前に綺麗なカーテシーを決めて王妃に挨拶をした。

衣装はゴテゴテの装飾された真っ赤なドレスだ。

「ブリリアント王。歓迎感謝する。早速だが本題に入ってもいいだろうか?」

「もちろんだとも。良い報告だといいのだが…」

「次期にこちらにも報せがくるだろうが…無事に交易路が開通した」

共王国もすでに交易の為の道の拡張や宿場町の建設へと取り掛かっている。

その為、開通した事は国境付近で作業しているこちらの人にも伝わっているはずだ。

恐らく報せに走っている所だろうが、そこは転移魔法様々。悪いな。






報告と今後の話を終えた俺達はこのまま帰る…訳にもいかず、歓迎パーティに出席することに。

今後については、簡単に言うと交易路の警備と整備についてが主な所だ。

どこの国の土地でもない所だからな。

関税については最小限しか取らない取り決めになった。

物が動かないと折角作ったのに意味ないからな。

そして歓迎パーティでは……

「そ、そ、そ、そ、そ、その節は……お、お、お許し、く、くださいっ!!!」

「陛下?こちらの方は?」

震えながら見事な土下座を決めた人を見下ろし、聖奈さんが問いかけてきた。

「…ぶ…ブタ……ブタ…さん…」

「ブータメン男爵だ」

それだっ!!

横にいた共王が小声で教えてくれた。

「そう!ブータメン男爵!久しいな!」

俺はまるで旧友にあった時の様にブータメン男爵の肩を叩き、誤魔化した。

ふう。助かった!

「ひぃ…も、申し訳…」

「それは済んだことだ。罰を受けて心を入れ替えたのなら、もうこちらからどうこうすることもない。これからは国のために頑張ってくれ」

「は、はぃぃ…」

ブタさんは何とか立ち上がり、お辞儀をして離れていった。

ブタさんの代わりに聖奈さんが近寄り耳元で囁く。

「セイくん。ブタさんを虐めたの?」

「笑っちゃうからやめてくれ…」

あれはああ見えてブタじゃないんだ。 信じられないだろう?



歓迎パーティのその後はお誕生日席でゆっくり酒を呑んで過ごしていたが、聖奈さんは忙しなく色んな人と喋っていた。

これが陰と陽の差か……

恐らく情報収集なんだろうけど。

聖奈さんを眺めていた俺へ近づく人が……

「バーランド国王様。私は……」

これで何人目なんだろう…貴族の子女の売り込みだ。

あまりの数に俺は辟易していた。

みんな可愛いよ?獣耳も尻尾も可愛いし捕まらないならモフモフしたいくらいだ。

でもな…何故か全員紳士協定違反の子達ばかりなんだ。

君なんて明らかに12歳以下だよね?

「お気に召さないか?」

「違う!若すぎるんだ…この国では普通なのか?」

「獣人の結婚適齢期は種族差が大きい。そして我が国の貴族の大半は偶々適齢期が早い種族で構成されている。違法ではないのだ。誰か貰ってくれぬか?」

いや…そんなお歳暮みたいに言われても……

確かに政略結婚はあるんだろう。

しかし、俺には無理だ……

初めての人は紳士協定に違反しない年齢で、さらに恋愛じゃないとダメなんだ!!

俺は聖奈さんとは違う苦労をしてパーティを終え、用は済んだので帰国の途についた。

といっても、転移だけど。







「これから忙しくなるだろう?」

交易路が完成したんだ。

忙しくならないならそれはそれでまずい。

「そうだね。出来ればセイくんにも秋くらいまでは手伝って欲しいかな」

「いいぞ。一人で好きなことをしてても楽しめないからな」

俺だけ遊んでると思うと気持ちは盛り上がらないんだよ。小心者です。

「恐らく2週間程で近隣諸国にはバレちゃうから、それまでが勝負だね!」

「ああ。宿場町の不具合や他国の人が交易路を使う時に徴収する通行料の調整とかか」

「そうそう。何事も始めてからわかることが多いからね。予想は予想でちゃんと計算しないといけないけど、神様じゃないから大体外れちゃうよね」

俺なんか常時行き当たりばったりだからそれでも十分じゃね?

それに聖奈さんはなんだかんだ言っても予想を外さないじゃん…ポーカーは相変わらず弱いけど。






交易路を動かしてから暫く。

案の定不具合は出てきたが、どれも致命的なモノではなかった。

聖奈さんは不具合を微調整したり、計画の見直しをしたりしていた。

そしてどうせ他国にバレるならということで、交易路開通式典を執り行うことにした。

もちろん周辺国には招待状を送った。

俺が……




「本日は我がバーランド王国とアーメッド共王国の新たな門出を祝う式典に遠路はるばる出席してもらいありがとう。二国を代表して感謝申し上げる」

今日は式典当日。

ここは交易路のバーランド王国側で、ここに参加者が集まっている。

エンガード王国からは先日王太子となったアンダーソン王子、ハンキッシュ皇国からはよくわからない皇族、ナターリア王国からはまさかの国王夫妻が来賓として出席している。

北東部からはアーメッド共王国だけだが、その分来賓の数は多い。

共王を始めとして国の上から数えた方が早い人たちが10人程。

恐らくウチだけではなく他の国とも繋がりを持つために数を揃えてきたのだろう。



挨拶も終わり、トンネルへとみんなで入ることに。

「結構明るいな」

「そうだよね。灯りは魔導具だから空気が汚れる心配がなくていいよね」

こんなに長いトンネルだ。

もし灯が松明しかなくて空気の流れがなかったら、入った人達はみんな一酸化炭素中毒になってしまい、死のトンネルと呼ばれることになるだろう。

トンネルの内部はコンクリートで補強されている。

地面もコンクリートなので、土とは違い灯りの反射があるから魔導具の節約にもなった。

今回の式典で通るのはトンネル内の第一休憩所までの道のりだが、このトンネルの全長は恐ろしく長い。

恐らく10キロはあるんじゃないだろうか?

今回は通らないが、トンネルを抜けるとミランが監修した石畳ゾーンだ。

以前ミランの指示で俺がフレアボムを連発したところだな。

交易路は俺が初めてこの世界へやって来た場所に似ている。

草原ではなく森なんだけどな。

似ているのは魔力が豊富だというところ。

もっと簡単にいうと、草が無限に生えて来てしまう場所なんだ。

その為、全ての道に石畳を敷かないと道として維持できなかったのだ。

魔力が豊富ということは魔物も多い。

理由は知らんが…そういうモノらしい。

それでこの交易路を通る商隊は必ず護衛を付けている。

普通は馬車一台に対して護衛の数は3人くらいらしいが、ここではその倍を推奨している。

この問題がこの交易路の最大のネックだったんだけど、思いもしなかったことで解決したんだ。

『えっ?獣人の出入りを自由にしたい?』

『もちろんバーランド王国へは許可なく行かない様に法整備を整える。頼む!!』

『いや…別に構わないが…なぜだ?』

まさか魔物と戦いたいだけだとは、流石の戦闘狂のボクチンも想像できなかったぜ……

こうして交易路周辺の魔物は獣人が駆逐してくれた。

これからも獣人が出入りしてくれる限り交易路は安全だろう。

ちなみにエルフの村は交易路からかなり離れているので、獣人達に見つかる心配はない。






「ふぅ…やっと終わったな」

式典が終わり三日程王都で懇親会を開いていたが、それももう終わった。

最後の来賓を見送った俺達はリビングでダラけていた。

「お疲れ様。今回の功労者はやっぱりエリーちゃんかな?」

「そうだな…次点でライル、その次にミランと聖奈だな」

「俺は何にもしてねーよ」

ライル…男のツンデレはモテないぞ。

ちっ…そういやコイツは既にリア充だったな……

「流石天才の私です!!ご褒美はケーキ一年分を所望しますですっ!」

「それは流石に死ぬからやめとけ」

「け、ケーキは毒だったですかぁっ!?」

天才バカ◯んは放っておこう。

褒美は考えておくよ。

「ライルは何か欲しいモノはないか?」

コイツは無欲だから困るんだよな…下手したら仕事が欲しいって言いそうだし……

「あんまり活躍してねーから言いづらいけど…」

「おっ?何が欲しい?これまでのお礼も込めてだから遠慮せずに言ってくれ」

「家が欲しい…」

は…?

俺が呆気に取られていると、マリンが立ち上がりライルの横へ。

「実は私達…結婚しますっ!」

「えっ!?」

えっ!?俺しか驚いてないんだけど!?

2回驚いたわっ!!

…みんな知っていたということか……

まぁ長らく留守にしていた俺が悪いんだがな。

「場所はどこがいい?」

「え?良いのか?家だぞ?」

「仲間の祝いだ。ケチることはしないぞ?10部屋くらいある豪邸を建てよう!!」

ええいっ!どうせコイツらは死んでもリア充なんだ!

嫉妬するのは馬鹿のすること!それならいっそのこと振り切って祝うぜ!!

「いや…普通のでいい。仕事で水都やエンガードの王都に行って家を空けることも多いしな」

出張の多いサラリーマンみたいだな……

いや、俺のせいなんだけどな。

遂にライルも結婚か……

この世界に来てからもうすぐ四年になるんだもんな。

俺にその兆候が見当たらないのはなぜだ?


こんなにお金持ちなのに……

〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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