「匂い」とは不思議なものだ。
自分での特有の匂いを嗅ぐことで
昔の記憶が呼び起こされたり、感動、悲しみ、
様々な感情が掘り起こされてくる。
しかし
私の嗅ぐ匂いはそれとは違った。
それは私が中学2年生だった頃。
授業をしている時に感じた。
(臭っ…)
それはタバコでもなく、焼いた煙の匂いとは違う
煙たい匂いがする。
それは突然やってくる。
鼻で呼吸をしなくても、口で呼吸をしても、
自然と臭ってくる。
鼻の奥でその匂いが溜まっているかのように。
「ねぇねぇ、ちょっと教室煙たくない?」
匂いがキツく、ふと友達に聞いた。
「え?煙たくはないけど…」
他の人にも聞いたが全員がこの反応だ。
学校が終わり自宅に帰宅。
その後、 母親に聞いたところ、母親も同じ事が起きていた。2年前からだと言う。
「もしかしたら私の移っちゃった?」
と気軽に言ってくる。
母親が言うにはその匂いがすれば何か悪いことが起こる。まるで未来予知のようだった。
悪いことが起こる対象は自分だけではなく、
周りの人も悪い事が起こるらしい。
「本当に何か起こるのかな。」
「でも、悪いことが起こるってだけで
何が起こるか分からないから防ぎ用がないから意味ないんじゃないかな…」
予知夢など、映像で知らせてくれば何となくは分かる。
しかし匂いだけ。
これだけの情報では分かりようがない。
こんな不安を抱きながらも
少し経ってからベッドに転がり、
眠りについた…
次の日。
「おはよー」
「ねぇねぇ!この前のみたぁ?」
登校時間はとにかくうるさい。
「そこの君!危ない!」
ガッシャァン!!
とてつもない音で周りを驚かせた。
配送トラックが生徒達に突撃した。
とても悲惨な状況になっている
「おい誰か!救急車!救急車呼べ!」
そこに1人の勇敢な男子生徒が駆け寄った。
(…!)
また匂った。あの匂いが。
「ちょっと待って!」
私は咄嗟にその男子生徒を止めた。
その途端にトラックが爆発。
私と男子生徒は少し吹き飛んだ。
「あ…ぁ…」
どちらも意識を失ってしまった。
気がつけば病院で入院していた。
「ここは…」
「やっと気がついたのね!1日気を失ってたのよ。」
「1日…」
「あ..!私と一緒に倒れてた男子生徒は!?」
「ん…?あぁ!もしかして山口さんの子?」
「いや…名前は知らないけど…」
「多分その子はすぐ意識を取り戻して今は退院してるわよ。」
「私も退院できる?」
「えぇ。怪我もないし退院出来るわよ。」
「でも、念の為身体を検査してから退院よ。」
まさか本当に悪いことが起こるとは思わなかった。匂ってから直ぐに起こることもあるとは思いもしなかった。
あれは私の直感の反応だったのだろうか。
その後、何事もなく退院。
普通の日常生活に戻った。と思っていた。
学校に登校すると直ぐさまクラスメイトが、
いや…学年程だろうか。
沢山の生徒たちが私に駆け寄ってきた。
「大丈夫だった!?」
「怪我してないの!?」
「現場の状況聞きたい!」
などの声が沢山上がってきた。
鯉に餌をあげている気分だろうか。
友達から聞いたのだが、
トラックの交通事故の被害は
生徒2人死亡。
トラックの運転手死亡。
2人軽傷
だそうだ。
トラックの運転手は居眠り運転だったそうで、
昨日まで一度も寝ていなかったそうだ。
「この事から、匂いを感じた時には
周りを警戒している。」
あの事故から1ヶ月後。
(また匂った…!)
今度は何かと周りをキョロキョロ見回す。
「コラ!カンニングするな!」
テストだったことを忘れていた。
テストが終わり職員室に呼ばれてしまった。
「あはは!何でキョロキョロしたのさw」
友達にもからかわれた。
その後も警戒したが何も起こらず
1日が過ぎた。
あの匂いから3日後。
「続いてのニュースは、あの有名な俳優がお亡くなりになりました。警察の判断では自殺とみなしており、遺書も置かれていたそうです。」
このニュースを聞いてボーッと、口をあんぐりと開けて見ていた。
今度は遅れて悪いことが起こるとは思いもしなかった。
「あら…やっぱり…前から匂ってたのよね…」
母も感じていたらしい。
これはどうしようもない。
場所も不明。起こる日も不明。それに自分の周りではなくもっと遠い場所だ。
タイムスリップが出来るなら話は別なのだが。
それからいくつも、いくつも匂いを感じ…
中学校を卒業する日までへと時が過ぎた。
「みんなで最後の卒業写真撮ろ!」
中学最後の日だと言うのに私は少し険しい顔でいた。
昨日。匂った。あの、煙たい匂い。
それも、むせるほどの匂い。
私の勘では卒業式だ。
何か大事な日には何か起こる。
「はーい!みんな撮るよー!」
「はい!チーズ!」
カシャ
みんなの満遍な笑顔と半面泣き顔のような集合写真が撮れた。
私を除いて。
写真を撮り、最後の別れの会をするため教室に戻った。
先生が喋り出す時。
悲劇は起きた。
教室全体が大きく揺れている。
「地震です。地震です。」
地震アラートの音はみんなを焦らせた。
「うわぁぁ!!」
「たすけてぇ!」
「エグいって!これはマジでヤバイよ!!」
これがみんなの、最後の言葉だった。
学校が崩壊。全体が崩れ、生徒、教師、もろとも
生き埋めとなってしまった。
奇跡的に生き残った人もいる。
私も。その一部だ。
運良く瓦礫と瓦礫の間で守られていた。
地震がおさまり、外に出た。
辺りを見渡す。
家が崩れている。家事にもなっている。絶望の淵に叩き落とされた気分になった。
それは全員が同じ思いだ。
思わず私は吐いてしまった。この世界の生きる辛さの事。神への恨みの事。
全て吐きたい。
「おぇっ….」
「あぁ…あぁ! 」
吐いた後は涙が出なくなるまで泣き続けた。
屈辱、悔しさ、悲しさ。
負の感情がどっと、流れ出した。
泣きやみ、歩き続けた。
家は無かった。
崩れていた。
中を確認しようとしたが止めた。
私自身が絶望するだけなのかもしれない。
何となく分かっていた。
匂っていた。体全身に痺れが行き渡るような。
行く宛もなく途方に暮れていた。
ふと、私は思う。
この現状を起こしたのは私では無いのだろうか。
「匂い」を感じることで起きることではないだろうか。
否定をしたくても、そのことを受け止めてしまった。私は罪深き女。
私は、死神なのかもしれない。
この死神を今。殺す。
「今から会いに行くよ、お父さん…」
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たった1話だけの 小説となります。 続きは無いのでご了承ください。