「うわっ…もうこんな時間…」
もうすぐ、私が乗る電車の時間が迫っていた。これを逃すとしばらく待たなきゃいけなくなる。
私は急いで着替えると、雑にロッカーを閉め、走り出す。
全く、店長と余計な話をしなければもっと余裕があったのに。
苛立ちをぶつける相手がいないので、ぶつぶつ言いながら走る。
そして、お店の裏口を抜け、駅まで一直線に――
――ガシッ――
行く前に、後ろから腕を捕まれる。
「きゃっ…」
予想外の展開に、体勢を崩し、尻餅をつく。腰に、鈍い痛みがはしり、顔をしかめる。
まさか、また店長がしつこく追いかけてきたのか。今度こそストーカーだ。本部に訴えてやる。
そう思いながら立ち上がって相手を睨む。
ところが、そこにいたのは店長ではなかった。
(誰…?)
月明かりに照らされ、その姿が露になる。ポッチャリ体型に、顔はぶつぶつのニキビ面。眼鏡をかけていて、いかにもオタク系の男だった。
男は、にやにやと口元を下品に歪ませ笑いながらこっちを見ている。
あまりの気持ち悪さに背筋が凍りついた。
ヤバイやつだ。逃げなきゃ。本能がそう告げている。
分かっているのに、身体がすくんで動けない。あれだけ男をバカにしていたのに、こんな経験は初めてだった。
「あ…あの…何か?」
震える声で、何とか声を出す。男は、にたりと笑いながら話す。
「ねえ、き、君…このお店でレジやってる子だよね?ぼぼ…僕、ずっとかわいいなって見てたんだ。こ…これ…僕の携帯番号…」
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