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「……こんないい子に育ったんだから、孫として〝祖母〟に会わせてあげたいんだけどね」
「『会いたくない』って言っているんですか?」
尋ねると、彼女は微妙な表情で答える。
「どうかしらね。尊くんが引き取られたあと、私たちはしばらく尊くんに関わらずに過ごしてきた。亘さんから成長記録を受け取っていたものの、彼が二十歳の時に偶然会うまでは、『会いたい』って言い出せずにいたの」
確かその頃は、尊さんが怜香さんの一存で篠宮フーズに勤めると決められ、自暴自棄になっていた時だ。
「十年間、私たちは尊くんにノータッチで過ごし、そのあいだ速水家で彼の話題が出る事はなかった。そうしているうちに、なんとなく彼の存在はタブーになってしまったのよ。だから今さら言えずにいるというか……」
「じゃあ、皆で尊くんを守りつつ、お祖母ちゃんちに突撃したら?」
小牧さんがあっけらかんと言い、ちえりさんはブフッとビールに噎せる。
「それができたら……」
途中まで言って、ちえりさんは言葉を切る。
「お祖母ちゃんだって、『孫たちが遊びに行くよ~』って言ったら喜んで迎えてくれるだろうし、その中に尊くんが混じってても気づかないんじゃない?」
「気づくわ!」
大地さんがビシッと突っ込む。
「……俺は醜いアヒルの子か……」
尊さんはボソッと言って、小さく肩を震わせて笑っている。
「……でも、意外といいのかもね? 『来るな、入るな』って言う前に家に上がっちゃえばこっちのもんよね」
弥生さんが言い、ニヤリと悪い顔で笑う。
「お祖母ちゃんに怒られても知らないわよ?」
ちえりさんは娘たちの奔放さに呆れているが、小牧さんは引かない。
「お祖母ちゃん、幾つだと思ってるの? もう八十一歳だよ? まだ元気だけど、いつ何が起こるか分からない。意地張って一生尊くんに会えないで、後悔したまま死ぬの? そっちのほうがバカみたいでしょ」
「確かに」
私は思わず頷いてしまい、尊さんに「こら」と言われてしまう。
けれど弥生さんがガシッと私の手を両手で握り、頷いてきた。
「だよね!? お祖母ちゃんたちは頭が固いのよ! さゆり伯母さんの事で、皆どれだけ後悔したと思ってるの? 『後悔先に立たず』って言葉を思い知ってるはずなのに、尊くんに会わずに人生を終えるなんて、馬鹿げてるよ!」
そう言われ、私は気後れしながらも、ソロソロと挙手して話し始めた。
「……私は速水家と篠宮家の確執について、部外者です。尊さんと結婚したいと思っていて、その点については関係ありますが、今まではまったく関係ないところで生きていて……。……何が言いたいかと言うと、第三者的な目で見ても、小牧さんや弥生さんの意見に賛成です」
私は皆さんのほうを見て訴える。
「私はただ、尊さんに幸せになってほしいんです。私は妻になる存在として、全力で彼を幸せにしていきたいと思っています。でも親類に関する事はカバーできません。尊さんは怜香さんとは決着をつけたし、あとは幸せになるだけ。速水家の方々にはこうして受け入れてもらえているし、亘さんや風磨さん、あちらの祖父母とも悪くない関係を築けているから、それでいいって言うに決まっています」
言ってから尊さんを見ると、彼は少し困ったような表情で微笑んでいる。
「尊さんにはもっと強欲になってほしいんです。『俺はこれでいいよ。今の状況は恵まれている』って足るを知る感じを見ていると、大人だなって思うんですけど、もっともっと幸せになってほしい。……さゆりさんが勘当されたと知った尊さんが、『これ以上祖母に近づいたら駄目だ』と思ったのは分かります。会いに行って、万が一拒絶されたら……と思っただけで怖くなります」
私は話しながら感情的になり、少し涙ぐんでしまった。
「けど、今日皆さんの話を聞いて、ちゃんと肉親の愛情があったんだって分かりました。今までお祖母様については『心を閉ざされたんだな』と思っていましたが、今もさゆりさんを深く愛して気に掛けていらっしゃるなら、絶対尊さんの事も気にしているはずなんです。……だから、会ってほしいです。きっと大丈夫なはず」
最後の言葉は、尊さんを見つめて言った。
「じゃあ、二十日のお彼岸の日、行ってみる?」
ちえりさんがおずおずと言うと、娘二人は拍手する。
「俺もいいと思う。ずっとわだかまりを残したまま生きるのは、誰だって嫌だろ。身内に関する事なら、スッキリさせていい付き合いをしたいもんだ」
大地さんが言うと、貴弘さんが頷いた。
「俺もサポートするよ。尊だって速水家の立派な一員なのに、このままは駄目だ」
息子が言ったのを聞き、裕真さんも同意する。