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「獲ったどぉー!」
森の中に威勢の良い声が響く。
「んっふっふー、ミルブルスだなんて結構大物なのよ。荷物の心配がいらないって素敵なのよ」
パフィが襲いかかってきた動物を仕留め、1人盛り上がっている。足元にはパフィより少し大きいくらいの、足を太くした牛のような動物が転がっていた。
早速解体を進めていき、肉を袋に詰め込んでいると、森の奥からロンデルが向かってくるのが見えた。
「パフィさん。今夜の食材でも獲っていましたか?」
「そうなのよ。大物だったから、副総長も手伝ってほしいのよ」
「ええ、俺…私としても有難いですし、喜んで」
にこやかに切り分けられた肉を詰め込んでいく。
パフィは要らない部位を埋めながら、ロンデルに質問を始めた。
「副総長って、アリエッタと遊んでいる(?)ピアーニャを見てる時、すっごく悪い笑顔になってるのよ。どうしてなのよ?」
ロンデルはピタリと身体を止めて、笑顔でパフィに向き直った。
「……おや、バレていましたか」
「甘く見てもらっちゃ、困るのよ」
2人は不敵な笑みで、見つめ合うのだった。
その頃家の前では……ピアーニャが一切動けなくなっていた。顔が強張り、頬には汗が伝い、手が微妙に震えている。
そんなピアーニャを、アリエッタは険しい顔で睨みつけていた。
「総長、絶対に動いては駄目ですよ?」
「ぐ……まさかこんなコトになるとは……」
「むー……」
ピアーニャが動こうとすると、不機嫌そうな声を出すアリエッタ。数日でその理由を理解する事が出来ていたミューゼは、アリエッタの望んでいるであろう事を、ピアーニャに伝える事が出来るようになっていた。
「ふふふ、さすがの総長も、予想出来なかったようですね。感想は……全てが終わってから聞くとしましょう。今は大人しくしておいた方が身の為ですよ」
「く……そ……」
「うぅ……」
「総長、力を抜いて笑っておいた方が良いですよ。アリエッタが怒っても知りませんからね~」
アリエッタの望むままに、総長を意のままに操る……ミューゼは明らかに楽しんでいた。
諦めたピアーニャは、言われた通りに肩の力を抜いて、表情を崩す。
「まぁ話をする分には問題ないですし、気楽にいきましょう」
「ふん……それで、さっきいったとおり、おまえたちはアリエッタをつれて、あそこにいきたいと…いうのだな?」
「はい」
ピアーニャは溜息をつく。
「それはいいが、なぜわちもいくハナシになるのだ?」
「なぜって、当然じゃないですか」
少し小馬鹿にしたような顔で、溜息をつき返すミューゼ。
ピアーニャは少しムッとするが、動けないでいる。
「アリエッタとピアーニャちゃんは、既にセットなんですよ」
「かんべんしてくれ……」
「ぴあーにゃ?」
「いや、うむ、なんでもないぞ」
大きな溜息をつくとアリエッタに声をかけられ、姿勢を正す。会話は通じずとも、目の前に本人がいるせいで、焦らずにはいられないのだった。
しばらく静かにしていると、突然アリエッタが動き出す。
「あら、どうしたの?」
「ん……」
おもむろにサイドテールを触り……そして髪を解いた。銀色の髪がふわりと広がる。
「なんだ?」
ミューゼとピアーニャが観ている中で、アリエッタはニヤリと笑みを浮かべていた。
日が傾き、森の中は少しずつ薄暗くなってきた。そんな中、1つの人影が泉の方向に歩いて行く。
「少々手こずってしまいましたね。戻ったら湧き水で血を落とさねば……」
赤く染まった手を見ながら、ロンデルは袋を持って泉のある場所へと入っていく。その顔にも赤いモノが付着していた。
少し立ち止まり、笑みを浮かべて軽く後ろを振り返り、呟き始める。
「礼を言いますよ、パフィさん。貴女方のお陰で私は総長に……フフフ……ハハハハハハ!!」
ひとしきり笑った後、深呼吸をしてからいつもの顔に戻り、アリエッタの家の方向へと歩き始めたのだった。
茂みの奥に入り、蔓を目印に歩いて行く。すぐに大きなキノコが見えてきた。その前には……
「むっ……あれは……」
ロンデルが見たのは、魂が抜けたような顔をしているミューゼとピアーニャ。そしてミューゼの膝枕で横になっているアリエッタの姿だった。
近寄ってみると、何かを見ているようである。
「どうしました? 総長、ミューゼオラさん」
「……あ、副総長」
かろうじてロンデルに気が付いたミューゼが反応した。
「ちょっと……アリエッタの凄さを目の当たりにしてしまいまして……ははは」
「? すぐ戻りますので、詳しく聞かせていただきたい」
「はい」
訝し気な顔をしながら、ロンデルは赤く染まった手を洗いに向かった。
我に返ったミューゼは膝で眠るアリエッタを撫で、ピアーニャが固まったまま持っているそれを見て、ため息をついた。
「総長、そろそろ戻ってきてください。副総長が戻ってきましたよ」
「……はっ! わちはいったい」
ピアーニャも我に返り、すぐにロンデルが戻ってくる。ミューゼとピアーニャは頷きあい、真剣な顔でロンデルと向き合った。
「じつはおまえとパフィがはなれてから…なんだがな。アリエッタが、えをかきはじめ、ついさっきできあがったのだ。こころしてみるがいい」
「はぁ。あの素晴らしい絵ですか」
そう言って、手に持っていた紙を裏返してロンデルに手渡した。
絵が尋常じゃなく上手いと知っていた為、渡されてもすぐには見ず、緊張した面持ちで1回だけ深呼吸し、紙を裏返す。すると……
「っんな!? これは……総長!?」
そこには予想以上の絵が描かれていた。
丸みを帯びた輪郭、くりんとした瞳、ふわりとした髪……幼い外見を見事に捉え、ロンデルにはどう見ても生きているように見えてしまう。
しかもミューゼの時に比べて、色が細かくつけられ、光彩も陰影も細部にわたって表現されている。明らかにグレードが上がっていた。
ロンデルは呆けた顔で、絵とピアーニャ本人を見比べ、呟いた。
「……どちらが本物でしょうか」
「ぅおいっ!?」
「ま、まぁ気持ちは分かるけど……」
そのまま少しの間、ロンデルは絵を凝視し続けたのであった。
「なんだか…わちがみられてるようで、ムズムズするな……」
「それ分かります。あたしもこの前そう思ってましたし」
覚悟していたお陰か、2人より早く復帰したロンデル。そのまま疑問を投げかける。
「これ、どうやって色をつけたんですか? 何も持ってきていませんでしたよね?」
「それについては、パフィが戻ったら話します」
「……あぁ、パフィさんでしたら」
視線を泉の方向に向ける、ミューゼもつられてそっちを向くと……
「戻ったのよー。いやー重かったのよ」
血みどろのパフィが歩いてきていた。
「ちょっとパフィ!? なにそれ!」
「えっと、ミルブルスを仕留めて解体していたのよ。それを運ぶために袋に入れていたら、まだ血が残ってて、思いっきりかかっちゃったのよ。あ、副総長、血はもう落としたのよ?」
「ええ、先程裏で洗い流しましたよ。肉はそこに」
「助かったのよ」
解体の返り血まみれになりながら、先にロンデルに半分以上の肉を運んでもらい、パフィは後処理をして戻ってきたのだった。
アリエッタに膝枕しているミューゼの様子を見て、動けないと理解したパフィは、肉が入った袋を置いて、家の裏へと向かう。
「なんだか大量ですね」
「今日明日で半分も使えないでしょうね。帰ったら残った分はお渡ししますよ」
「えっと……良いんでしょうか……」
「わちらはカネあるからキにするな。アリエッタのチョウサヒだとおもってくれ」
しばらくしてパフィが戻ってきた。付着した血が多かった為、しきりに匂いを気にしている。
「で、何の話をしていたのよ?」
「これの話ですよ」
サッパリして戻ってきたパフィに、しれっと絵を渡すロンデル。そして普通に受け取り、それを見た。
「あらそうちょ…んん? んんんっ!?」
一瞬リアクションが遅れ、すぐに目を丸くして固まった。完全に不意打ち状態で見てしまった為、自分が何を見たのか、分からなかったのである。
「みゅみゅみゅみゅみゅ……」
「そうよ、もちろんアリエッタが描いたの」
「どどどどどどど……」
「みんな揃ったから、その事について話そうとは思うんだけど、ちょっと暗くなってきたし、中に入らない?」
「なんでカイワせいりつしてるのだ……?」
混乱して全く上手く話せていないパフィに対し、当たり前のように応答出来ているミューゼを、横の2人は不思議そうに見ているのだった。
全員移動しようとしたその時、アリエッタが目を覚ました。
「んぅ……?」
「アリエッタ、おはよう」
「……おはよ」(ちょっとだけ寝ちゃってたか……満足したからなー)
アリエッタが起き上がろうとしたその時、
く〜〜〜……
お腹から可愛い音が鳴り響き、難しい顔をしている一同を、破顔させた。
「話の前にごはんにするのよ。今回は獲れたてのお肉が沢山あるのよ」
「そうね。その後の方が時間たっぷりあるし」
その後、パフィは念の為に持ってきていた芋モドキを塩茹でにし、肉を切って焼いていく。
アリエッタを除く4人は、大事な話の前の、のどかなひと時を楽しんだ。時々美味しそうに肉を頬張るアリエッタを、優しい目で眺めながら……。