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それは4人で旅行に行った時の話
いつもの自分たちらしく騒いで、旅館で駄弁って、眠りについたその日、
閉めたはずの窓から入り込むそよ風が自分の髪を揺らすものだから、ふと意識を覚醒させたのだ
誰かを起こしてしまわないよう、ゆっくりと起き上がる
kz(…寝る前に閉めたのに)
そう、縁側の窓を閉めたのは自分だ、なのに、どうして風が
そう思って無意識に窓へ顔を向けると、縁側に1人、ぽつんと座り込んでいた
端っこで、自分の隣で眠っていたはずの彼
その布団は空になっていて、その時点で気づかなかった己の熟睡度合いに驚くくらいだ
kz「………りもこん?」
月明かりに照らされた水色の髪が揺れてこちらを向く
逆光で上手く見えなかったけれど、自分を視界に映した時、きっと彼は笑ったんだと思う
rm「…おこしたぁ?」
kz「……いや………なにしてんの?」
rm「………んー……………」
まともに返事をせずに、彼は夜空へと再び顔を向けた
そんな状態で二度寝しようなんて気にもなれなくて、布団から抜け出して彼の隣に座った
夜空は確かに綺麗だったけど、それよりもりもこんの方が気になって仕方がなかった
彼が寝付けないなんてこと、初めてだったから
自分が隣に座ったことも気にも留めず、しかしその横顔は夜空に見惚れているわけでもないようで、
そこにはない何か別の、何かをじっと見つめているようだった
kz「…きれいだね」
rm「…………………うん」
自分の話を聞いてない何ですぐにわかる、遅くて曖昧な、弱々しい返事
彼は、今何を考えているのか
彼には何が見えているのか
そんなこと、わかるわけもなくて、りもこんと一緒にただじっと、空を見つめる
オリオン座が見える季節でもないし、特別星座に詳しいわけでもないから、ただ眺めることしかできないけれど
そうだ、この際自分で星座でも作ってやろうか、りもこんにもそう聞いてみるか?
…いや、話しかけていいのか?
脳内会議は結果的にりもこんの方へと意識を向けてしまって、どうしてもそわそわとしてしまう
やるせなくてそっと下を向いた時、不意に彼が言葉を放った
rm「…俺は役に立ててるかな」
kz「……………え?」
随分と間抜けな声が出たと思う
今聞いた声が幻聴なのか疑うほどに、突然なものだったから
りもこんの方へ顔を向ける
…彼の顔は何も変わらない、ただじっと、それを見つめている
けど、もしかしたら、今彼が見つめているものは…
rm「…ふうはやは、頼り甲斐あるよね…元気で、ボケもツッコミも上手くて、世渡り上手というかさ」
kz「……」
rm「しゅうとも、一番年下だけど、やっぱり長男というか、優しくて、俺らのことよく見てくれてて」
kz「…りもこん、」
rm「かざねもそう、努力家だし、さりげない気遣いとかできるじゃん、俺にはできないけど」
kz「りもこん」
rm「…何で俺、いんくなのかな、…いいのかな、おれ」
kz「りもこんってば、」
rm「今日楽しかったけど、でも、……だから、なんかわかんないけど、辛くてさ」
kz「ねえ、」
rm「こんな、こんなおれが…」
kz「りもこん!!!!」
問いかけに応じない彼を無理やりこちらに向かせて抱きしめる
自分でも苦しくなるくらいに、ぎゅっと、強く
そうでもしないと、今にも腕の中の彼が消えてしまいそうで
触れて確かめた彼の体は、酷く細く思えてしまった
kz「…そんなことない、そんなことないよ」
rm「……」
kz「必要に決まってるでしょ、何言ってんの、りもこんは頑張り屋だし、ふうはやと良いコンビだし」
kz「頼りになる時だって俺らと同じくらいあるだろ、お前が気づいてないだけだよ、俺らは知ってるからっ」
rm「………かざ、」
kz「りもこんがいなきゃダメだよ、!…てか、1人でそんな大きい悩み抱えてんなよぉ……!!」
悩ませていた、その上、気づいてやれなかった
自分で話していながらその後悔が押し寄せて、涙が溢れてくる
りもこんは、泣いている風ではないのに
kz「寝よう?ここは冷えるよ、もう寝よう?」
抱きしめた状態で、彼の頭を撫でながら問いかける
このままここに居させると、より彼の深淵が見えてしまいそうで
きっと向き合うべきだろうに、その度胸がなくて引き返そうとする自分が憎くさえあった
kz「りもこん?」
返事がないことを心配して、抱きしめた状態から彼を解放する
途端、びくりとりもこんの体が揺れて、俺の浴衣の裾を掴んだ
kz「……りも、」
ぐるぐると深い闇に囚われたような暗い瞳、迷いや不安を感じている顔色
にわかに嫌な汗を浮かべている、幼子のような彼の表情に絶句する
咄嗟に、安心させようと再び彼を抱きしめた
kz「大丈夫、!!大丈夫、ひとりじゃない、ひとりじゃないからな、な、?」
rm「……は、…っ、」
はっきりと彼の呼吸音が聞こえて、耐えられず力を強める
kz「一緒に寝よう、お前をひとりにはしないから、」
ひとりにしない、したくない、頼むから、ひとりにならないでくれ
ひとりになれば、お前はきっとどこかに消えてしまうだろう
そして二度と、かえってこないんだろう?
kz「お願い、一緒にいよう?布団も隣だし…怖がる必要ない、な、りもこん、!」
頼む、頼むから、お願いだから、うん、と言ってくれ
言ってくれなくても、せめて頷いてくれ
rm「……いっしょ、」
kz「そう、一緒にいよう、そうしたら怖くないよ」
rm「………ぅ、ん、」
kz「!!……ありがと、」
彼が了承の意を示してくれたことにひどく安堵して、ゆっくりと手を引いた
縁側から布団の中に入るまで、彼の動作も、反応も、眠たげな幼子を相手しているかのようだった
最初の順番とは逆に、自分が縁側の方に寄って、りもこんを抱きしめながら寝ることにする
布団に入ってしばらくは、何度かりもこんの体が震えて、危な気な呼吸音が聞こえてくる
その度に背中をさすっては、大丈夫だと声をかけるのだ
彼も自分も眠りにつくのに、きっと数時間は要したと思う
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fu「りもこん寝相悪すぎかよ!!!」
rm「ちがいますー!!今回だけですー!!!!」
朝起きた時に俺とりもこんの順番が逆になっていたことについて、ふうはやは面白おかしく騒ぎ立てていた
それに対してりもこんは、恥ずかしそうにしながらも、楽しそうに笑って見せていた
その様子は、いつもの彼と同じだった
チェックアウトのために部屋の片付けをして、レンタル物品を返しにしゅうととふうはやが部屋を出ていく
りもこんと2人きりになって、彼が声を上げた
rm「かざね」
kz「ん……なに???」
顔を向けると、下を向いて、申し訳なさそうに佇む彼の姿がある
どうしたらいいかわからないとでもいうかのように
その姿は、完全とまではいかなくとも、夜の彼を思わせた
kz「……夜は眠れてる?」
rm「え、」
kz「…いつも、あぁやって悩んでたの?」
rm「……」
rm「……ごめん、…ごめん、なさい、」
……あぁ、ここで謝るのか、だとすれば、彼はきっと何もわかってくれてないのかもしれない
すれ違うばかりの思いに顔を顰めれば、その様子を見たらしいりもこんが、さらに不安の色を濃くさせた
kz「ちがう、違うよ……あぁもう」
彼の元に寄って、びくりと後ずさるその体を抱き寄せた
kz「これからは1人で悩まないこと」
kz「毎日……はちょっと無理かもだけど、悩むなら俺呼んで?…すぐ行くから」
kz「ふうはやとか、しゅうとも相談乗ってくれると思うし、誰も嫌な顔しない」
kz「りもこんが悩んでたこと、俺らはそんな風に思ってないけど、不安になるなら何度でも言うから」
ぽんぽんと軽く背中を叩いて体を離す
いくらかマシになった顔色が、こちらの様子を伺うように視線を向けていた
kz「不安な夜は、また一緒に寝よう」
隠し事は禁止だよ、とまで付け加えれば、遠慮がちに彼は頷いた
頷いてくれるだけ、吐き出そうとしてくれるだけ、マシだろう
その心の闇は、それ以上深めてはいけないから