テラーノベル
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深澤と渡辺が開けた缶ビールは、ほとんど減っていなかった。
二人とも口をつける程度で、それ以上は飲まない。
対照的に、阿部の前に並ぶ空き缶だけが少しずつ増えていく。
「……もう一本。」
阿部が缶へ手を伸ばすと、渡辺は止めようとした。
しかし深澤が小さく首を横へ振る。
「今日は飲ませよう。」
その言葉に渡辺も黙って手を引いた。
気付けば、阿部だけがすっかり酔っていた。
頬は赤く、普段より口数も少し多い。
___________
ふと渡辺の視線が部屋の隅へ向く。
ガムテープでしっかり封をされた段ボール箱が、いくつも積まれていた。
「あべちゃん。」
「あれ、まだ開けてないの?」
阿部もその段ボールへ目を向ける。
「……うん。」
「めめとの思い出。」
「まだ見るのは……難しい。」
そう言って視線を逸らした。
開けてしまえば、きっと後戻りできなくなる。
だから封をしたまま、触れずに置いてある。
深澤はしばらく段ボールを見つめたあと、静かに尋ねた。
「指輪は?」
阿部は少し考え、小さく答える。
「箱に入れてある。」
「無くしたくないから。」
「引き出しの奥に仕舞った。」
その言葉だけで、まだ手放せていないことが分かった。
渡辺は缶をテーブルへ置く。
「めめ。」
「記憶なくしても、あべちゃんに惹かれてる。」
阿部の肩が小さく震えた。
「あべちゃんのこと見てる。」
「隣に行く。」
「守ろうとする。」
「全部無意識で。」
「それでも、お前を選んでる。」
阿部は俯いたまま首を横へ振る。
「違う……。」
「違わない。」
「頭は忘れてても。」
「身体も心も覚えてる。」
その一言で、阿部の涙があふれた。
「でも……。」
声が震える。
「俺じゃ……。」
「幸せにしてあげられない……。」
ぽろぽろと涙が膝へ落ちていく。
堪え切れず、阿部は顔を覆って泣き出した。
深澤は静かに阿部を見つめる。
「今のままでいるのは。」
「めめも、あべちゃんも無理だよ。」
阿部は涙で濡れた顔を上げる。
「これはめめへの優しさじゃない。」
深澤は真っ直ぐ阿部を見た。
「あべちゃんが逃げてるだけ。」
その言葉に阿部の瞳が揺れる。
「違う!」
思わず声を張り上げる。
kaede🍁
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みら

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「俺は逃げてない!」
「無理じゃない!」
「めめは時間がかかっても……。」
涙で言葉が詰まりながらも、必死に続ける。
「時間がかかっても俺のこと忘れる。」
「それでいいんだ。」
「新しい人を好きになって。」
「結婚して。」
「幸せになるんだ……。」
「俺なんか……。」
「いなくても……。」
言い終わる前に力が抜け、その場へ崩れ落ちた。
肩を震わせながら泣き続ける。
「お願いだから……。」
「幸せになってよ……。」
その姿を見た深澤は何も返せなかった。
隣では渡辺も唇を噛み締めている。
二人とも分かっていた。
阿部は本気で目黒の幸せだけを願っている。
だからこそ、自分の幸せを全部捨てようとしている。
その優しさが、あまりにも痛々しくて。
リビングには阿部の嗚咽だけが静かに響き続けていた。
___________
翌朝。
「……頭痛い。」
ソファで目を覚ました阿部は、額を押さえながらゆっくりと身体を起こした。
「おはよう。」
キッチンから深澤の声が飛ぶ。
振り向くと、渡辺と二人で朝食を食べていた。
「……何でまだいるの?」
「泊まるって言ったじゃん。」
「そこじゃなくて。」
阿部は苦笑しながら頭を抱える。
「お酒飲んでからの記憶が全然ない。」
深澤と渡辺は顔を見合わせる。
阿部は嫌な予感しかしなかった。
「俺、何かやらかした?」
「いや。」
渡辺が笑いを堪えながら答える。
「酔ってても頑固だった。」
「そこだけは通常運転。」
「何それ。」
阿部はため息をつく。
立ち上がろうとした瞬間、ふらっと身体が揺れた。
「うわ……。」
「まだ二日酔いじゃん。」
深澤が呆れたように言う。
「2人共、出禁。」
「勝手に酒飲んだの誰だよ!」
「飲ませたのふっかと翔太だから!」
三人とも思わず笑ってしまった。
その笑いも長くは続かない。
時計を見ると、動画撮影の集合時間が迫っていた。
阿部は車のキーを手に取るが、渡辺がすぐに止める。
「今日は運転無理だろ。」
「でも仕事……。」
「佐久間呼ぶ。」
渡辺は迷いなくスマートフォンを取り出した。
___________
三十分後。
佐久間の車が到着する。
「おはよー……って。」
「あべちゃん顔色悪っ。」
「二日酔い。」
深澤が即答した。
「お前ら何した。」
「酒。」
「でしょうね。」
佐久間は苦笑しながら阿部を助手席へ座らせる。
車が走り始めると、阿部はすぐに眠ってしまった。
規則正しい寝息が車内へ響く。
佐久間は車を路肩に停めて、寝顔を確認する。
「寝た。」
その一言で後部座席の空気が変わった。
渡辺が小さく息を吐く。
「……あべちゃん。」
「酔ってても頑固だった。」
「やっぱり。」
「本人を使ってめめの記憶を戻させるのは無理そう。」
「絶対、自分から離れようとする。」
深澤も静かに頷く。
「分かってたけどな。」
「でも。」
深澤はポケットへ手を入れ、小さな箱を取り出した。
「こっちは達成した。」
「はい。」
そう言って佐久間へ手渡す。
佐久間は中身を確認すると、小さく笑った。
「ありがとう。」
「後は俺に任せろ。」
___________
撮影会場へ到着する。
阿部はまだ助手席で眠っていた。
三人はもう一度寝息を確認する。
「起きてない。」
「よし。」
三人の口元に、悪い笑みが浮かんだ。
「めめ呼んで。」
深澤が言うと、スタッフが目黒を呼びに行く。
「どうしました?」
目黒は車へ近付くなり、助手席の阿部を見つけた。
「阿部さん!?」
慌ててドアを開けようとする。
「しょっぴー、ふっかさん。」
深澤と渡辺を振り返り、本気で睨んだ。
「二人とも年上なんだから、ちゃんと止めてよ。」
「飲ませすぎ。」
その姿を見て三人は顔を見合わせる。
(見ただけで…。)
(二日酔いって分かるんだ…。)
記憶はなくても。
やっぱり一番最初に阿部を心配する。
変わっていない。
佐久間はそっと目黒を呼んだ。
「蓮。」
「ちょっと。」
目黒が近付く。
佐久間は誰にも見えないよう、小さな箱を手渡した。
「これ。」
目黒は不思議そうに箱を開ける。
中には、一つの指輪。
「……これ。」
「俺の?」
佐久間は笑いながら頷いた。
「そう。」
「事故の日にあべちゃんが外しちゃったやつ。」
「もう取られるなよ。」
目黒は静かに指輪を見つめる。
なぜだろう。
胸の奥が熱くなる。
理由も分からないのに、その指輪がようやく自分の元へ帰ってきたような気がした。
目黒はゆっくりと左手の薬指へ指輪をはめる。
ぴたりと収まったその感触に、胸の奥で何かが小さく震えた。
その様子を見守る深澤、渡辺、佐久間は、何も言わず静かに微笑んでいた。
コメント
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言ってはいけないのは重々承知してますが叫ばせてください、今すぐ続きを読ませて下さい🙇
🖤早く思い出してー😭😭😭