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第3夜、ボードレールとランボーと太宰治です
コンクリートの床に、壊れた椅子が三つ。
そこに座る配置が、もう最悪だった。
中央に太宰治。
右にシャルル・ボードレール。
左に、足を投げ出すようにしてアルチュール・ランボー。
沈黙が長い。
長すぎて、普通なら誰かが耐えきれずに喋る。
「いやあ……」
最初に口を開いたのは太宰だった。
「このメンツ、保険が下りない匂いしかしませんね」
ランボーが即座に吐き捨てる。
「喋るな。言葉が腐る」
「ひどいなあ」
太宰は笑う。
「でも君、世界を腐らせるのは得意でしょう?」
ランボーの視線が鋭くなる。
床の影が、一瞬だけ歪んだ。
「壊すんだ」
低い声。
「腐らせるんじゃない。全部、燃やす」
その言葉に、ボードレールが小さく息を吐いた。
「若い」
それだけ言って、グラスを傾ける。
「破壊に意味を求めるうちは、まだ救いがある」
ランボーが立ち上がる。
椅子が音を立てて倒れる。
「救い?」
「お前の花は、救いのふりをした鎖だ」
空気が一気に重くなる。
黒い花弁が、床に滲むように浮かびかける。
太宰が、ぱちぱちと手を叩いた。
「わあ、師弟喧嘩だ」
「ねえボードレールさん。彼、あなたのこと嫌いすぎじゃないですか?」
「嫌悪は理解の裏返しだ」
ボードレールは視線を動かさない。
「私は彼の未来を知っている」
ランボーが笑った。
笑い方だけが、異様に幼い。
「未来?」
「なら教えてやる。俺は詩を捨てる」
その瞬間、
太宰の笑顔が、ほんの一瞬だけ消えた。
「……それは」
「ずいぶん残酷だ」
ボードレールは黙ったまま、花を消す。
何も言わないことが、肯定であり、呪いだった。
ランボーは背を向ける。
「お前らみたいに、腐ったまま生きない」
足音が遠ざかる。
残された二人。
太宰が、天井を見上げて言う。
「ねえ」
「若者に夢を見せるのも、罪ですよ」
ボードレールは答えない。
ただ静かに、また一輪、黒い花を咲かせた。