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王都を出て、先日の平原で敵対していた隣国へ向かい歩き始めた4人。
白髪の魔女の襲来後、ヴェスパ達のギルドがあるヴォルガム国と、隣国であるアクリム国の両国は停戦の協定を結ぶ為、早文のやりとりをしていたらしい。
ヴェスパの話によると、アクリム国も同様、2体の白い魔族が城を襲撃。ヴォルガム国程の被害は出ていないようだが、それでも国の代表や貴族達が殺害され、ヴォルガム国同様に国が混乱。復興で忙しいらしい。
本来であれば、どちらかの国の代表同士が話し合いをし、停戦調停を直接結ぶ必要があるのだが……お互いがこの状況。代表が国を離れることができない。
フィニス達は白髪の魔女の調査の一環……そしてヴォルガム国の代表代理として、アクリム国へと向かっていた。
「まさか……アクリムまで魔族に襲われていたなんて……」
「襲撃してきたのがアイツ……同じ双剣の魔族なのか……別の魔族なのか……」
「まぁ、それも含めて直接確認しないとな」
「そうですね」
そんな話をしながら、先日ベスオー平原まで向かった道を歩いていた。
「隣国の領地へ入るにも、まずはベスオー平原を抜ける感じかな」
そう言って先頭を歩くルシオ。みんなに聞こえるような声でフィニスも続けた。
「ついでにベスオー平原をもう一度見ておきたいしな。魔女の痕跡があるかもしれないし」
その言葉に皆が強く頷いた。
⸻
王都を出てから二日。明日には林道を抜け、ベスオー平原に到着するであろう。
日も暮れたため、林道から少し外れた開けた場所で焚き火にあたり休んでいる4人。持ってきていた干し肉を焚き火に当てながら、ルシオがふとニティアの名前を呼んだ。
「なぁニティア」
「ん?」
術式構築の研究をしているのだろう。左右の人差し指の先に小さな魔法陣を展開させ、視線を動かさずに返事をするニティア。そんな様子に少し苦笑いをしながら、ルシオが続けた。
「わざわざ歩かなくても飛行魔法使えばすぐに移動できるじゃん?それを普段やらないってことは……やっぱりあれって魔力消費でかかったりするの?」
その言葉にピクッと反応するニティア。指先の魔法陣が消え、視線をフィニスに向ける。
目は合わなかったが、笑っているフィニスの顔を見て、ニティアも笑みが溢れていた。
「それは……」
ニティアが答えようとした瞬間……
「うわぁー!」
遠くから聞こえた人の声。
「な、なに?!」
「……悲鳴?」
「何が聞こえたな」
4人が武器を手に取り、その場で立ち上がる。ニティアとアルテアが同時に同じ方向に視線を向けた。
「あっちです」
「うん。魔物の気配がする」
火を消すフィニス。ルシオも手に持っていた干し肉を口に放り込み、2人が示した方へ先陣を切って走っていった。
⸻
樹々の隙間を掻い潜り、走る4人。うぅ……という小さな呻き声が少しずつはっきりと聞こえるようになってきた。
ガサガサっ!
草木を押し退け、少し開けた空間に出たルシオ。
ビクッ!
ルシオの足元近くに、小さな子供が震えながらしゃがみ込んでいた。肩と膝からは出血をしている。続いて他3人が到着したのを見て、ルシオはすぐにアルテアに子供の手当ての指示を出す。
「アルテア!子供が怪我してる。回復を頼む!」
「は、はい!」
「こんな森の中に子供?!」
「気を抜かないで。来るよ!」
ニティアがそう言い放った瞬間、生い茂る草の隙間。沢山の節々の身体に、無数の足。大きな牙と、ひたいに輝く赤黒い石。
ムカデのような造形の魔物が2匹……ゆっくりと近づき、一定の距離のところで歩みを止めた。
「うわっ……キモっ……」
全身から鳥肌が立ったニティアは、自然と身体を浮かせ、魔物から距離を取る。
「おまっ……!逃げるなよ!!」
その様子を視界の端で見ていたフィニスがニティアにツッコミを入れた。
「に、逃げて無いわよ!こ、これは戦略的に距離を取ってるだけ!」
そう言い、杖をかざすニティア。辺り一面にフワリと大きな風を呼び寄せた後、怪我をしている少年と治療をしているアルテアの身体を宙を浮かせた。
「!!」
「大丈夫ですよ、安心してください」
急に自分の身体が宙に浮き、驚いた子供にアルテアは優しく声をかけて治療を続ける。
「ニティアさん、ありがとうございます」
治療に集中できるようになったことにお礼をいうアルテア。その様子をフィニス同様、視界の端で見ていたルシオもニヤリと笑った。
「まぁ……これで後ろを気にせず暴れられるだろ!」
こちらが戦闘体制に入ったことを察知したのか、1匹のムカデが飛びかかってくる。ルシオは構えた盾を地面に突き立て、後ろへ飛び下がった。
「は?何やってんのお前?!」
自ら盾を投げ捨てるような行為に、フィニスは驚きながらも双剣を構える。
そんなフィニスの言葉を気にも止めず、突き刺した盾の後方に着地したルシオは、低い体制で槍を構え始めた。
1匹のムカデが盾に絡みつく。獲物を捕らえたと勘違いしているのだろう。盾をキツく締め上げ、獲物に噛みつこうと頭を振り上げた瞬間……
ガキーン!
ムカデの拘束から逃れていたルシオの槍が、額にあるコアを粉砕する。
ギィィィィィィ!!
コアを打ち砕かれ、身体をくねらせながら白い炎を纏い消滅していくムカデ。
その様子を見ていたもう1匹のムカデは、ゆっくりと後退りをし、次の瞬間には暗闇の中へ消えていってしまった。
「……おぉ……すごいな……」
敵の気配が消え、手に持っていた双剣を鞘にしまったフィニスは、先ほどのルシオの動きに感嘆の声を上げる。
「アイツらは奇襲の時は噛み付いてから締め上げる。ああやって正面から飛びかかってくる時は、相手を締め上げてから牙で攻撃をしてくる習性があるんだよ」
ふっと笑いながら盾を回収するルシオ。
その後方上空から、辺りをキョロキョロと見回しニティアがゆっくりと降りてきた。
「良くやったわね」
「お前なんでめっちゃ偉そうなの……」
隣で呆れ顔のフィニス。
「私だってちゃんとやってるからよ」
パチン
そう言ってニティアが指を鳴らすと……
ボン!
遠くの方で何か爆ぜる音が鳴り響く。
治療が終わり、子供を抱き抱えているアルテアがふわりと降りてきた。
「先ほどのムカデ残りでしょうか……魔物の気配が消えました」
「え?」
「は?」
唖然とするフィニスとルシオ。
「何したの……?」
キョトンとするフィニス。
「逃げたムカデのコア付近で魔力を爆発させたのよ」
「えぇ……」
「マーキングを使った感じですか?」
驚くフィニスと、何かを察していたアルテア。アルテアに気づかれていたことにニティアは少し驚きながらも、指先に小さな魔法陣を出して説明を始めた。
「うん。アルテア達を飛ばした時に風を起こしたでしょ?」
「あぁ、一瞬吹いてたな」
「あの時に私の魔力で、2匹のムカデのコア付近にマーキングをつけたの」
「なんか変な感じがしてたけど、そういうことだったのか」
ルシオがアルテアの隣で縮こまっている子供の頭を撫でながら、優しく微笑んだ。
「片方はルシオがすぐに倒しちゃったけど……逃げた方のマーキングに私の魔力を送り続け、ある程度溜まった段階で爆発させた……ってわけ」
指先の魔法陣が少しずつ頭上まで上がっていく。
「そんな事もできんのか……すげぇな」
「魔力が探知できる魔族にやったって、マーキングを外されたり、逆に探知されちゃったりするし。遠隔で操作するから魔力消費もバカデカいし。思ったよりは使えないけどね」
頭上の魔法陣は小さく破裂し、消えていった。
⸻
「こんな夜に1人で森にいるなんて危ないぞ?どうした?」
ルシオがしゃがみ、子供の全身を見る。
アルテアによって、怪我はすでに治ってはいるが、体の至る所が泥だらけになっている。深々と被った帽子も所々ほつれており、衣服もボロボロに破れていた。
「……お名前はなんで言うんですか?それに、お父さんやお母さんは?」
アルテアもルシオに並び、視線を低くして子供に話しかける。
「……ぼくはアオ。お母さんが病気で……だから……薬草を取りに……」
小さな声で答えるアオ。
「1人でこんなところまで?!どこから来たの?」
少し離れたところからニティアが驚いたように声を上げる。
それもそのはず。ヴェスパから貰った地図を見る限り、この森から1番近い街が王都ヴォルガムである。
いくら小さな森とはいえ、そもそも子供1人でこの森にいることが不思議でならなかった。
もちろん、他の3人も同じことを考えているのであろう。それぞれが驚いた表情でアオのことを見ていた。
4人の反応とは裏腹に、そのアオは首を傾げながら周囲見回す。
しばらくの間樹々と夜空を眺めた後、樹々の生い茂る方向を指差した。
「あっちがぼくの家」
⸻
フィニスがアオを背負いながら、全員でアオが示した方向へ歩いていく。
隣を歩くニティアが、時折魔法で綺麗な火花を散らしてみたり、作り出した水の蛇を身体に這わせてみたりして遊んでいるうち、森の中にポツンと集落のようなものが見えてきた。
「あそこの真ん中がぼくの家だよ!」
家が見えてきたことで元気が出たのか、フィニスの背中から飛び降り、指を差した家の方まで走っていくアオ。
「こんなところに……集落?」
「ですが……」
「うん……灯りもあの家だけしか点いてないし……」
「人が生活してる感じが感じられないな……」
4人は少しだけ警戒を強めながら、扉が開けっぱなしになっているアオの家の方へと向かっていった。
コメント
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月白さん、第51話読了しました! 今回は一行旅の途中で遭難した子供アオくんに出会うお話でしたね。ルシオのムカデ戦、あの盾を囮にした戦術がめちゃくちゃカッコよかったです。そしてニティア、風のマーキングから遠隔爆破って…ただ者じゃないですね笑 フィニスの「何したの?」には思わず笑いました。 アオくんの家のある集落、灯りが一軒だけってのが気になります。魔族襲撃の影響なのか、それとも別の何かが…ここからどう展開するのか、続きが楽しみです!