【Attention】
•カイ司要素あり
•25メンバー(🎀、❄)出ます
•闇司、🎈があまりいいキャラじゃない
•続きは反応次第
「もういいんだ、終わりで。今まで付き合わせてすまなかった。」
司くんが死んだ。
理由はわからない。
ただ、スターとしての、“天馬司”としての彼だけが、すっぽりとこの世界からなくなってしまった。
彼が演劇をしなくなって、ワンダーステージに彼は現れなくなって、しかし無情にもえむくんが望んだようにステージは取り壊されなかった。
彼がいなくても、何も変わりなくショーは続いた。
この世界は、彼がいなくても回った。
司くんと、彼のセカイ以外は。
「…もう君たちはここには居られないよ。もう入ることも無い。“マスター”の要望だからね。」
ある日、否、彼が死んだ翌日、僕たち3人が向かったセカイでKAITOさんから告げられたそれの意味を、すぐには理解できなかった。
「ええ、なんで!?」
えむくんは慌てて取り乱す。
僕も何も分からないままKAITOさんを見つめていると、寧々が恐る恐る口を開いた。
「マスターって…司に、何があったの?」
「…司くんはね、」
KAITOさんの声は、機械のように抑揚のない声だった。
「君たちとショーをする意味が無くなったそうなんだ。日々という演目を演じ続ける意味もね。」
やはり、理解が出来なかった。
しかし2人は、どこか察したように、悲しそうにセカイを見つめている。
「…帰ろう、寧々ちゃん、類くん。」
えむくんは目いっぱいの作り笑顔を僕らに向けて、悲しそうにスマホを取り出した。
彼が死んでから、司くんを見なくなった。
教室に向かってもいない。中庭に行ってもいない。図書館に行ってもいない。
彼のクラスメイトに聞いてみれば、「最近、1年とよく一緒にいるぞ。ほら、噂の1-Aの…」と言っていた。
ああ、おそらく瑞希だろうと、すぐに察しは着いた。
旧友を馬鹿にされたような物言いには腹が立ったけど、今はそれを気にしていられるときでもなかった。
2人がいる場所ならおおよそ予想が着く。
僕は屋上へと駆け上がった。
「みずっ…!」
そこには彼たちはいなかった。
可愛く彩られたスマートフォンだけが、所在なさげに落ちている。
あれは、瑞希のものだ。
画面には、プレイリストが映っていた。
『悔やむと書いてミライ』
この状況には既視感がある。
彼は、瑞希と共にセカイに行ったのだろうか。
『セカイはまだ始まってすらいない』以外の、どこかに。
「…また来たの?」
紫色の髪を後ろでひとつに束ねた彼女…朝比奈は、昨日とはどこか違う様子でオレたちに話しかけた。
「今日は優等生じゃないんだね。」
暁山は、笑いながら彼女の隣に座る。
オレもそれに釣られて、その隣に座った。
「…今日はまだ、KAITOは見てない。」
「…そうか。」
このセカイのミクが、オレを見つけるやいなやそう話しかけた。
このセカイに入り浸るようになって1週間ほどたったある日、このセカイにもKAITOが現れた。
奴は何時でもオレにべったりで、オレを元の世界に返さないようにいつも躍起している。
「KAITO、ほんとに司先輩のこと好きだよねー」
「ああ、本当にそうだな…いつも、『外の世界は君に害がある』なんて言って俺を引き止めてくるからな。」
害がある、か。オレのことを気にかけすぎてて、過保護だな、とは思う。
だが、その言葉に心当たりがあるのも嫌だ。
「…あ、」朝比奈が、遠い方をみて小さな声でつぶやく。
それにつられて暁山も「あ、きたきたー!」と愉快そうに声を上げる。
「司くん!」
手を振りながら走ってくる彼は、群青の髪を揺らし、近くまで来るとオレの手をとる。
「KAITO、」
彼を見上げると、ぐい、と顔を近づけられる。
「今日も学校に行ってたのかい?ダメじゃないか。」
光の灯らない瞳で詰め寄られて、オレは思わず目を背ける。
しかし、顎を持たれて強引に彼の方を向かされる。
「目もこんなに赤いし…また泣いたのかい?あんな奴もう忘れてしまえばいいのに。」
KAITOはため息をついた。
「僕は君のために言っているんだよ。僕は君が心配で心配でたまらないだけなんだよ。…君を大切にしなかった奴もいるんだろう?」
KAITOは、たまにこうやって揺さぶりをかけてくる。
オレがこのセカイに依存するように、オレがあっちの世界を嫌うように。
「…そいつらも、前は俺の大切な仲間だったからな。あまり悪く言うのはやめてやってくれ。」
KAITOは納得のいかないようにまたため息をついた。
「君は優しすぎるんだよ…いつだって僕を頼ってくれていいんだからね。僕はいつまでも君の味方なんだから。」
「KAITO…」
「おーい、2人だけの世界はいるのやめてくれるー?」
暁山に声をかけられ、意識がハッと浮上した。
ああ、またKAITOの言葉に耳を傾けすぎていたみたいだ。
奴の声は暗いわりに柔らかくて、でもどこか冷たくて、ずっと聞いていればどこかへ引きずり込まれてしまいそうで良くない。
ふと、オレを見つめる朝比奈の目線に気がついた。
「…司。」
「む?どうした、朝比奈?」
「それ…そろそろ辞めた方がいいんじゃない。」
朝比奈に、セーターからのぞく赤い線の入った手首を指さされ、思わず彼女から距離を取る。
「…ああ。」
オレ自身も、そろそろ未練がましいとは思っているが、やめようとしてやめられるものでもない。
ああ、オレはあの演出に恋をしていたのだと、今更気がついてしまった。
本当に、馬鹿みたいだな。
無意識のうちに、自嘲の笑みが漏れた。
暁山に「そろそろ昼休み終わるし、帰ろっか。」と声をかけられる。
KAITOがあからさまに残念そうに顔を歪めたのがどこか弟のように思えて、頭をなでてやった。
そういうのじゃないんだけどなあ…と言いながら不機嫌そうな言葉を吐いたが特に怒っても悲しんでもいなさそうで、むしろ喜んでいるように見えたのでオレは少しだけ満足した。
「ああ、帰ろう、暁山」
そう言うと暁山は、可愛らしく彩られたスマートフォンに浮かぶ小さな三角形に触れた。
セカイから帰ると、そこは屋上だった。
「じゃあ、暁山。そろそろ──」
「…類?」
暁山は、信じられない、とでも言うように何かを見つめた。
視線の先には、見慣れた紫色が立っている。
「やっぱり、そうなんだね。」
彼は、無感情の瞳で、声で、こちらを見つめる。
先程まで見ていた、群青と同じ。
光の灯らない瞳。
暗くて、柔らかくて、冷たい声。
「やあ、久しいね、司くん。」
「…っ」
それは、最低最悪の再開だった。
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