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ひば

その日、佐野勇斗は個人楽屋で手を組み、物々しい雰囲気を醸し出していた。
…今夜、俺は仁人にプロポーズをする。
前々から計画はしていた。
婚約と言っていいのか…約束も、去年した。
指輪も前に忘年会であげたお揃いのものを。
うん、とはすんなり行かなかったが、仁人は考えすぎるケがある。
だからこそ彼は彼なりに一生懸命考えてくれてたと思うし、だからこそ好きで、一緒にいたい。
そんな仁人がいいんだよ、と言いたいけれど、どう言えば伝わるだろうか。
そこから1年かけて頭で転がして、転がして、お互いの人生のことも考えて、この結論は変わらないことを改めて知った。
仁人は今日のことでまた、とても頭を悩ませるかもしれないし、困るかもしれない。
そして…プロポーズをしたところで、俺らの称号は変わらない。
恋人…パートナーであるということに。
でも、俺はやっぱり仁人と一生かけて幸せにしたい、一緒にいたいと思ってずっとお付き合いしていたし、仁人にもその気持ちを伝えられたらいいと思って、今回計画するにあたった。
これが終わってもし了承してくれたら、薄々勘づいているメンバーに、そして家族に報告するつもりでもいる。
ここまでで俺の本気度は伝わってくれるはず。
腕を組んで背もたれに寄りかかる。
…そうは言ったものの、なかなか良い案が浮かばない。
サプライズは仁人が一番忌み嫌っているものだし、かと言って普通に言うのも…。
飲食店で、と考えたがこの仕事をする以上迂闊なことはできない。
どうしたものか。
そう思考を巡らせて机に突っ伏したところで…何かを思いついたような迷いなき表情で顔を上げた。
「…ただいま」
「おう、おかえり」
丁度1年経ったこの日、いつも通り家に帰宅すると先に帰っていた仁人がひょっこり顔を出した。
玄関先からやたらいい匂いがすると思っていたが、リビングに行けば既に料理が陳列され、ほくほくと湯気が上がっていた。
「やば、美味そう!どうしたのこれ」
「ただの残りもんだよ」
鼻で少し笑って見せながら仁人が言った。
コト、と新たに置かれた皿からは、残り物の炒め物にしては彩がある。
「腹減ったよ。早く食お」
「先食べてていいよ。手洗ってくる」
「んなもん5秒で済むって。はーやーくーーー」
「マジでこいつ…」
苦笑しながら軽い足取りで洗面台へ向かった。
皿洗いに立ち上がった仁人を座らせ、俺が代わりにその役割を担う。
手を拭き、ソファーでくつろぐ仁人の元へいつも通り隣に座る。
「ありがと」
「んー」
照れ隠しのように短い返事だけ返した。
今日のメインはそれじゃない。
「ねえ仁人さ」
「ん」
「俺のこと嫌い?」
うわーすごい。
いま間違いなく動画回してたわ。
花火みたいに打ち上がり転がる仁人なんか滅多にみたことない。
「ばッッッ……何言ってんの!!!?!!?」
「じゃあどっち。好き?」
「いやっ…それはだって……好き、だけど」
それを聞いてにんまりと笑みを浮かべる。
「どのくらい好き?」
「ええ…そりゃあ…ば、爆裂…?」
「曲に逃げんな仁人の言葉で聞きたい」
「マジで今日どうしたのお前?そりゃあ…好きだよ。めっちゃすち。じゃなきゃこんな生活してないしあんなことやこんなことしないでしょ」
「えっ、俺そこまで言ってない…」
「あーーーだる、マジでだるいわこいつ」
上を向いて呆れる仁人。
もうそろそろいいかな、と踏み込むことにした。
「じゃあ…仁人は俺とどうなっていきたい?願望でもいいから」
仁人はその質問は予想外だったのか、大きい瞳をさらに大きく見開いた。
「…どういう意味で?」
「仁人が受け取った通りでいい。でも実現できるかとかは一旦置いといてほしい」
そこから眉間に皺を寄せて考え込む。
そわそわしていると、10秒後にやっと口を開いた。
「…そうだねえ、まあ…これがずっと続いてほしいよ。2人で適当に、ずっと馬鹿やって笑ってられたらそれで満足。負担になるものは全部置いておいて、楽しく過ごせたらいいなと思う」
それを聞いた瞬間、勝ちを確信して笑みを浮かべた。
俺の最強のプロポーズプラン、それは…。
いつも通り過ごすこと。
「…仁人」
「ん?」
「それを待ってました」
「どうした。気持ち入っちゃった?」
パンツのポケットに手を突っ込み、とある小さな箱を取り出すまでの一連の流れを見守る仁人の顔は面白かった。
箱を出した時に息を漏らして目を見開いて口を押さえて固まった顔は、いつものぶりっ子が出てしまっていて、こういう時でも変わらないことに感謝すら覚えた。
「……ふははは!!」
仁人はその態勢のまま急に高笑いして、今度は俺が驚く番だった。
「こわ、お前KYすぎじゃん」
「いや…うん、違うのよ勇斗」
そう言いながらなにやらニヤニヤ笑窪をくっきりと際立たせながら仁人も、後ろ手に手をやると小さな箱を取り出し、俺が声をあげてしまった。
「ウエェーーーーーーッッッ!!!?!?」
「やばすぎ、律儀すぎじゃね俺たち」
「最悪だよカッコつかないんだけど」
「大丈夫大丈夫大丈夫お前はイケメンだよ」
呆れ笑いすると仁人が宥めるように言った。
笑い涙を拭いながら手を前へ出した。
「もーーーほんと俺ら…仁人、手出して」
「ん」
小鳥口の笑みが治ってない紅潮した頬。
大人しく手を乗せて貰えば、去年と同じように…変わったところと言えば中指ではなく薬指になったところだろうか…へ、指輪を通した。
「ほら、仁人も」
「はいはい」
仁人も仕方なさそうにしながらも顔の笑窪は深まるばかり。
指輪がピッタリ、薬指におさまった。
「…勇斗が爆睡してて助かったわ」
「え、まさかお前」
「寝てる間に測った」
「俺と同じことすんなよまじで!!!」
「ねえ、写真撮ろ」
「まだメイクしたまんまだからいいよ」
「まず仁人のピンからね。これ持って」
帰り際に買って行った手渡した小さな花束を渡し、仁人は目を丸くした。
その後、察したようにニヤリと笑った。
「ずいぶん粋なことしてくれるじゃないですか」
その返答を聞いて、やっぱり期待通りだとほくそ笑んだ。
スマホを構えてカーテンを背景に立たせた。
まだ顔は中途半端なニヤニヤ顔。
「仁人、撮るから俺のいうこと聞いて」
「断るっつったら?」
「お前のラジオの仕事を俺が乗っ取る」
「最低」
「俺のことどう思ってる?」
「…好きだよ」
「もっといって」
「…大好き」
はにかみながらも頬を桜色にして目を細める仁人に、こちらまで釣られて頬の筋肉に力が入る。
「惜しい、もう一声」
「………。」
そして、仁人のその満面の笑みが出た瞬間に、スマホのシャッターの音が室内に響いた。
「愛してる」
花に負けず劣らず咲き誇る桃色の頬の仁人の笑顔が、愛おしかった。
「勇斗、俺が撮ろうか?…ちょちょちょ骨折れるわ」
気づけばその体を胸に抱きしめていた。
仁人の背が反り返って爪先立ちするぐらいに、強く強く抱きしめた。
柔らかいその体躯が、ちょっとだけ熱い。
「…やっと言ってくれた」
「…ああ、ごめんね?」
「俺も言うよ。愛してる」
「うん、知ってる」
「愛してる、本当に愛してる。仁人がいい」
「…うん、わかってるって」
仁人が少し笑いながら花束をばさ、と上げて言った。
「これ見れば一目瞭然よ」
小ぶりの花が集まってふわふわと一輪一輪を彩るその花の名を。
「勇斗、俺がこれ買ってくるから明日。…2人で撮ろうよ」
「…仁人、意外とロマンチストだよね」
「知ってるだろ俺がロマンの体現者なの。知らんけど。しかも…いま勇斗すんごい顔してるよ。顔びしょびしょ」
「じゃあ俺の顔見て欲しくないから目瞑ってて…」
「はい」
その返事の後、間髪入れずにその唇を合わせた。
長くて、少しでもこの身がはち切れそうなほどの喜びを、相手の人生や気持ちを背負う覚悟を注ぎ込んだ。
1週間後。その柔らかくて雲のような花束を持った2人の写真が、午後の光に照らされて立てかけられていた。
仁人はピンクを、勇斗は黄色を。
家主の帰還の声が2つ上がると、2つの花瓶の花は答えるように揺れた。
枯れてもなお存在感を放つスターチス。
花言葉は…。
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