テラーノベル
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セツナが作ってくれた純白のドレス。
そのサイズは丁度よかった。
恐らく、前にプレゼントをしてくれたワンピースと同じ大きさで作ったのだろう。
丁寧に縫ってあり、愛情が込められている感じがした。
城のメイドにヘアメイクをしてもらったあと、白い花冠をつけられた。
そのあと、大切に保管していたスペースダイヤを両手で持つ。
この日を待っていたかのように一段と輝いている。
キラキラと光るスペースダイヤを見て、覚悟を決めてから部屋を出た。
「おまたせしました」
外で待っていてくれたシエルさんに声を掛ける。
私に気づいて振り向いた時、一瞬だけ目を見開いていた。
そのあと、切なそうな瞳をしたけど、すぐに隠すようにいつものクールな表情をする。
「花嫁みたいだな。他の王子たちが見たら喜ぶだろう」
「そうだといいんですけど。
皆にどう思われるのか……。ドキドキしますね」
「緊張しているのは、王子たちも同じだ。
かけらが愛する人を決めることによって、正式に最花の姫が誕生するんだからな。
何より、どの国の王子を選ぶのか気になっていると思う」
「四人とも思いやりがあって優しい王子様。
今までこんなにも素敵な男性に出会ったことはなかったんですよ。
恋もしたことがなかったから……。
旅が終わるまで自分の気持ちに気づくこともできませんでした」
「誰を選ぶのか決めたんだよな?」
「はい。このスペースダイヤをどうするかも決めています」
「今日は四つの国の王族や兵、民も集まっている。
そこで好きな王子と愛を誓ってから、皆の前で結婚を宣言するとはな」
「神殿に王子以外の人もいるんですか……!?」
「大切な儀式だ。対象の王子以外は入ってこれないように守られている」
各国の王族も近くで見ていると思ったけど、神殿の外にいるようで安心した。
この世界にテレビやスマホがなくてよかった。
「しかし、かけらが選択と発言を誤れば暴動が起きる可能性もあるだろう。
各国の兵が控えているから戦争になる可能性だってある。
一応、教えたからな」
「責任重大ってことですね」
「かけらの身は俺が守るから安心して伴侶を決めればいい」
元の世界で生きていた時、一度もモテたことがなかった私が結婚相手を決めることになるなんて。
人生、何があるか分からない。
会社で働いていた時、私に“王子様なんて現れない”っと言ってきた同僚がいたな。
この話を聞かせたら、きっと大声を出すほど驚くだろう。
素敵な四人の王子様が現れて、その誰かと結婚できるのだから。
この世界に来て、前を向いて歩いてよかった。
シエルさんに案内されて城を出ると、大勢の兵士と民がいた。
拍手と歓声が聞こえてくる。
まるで世界に認められたスターになったみたいだ。
皆、世界が変わる時を楽しみに来たんだろう。
会釈をしてその場を立ち去り、四人の王子が待っている神殿に向かった。
純白のドレスを摘み、ゆっくりと階段を上って前に進んでいく。
後ろにはシエルさんがいて、私がドレスを踏まないようにサポートしてくれていた。
最後の一段を上ると、大きなまるい月と夜空、たくさんの白い花の飾りが見えた。
神殿の中心には、四人の王子が横並びに立っている。
タキシードとマント、手袋、革靴。
どれも白色で、結婚式で見る新郎の格好に似ていた。
皆、似合っていて素敵だ。
シエルさんにスペースダイヤを預けて、四人の王子の前に立った。
「お待ちしておりました。
今日の夜空と月はとても綺麗ですね。
新しい歴史が始まるこの日を祝福しているみたいです」
「かけらさん、とても綺麗です!
そのドレス姿を絵に描いて残したいくらいですよ」
「似合っているよ、かけら。
ずっと見ていたいくらいだ」
「オレの最高傑作も着こなすとはな。
やっぱりかけらはすごい女だぜ」
普段と変わらない様子を見せてくれてほっとする。
「ありがとう。私がここまで辿り着くことができたのは皆がいたおかげだよ」
「それはこちらの台詞さ。
僕たちは、かけらに大きな希望をもらったんだ。
それが平和というかたちになって、実現しようとしている」
長い間、争い続けていた四つの国が平和になる。
この世界は、明日から大きく変わることだろう。
「どんな結果であろうと、ボクたちは和平を結ぶことを約束します」
「かけらが覚悟したように、オレたちも心を決めたぜ」
「これがわたしたち王子の気持ちです。
かけらさん、スペースダイヤを愛する人にお渡しください」
四人の王子との間にできた思い出。
どれも心が動かされるものだった。
大切な人たちだから、私は……――
目を閉じてから胸に手を当てて深呼吸をする。
そして、四人の王子一人ひとりと目を合わせてから答えを口にする。
「スペースダイヤは、四つの国に渡しません」
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