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私が答えを話すと、四人の王子は驚いた顔をしていた。
その表情から混乱と不安が伝わってくる。
「どういうことだ?」
静かになった神殿にシエルさんの声が響いた。
四人の王子も返事を待つように私のことをじっと見つめている。
「スペースダイヤを五つ目の国に置きたいんです。
……私は、新しい国の姫になります」
「グリーンホライズン、クレヴェン、スノーアッシュ、ルーンデゼルト以外に国は存在しない。
この世界にもうひとつ国を創るつもりか?」
シエルさんの問いを聞いて頷いてから続きを話す。
「私は、すべての人が希望を持てる世界にしたい。
そのためには、初代の最花の姫が選んだ道を進んでいけないかなって思って……。
ひとつの国を選んだら、また争いが起こるかもしれないから」
「しかし、場所はどうするんだ?
地図を広げるとどこも四つの国が所有している」
「新しい国は、今、湖の周辺に造っている街。
四つの国の国境があって、誰もが自由に行き来できる場所だから。
世界の平和を築いていくためには、誰かが守っていかないといけない。
どの国にも属していない私に合ってるかなって思って……」
覚悟したことを話すと、コウヤさんの表情が穏やかになる。
「中立な国から世界を変えていく……。
今までとは違うやり方なので、新たな歴史を作っていくことになりますね」
「はい。その覚悟はできています」
「しかし……、スペースダイヤはどうするんですか?
誰にも渡さなければ呪いは繰り返されます」
「それは……」
俯いてから両手で持っているスペースダイヤを見つめた。
答えは決まっているけど、大切なことだからすぐに言えなくて鼓動が早くなる。
何より、三人の王子を傷つけるのが怖かった。
でも、答えないとここから先に進めない。
顔を上げてから、愛したい王子に視線を向けた。
「おや。……わたしは下がって見ていますね」
「すごく悔しいです……。
でも……、かけらさんが選んだこと。
ボクは応援しますよ」
残念そうに微笑んだコウヤさんと、瞳を潤ませたトオルが後ろに下がる。
「夢であって欲しいけど、オレも受け入れないとな。
かけらと親友のために……。
ほら、頑張れよ」
セツナがレトの肩をポンッと軽く叩いてから、背中を向けて歩いて行く。
少し離れたところから三人の王子が見守る。
最後に残った一人の王子のことを……――
「……レト」
さっき、私が視線を向けた人の名前を呼ぶ。
「かけら、話したいことがあるんだ」
少し首を傾げると、レトは目を瞑ってから深呼吸をした。
そして、一歩前に出て、真剣な眼差しで私を見てくる。
「なに……?」
「僕がひとりで旅をしていた本当の理由……。
それを話していなかったね」
「自国のことを知るためじゃなかったの?」
「うん。それもあるけど、本当は……最花の姫を探していたんだ。
一緒に旅をすると決めたのも、かけらが別の世界から来たと言っていたから。
そして、僕のことを好きになって欲しかったんだ。
グリーンホライズンを世界一強くて、豊かな国にするために……。
だから、惚れてもらえるように今まで色々と頑張っていたんだよ」
「えっ……」
「でも、一緒に過ごしていくうちにかけらのことを本気で好きになっていった。
他の男と笑っているところを見て胸が苦しくなったり、僕だけの人でいて欲しいって思ったり……。
こんな気持ちになったのは初めてだよ」
レトは、私のことでセツナと口喧嘩をしていた時があった。
あれは冗談ではなく本気で言っていたんだろうか。
不安そうな顔で恋愛事情を聞いてきた時と、私を抱きしめてくれた時も……。
「生まれ育った自国よりも、かけらの方が大切なんだ。
だから、僕はグリーンホライズンの王子をやめるよ」
「そっ、それはダメだよ。
今まで自国のために頑張ってきたんだから」
「いいんだ。かけらと旅をして、各国の王子と出会って気づいたんだよ。
一つの国が幸せになっても、世界は平和にならないってことを……」
「レト……」
「僕は、新しい国の王になりたい。
ふたりで新しい世界を創っていきたいんだ」
レトは片膝をつき、ポケットからダイヤモンドの指輪を取り出した。
それを手の平にのせて私に向けてくる。
「かけら、僕のお姫様になって欲しい。
……結婚してください」
「はい」
私はレトの持っている指輪を包むように手を重ねた。
幸せで胸がいっぱいになって涙が浮かんでくる。
レトは潤んだ瞳で愛おしそうに見上げて、私の左手の薬指に指輪をつけてくれた。
「かけら、愛してるよ」
そして、立ち上がってから真っ直ぐに見つめられる。
好きな人から憧れていた言葉をもらえて夢を見ているみたいだ。
「私もレトのことを愛してる」
照れていると、レトが私をそっと抱き寄せて唇を重ねてくる。
人生で初めてするキスは優しくてとても甘く感じた。
「僕たちは両想いだったってことだよね」
「恋をしたことがなかったから、好きって気持ちが分からなかったけど……。
レトと一緒にいて、ドキドキすることがいっぱいあった。
あと、抱きしめてくれたこともあったよね。
その時のぬくもりが、ずっと忘れられなかった。
もっと一緒にいたいって思うようにもなって……。
私はレトのことが好きなんだって気づいたの」
「これからもずっと一緒だよ。
傍にいて、何度でもかけらを抱きしめるから」
この世界に来てから一番最初に出会って、人生で初めて好きになった人。
私の愛している王子様、レト――
ふたりで笑い合っていると、シエルさんがやってくる。
「かけら、レト王子。おめでとう」
「ありがとうございます。
シエルさんの恋人は世界を平和にすることでしたよね。
私はその夢を叶えていきたいと思います」
「僕とかけらに任せて欲しい。
今よりもずっといい世界にしてみせると約束するから」
決意を話すと、シエルさんが頷いて穏やかに微笑んだ。
「この世界に希望をくれてありがとう」
たくさんの人の想いを背負っていく。
それはとても大変なことだけど、レトと一緒だから乗り越えていけるだろう。
世界にたった一つしかない美しい宝。
スペースダイヤを両手で包んで持ち、満月に向かって掲げる。
世界の平和を願った最花の姫に見えるように……。
「私は、このスペースダイヤを……。
新しい国の王、レトに捧げます」
隣りにいるレトを見てから心を込めて渡す。
すると、スペースダイヤは七色の光を放ち、きらきらと輝きはじめる。
その光はとても眩しくて、すべてを優しく包むほど温かいものだった。
愛を誓ったことによって、私は新たな最花の姫になった。
憧れていたお姫様に……――