テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
淡い朝の光が、薄く開いたカーテンの隙間から静かに差し込んでいた。
北の辺境ニンルシーラにあるヴァン・エルダール城の朝は、王都エスパハレのウールウォード邸よりずっと静かだ。
遠くで鳥が鳴いている。
窓の外では|りんご《ミチュポム》の木が、初夏の風にさらさらと葉を鳴らしていた。
ふわりとカーテンが揺れる。
新緑の香りをはらんだ空気が、室内へ静かに流れ込む。
天気の良い、とてもさわやかな初夏の朝だった。
けれど――。
(……痛、い……)
カーテンの隙間から差し込む陽光に顔を照らされて、リリアンナは目を覚ました。
ぼんやりとしたまま身体を僅かに動かした途端、鈍い痛みが下腹部へ走って、ハッとする。
視界に映った天蓋を見た瞬間、小さく息を呑んだ。
(……ここ……)
自分の部屋ではない。
広い寝台。
重厚な調度品。
鼻先を掠める落ち着いた香木の香り。そこへ混じる、微かなインクのにおい。
見覚えがある。
――ランディリックの部屋だ。
昨夜、自分は確かに自室にいたはずだった。
なのに、どうして?
そこまで考えて――。
(……あ……)
昨夜の記憶が、下腹部の痛みとともにゆっくりと胸の奥へ戻ってくる。
熱を帯びた指先。
押さえ込まれた手首。
耳元へ落とされた低い声。
優しかったはずの人に、逃げ道を塞がれた夜。
喉が、ひどく乾いていた。
リリアンナは小さく身を縮める。
ギュッと身体を縮こまらせた瞬間、秘所からとろりと昨夜の残滓が流れ出たのを感じた。
「――あっ!」
(シーツが汚れちゃう!)
咄嗟にそんなことを考えて、身体に力を込めたと同時、腰へ回されたままだったらしいランディリックの腕に、グイッと引き寄せられた。
「気にしなくていい」
背中に感じる、逞しい筋肉の感触。
肌と肌が触れ合う、生々しい気配。
それだけで、布団の中を確認するまでもなく、自分も背後の男――ランディリックも、一糸まとわぬ姿のままなのだと分かった。
「……っ」
そのことを意識した途端、羞恥心に襲われて、リリアンナは身体を強張らせて縮こまる。
そんなリリアンナの身体をさらに引き寄せながら、背後から、低く掠れた声が落ちてきた。
「……リリー」
寝起き特有の、少し低く、かすれた声音。
リリアンナは無意識にシーツを握り締める。
昨夜の名残を感じさせるように、身体中が生々しい違和感を訴えていた。
布団に顔をうずめたと同時、栗の花のような香りに混ざって、鉄臭い血の香りが鼻先をかすめる。
その瞬間、不意に脳裏を過ぎったのは、乱れた寝台と、白いシーツへ滲んだ赤だった。
(……あ……)
だから、こちらへ移されたのだ。
何も言われなくても分かってしまった。
言いようのない羞恥が込み上げ、リリアンナはぎゅっと目を閉じる。
「まだ早い。もう少し眠っていていい」
抱き寄せる力は緩まなかったけれど、掛けられた声はとても穏やかだった。
「少々無理をさせてしまったからね。リリー、キミは今日一日、寝ていてもいいくらいだ」
まるで壊れ物でも扱うように。
けれど、その優しさが逆に胸を締めつける。
昨夜のことを、彼は衝動だとは思っていないし、後悔もしていないのだと、――当然のように紡がれる言葉で分かってしまう。
ランディリックは、選んで、リリアンナの花を散らせたのだ。
無理矢理開かされた身体がずきずきと痛む。
何も知らなかった生娘の日々は、ランディリックの激情によって、突如終焉を迎えた。
(私、もう……)
処女ではなくなってしまった――。
そう思い至ったと同時、ハッとする。
(……ナディ……!)
いつもなら、そろそろナディエルが起こしに来る時間だ。
朝の支度のためにリリアンナの部屋を訪れれば、昨夜の惨状など隠しようがない。
乱れた寝台も。
床へ落ちた衣服も。
そして、あの血痕も。
(だ、だめ……っ)
羞恥で頭が真っ白になる。
(ナディに知られるなんて、そんなの、耐えられない!)
「……リリー?」
様子の変化に気付いたのか、ランディリックが静かに名を呼ぶ。
リリアンナは慌てて身体を起こそうとした。
コメント
1件
そりゃ、恥ずかしいよね。