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こちら 【第6話】となっております。

奇数話 は ヨモギマル 様 の 投稿 を ご覧下さい。




◇     ◆     ◇



兄ちゃんと2人で眠った夜。真っ暗な部屋でピンクが嫌に目に冴えた。

布団に包まれ兄ちゃんに包まれ。暖かい俺の体とは裏腹に、兄ちゃんの身体は芯から冷たかった。兄ちゃんの心もそうだ。

長らく冷凍庫の奥に押し込まれた冷凍食品を中途半端に解凍した様な、そんな感じ。冷たい部分と暖かい部分が混ざって、口の中で不快に溶け合う。


そんな夜、兄ちゃんが泣いた。

俺と目が合った途端、兄ちゃんは涙をごしごし拭って見事なまでの笑顔を作り上げた。

そんなんじゃ綺麗な兄ちゃんの目が腫れちゃう、どうして、途端悲しくなった。

兄ちゃんの手は冷えきっていて、そんなはずが無いのに目の前の兄ちゃんが死んでしまったような気がして、必死に抱き締めた。


「兄ちゃん。無理しないで。」

「兄ちゃん辛かったよね」

「ほんとは幸せなんて思ってないよね」


その言葉は、間違いなく俺の本心だった。それはもう、本当に。そんな言葉をかけながら、自分が兄に何も出来ないもどかしさと都合の良い自分の言葉にどうしようもなく苛立って、兄を撫でる手も震えた。気がした。


「お願いだから 男の俺を見てよぉ ッ … もうやだあ゛ッ … 」


はじめて、初めて開かれた兄ちゃんの本心。本当の想い。今まで冷凍されていた心臓が、少しずつ俺の熱で解凍されていく。

冷たい身体を寄せあって、2人で抱き合って泣いた夜。

今までで1番、しあわせなよる。




翌日 兄ちゃんの目は腫れていて、昨日のことが夢でなかったと強く思い知らされる。

外出の度に、兄ちゃんは大人に怯える俺の手を握ってくれて、大丈夫。なんて宥めてくれる。

口付けだって、兄ちゃんじゃなきゃ許してない。俺の兄ちゃん、だいすきな兄ちゃん。



その日の夜だった。


「蘭!!!ダメでしょ!!!」


たった一欠片、やっとの思いで口にした食事。その一欠片を嚥下した瞬間、母の手のコップからお茶が宙を舞って飛び出した。

兄ちゃんの頭へとクリーンヒットしたそのお茶は、みるみるうちに兄ちゃんをぐっしょりと濡らした。


「竜胆!手ついて食べちゃダメでしょ!!」


おまけに俺にまで説教は飛んできて、気付けば頬を打たれていた。一瞬の事で何も理解できず、じんじんとした痛みだけをただ感じた。


途端、兄ちゃんが勢いよく立ち上がり生まれて初めて、母を殴った。

それからはもう何も分からなくて、急いで部屋へと走って扉を閉めた。見てはいけない。そんな気がして。


何かがブチ切れた兄ちゃんの声。強い力で何かを殴る音。そんな音に段々と水音が混じって、硬い音は徐々に柔らかく生温くなっていく。


怒声から悲鳴、それから助けを乞う か細い声、移り変わっていく母の声は耳を強く強く塞いでも俺の鼓膜を震わせた。

どれくらいの時間が経っただろうか。

部屋の扉を震える手で開き様子を伺ってみれば、辺り一面は血の海。

もうぴくりとも動かないかつて母であったもの。

その横で佇む兄がゆっくりとこちらを振り向く。


目が合った瞬間。


今まで生きてきた中で、いちばん美しい兄を見た。


「   竜胆   、 一緒   に  行こう。 」


ゆっくりと持ち上がった口角。光りの射さないアメジスト。きらきら輝く小麦畑の様な金髪に、節々が美しい指。

所々に散る汚い誰かさんのドス黒い血までが兄を美しく着飾った。


兄ちゃんの問いへの選択肢は2つだけ。



Yes    か    Sure   。



大きく頷いて、兄ちゃんへ駆け寄ってつよくつよく、兄ちゃんを抱き締めた。

あたたかい。


そうだ。



これが、俺の兄ちゃん。



その日、俺は初めて解凍されきったあたたかい心臓を知った。


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コメント

1

ユーザー

え、まってください😭最高ですか!!!!!いやまじ最高です!!🥹🥹🥹🥹🥹🥹🥹🥹言葉にできない灰谷兄弟の良さとかを全ッ部表してある感じが最高すぎてます!!!

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