「鈴は、俺らの幼なじみでな。子供の頃からの付き合いだ。兄貴と結婚してから俺はもう何年も会ってねぇけど……」
ふーっと煙を吐き出し、話を続けていく。
「アイツ、何か言ってたか?」
「……また、日を改めて来るって」
「……そうか」
律はそれ以上、何も答えなかった。
悲しげな表情の律に、私の心には底知れぬ不安が押し寄せ、酷くザワついていた。
義理のお姉さんだという鈴さんが訪ねて来てから一週間程が経ったある日、私が学校から律のアパートへ向かう途中、偶然彼女に出くわした。
「あら、あなたは」
「……こんにちは」
反射的に素っ気なく挨拶をした私は関わりたくなくて、止まらずそのまま歩いて行くけど、
「あ、待って! あなた律の……」
呼び止められて律との関係を聞かれたから、
「……律と付き合ってる、木村 琴里です。何か御用ですか?」
彼女だと告げてやった。
「あ、彼女さんなのね。ごめんなさい、呼び止めてしまって。あの、律、今日は居るかしら?」
義理のお姉さんだけど、幼なじみ。
彼女が訪ねて来たと知ってから、律の様子はどこかおかしい。
あの日から私もずっと嫌な予感がしていて、不安だった。今日は律がアパートに居るけど、どうしても会わせたくなかった私は咄嗟に、
「律、今日も出掛けてるので、来ても無駄だと思います」
居ないと嘘をついた。
「……そうなの。ありがとう」
すると鈴さんは私の嘘を信じたようで、元来た道を引き返して行く。
彼女の背中を見送った私は不安が増していき、律のアパートへと急いだ。
「律!」
アパートに着いた私が勢いよく律の部屋のドアを開けると、
「何だよ? そんなに慌てて」
私の慌てぶりに驚いたのか、彼は吸っていた煙草を灰皿に捨てて私の元へ歩いてきた。
「ねぇ律、鈴さんって、本当に義理のお姉さんでただの幼なじみだったの?」
「は? 何だよ藪から棒に……」
「だって律、この前から様子おかしいもん……私、不安なの」
こんなウザい事言ったら、また子供扱いされる。
だから敢えて触れずにきたけど、でも、もう聞かずにはいられないくらい不安が押し寄せていたから、聞くしかなかった。
「ったく、何心配してんだよ? 何もねぇって」
そんな不安を感じ取ってくれた律は私を抱きしめると、優しく頭を撫でてくれた。
「……ホント?」
「ああ」
律の言葉に安心した私は、ぎゅっと抱き着いて心を落ち着かせていく。
(……大丈夫、律がそう言ってるんだから、大丈夫……)
律の言葉を信じようと言い聞かせていたその時、突如インターホンが鳴った。
嫌な予感がした。
ドアを開けては駄目だと私の頭が警告していた。
「ったく、最近来客多いな……」
「律、開けちゃ嫌……」
私の言葉を聞こえていなかったのか、怠そうに呟きながら私から離れると、玄関のドアを開けてしまったのだ。
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