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彼は私を見て言う。私が理解していないことがわからないといった風に小首を傾げながら。
彼は彼であるけれど、彼が私に理解できる言葉を口にすることは滅多になかったし、私のほうだって彼の言いたいことの半分もわからなかったりした。それでも彼と私は友達だった。少なくとも、あのころは。きっと私たちは仲良しだった。
いつのことだったかは忘れてしまったけれど、ある日のこと私たち二人は喧嘩をしたことがあった。そのときばかりは彼も私の言葉を聞こうとはせず、私もまた彼を理解しようとしなかった。お互いに意固地になっていたのかもしれない。だからそのまま喧嘩別れをして、二度と会わなくなったのだ。今となっては本当に些細なきっかけが原因だったと思うけど、当時の私たちは互いに頑固な性格をしていたせいもあってかすぐに仲直りすることもできなかったのだ。私は彼が好きだったので謝ろうと思っていたのだが結局言い出せずに終わってしまった。それからずっと心の隅では気にかかっていたものの会うことも話すこともできないまま、数年の月日が流れた。しかしあるとき仕事で一緒になる機会があり久々に言葉を交わすことができたのである。そしてなんと彼は私を覚えていた。それもちゃんとした理由があってのことではなく単に思い出してくれただけのようだったが、それでも嬉しかったことに変わりはない。しかも彼は私の方から謝ってくるだろうと予想していたらしい。それは確かに事実であり、私は自分の非を認めて彼に謝罪した。あのときの彼はどんな顔をして私を受け入れてくれたのだろうか。今さらながら、もう一度会いたいと思っている自分がいる―
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