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普段とは違う内装だった。内装だけではなく、部屋の匂いも違う。消臭剤が違うのだろうか。
背の高い天井は、タバコの煙で少しくすんでいる。ベッド直上の天井は一段高くなっており、そこにはシャコ貝に立ったビーナスの壁紙が貼られていた。『ビーナスの誕生』をボンヤリと眺めながら、美緒は絵のタイトルを思い出そうとした。
(確か、ボッティチェリの作品……、名前は、なんだったっけ……)
よく見る絵だっただ。中学時代、美術の授業でボッティチェリという作者の名前は覚えた。だが、『ビーナスの誕生』という、作者の名前よりも簡単に思い出せそうな、タイトルが思い出せない。
下腹部から込み上げてくるむず痒さに、美緒は眉根を寄せた。伸びてきた指先が、美緒の乳首を優しく撫でる。
ピリピリとした、微弱な電気が胸から流れてくるようだ。「んっ」と、小さな声を上げた美緒は、胸を触る園児の手を握りしめた。圓治も美緒に応えるように、力強く手を握りしめてくれた。
夏休みに入り、美緒は暇を持て余していた。
テストの結果は、上々だった。どの教科も高得点をとれていた。数学の教師は目を丸くして、美緒の健闘を称えてくれた。しかし、心は晴れなかった。
喫茶店での一件から、美緒は克己達のグループから外れていた。
美緒から近づくこともなかったし、克己達も美緒を遠巻きに見ているだけで、接触はしてこなかった。
久しぶりに、孤独を感じた。
慧は美緒の変化を敏感に感じ取って、それとなく気を掛けてくれた。彼の気遣いは嬉しかった。だが、心からは喜べない。
一体、これからどうすべきか。美緒は悩んでいた。
このまま克己達と距離を取って、慧達と仲良くする。この馬鹿馬鹿しいゲームを破棄し、本当に慧と付き合う。
それが、現在美緒が望める一番の選択のように思えた。だが、克己達が気がかりなのも事実だ。もし、彼らが慧に本当のことを言ったら。美緒が慧に近づいた理由を話したら、慧は幻滅し、美緒のそばからいなくなってしまう。
そうしたら、本当に美緒は学校で孤立してしまう。
結局、美緒はこのまま一人で虚しいゲームを続けるしかないのだ。こんなゲーム、始めるべきではなかった。あのとき、『少女』は後悔すると言っていた。だが、美緒は無視を決め込んだ。美緒が慧を好きになるはずはない。あのときは、誰もがそう思ったに違いない。事実、美緒自身もそう思っていたのだ。
だが、慧の実直さに当てられ、慧の優しさに触れ、美緒の中で慧に対する認識が変わっていった。気がつくと、美緒は慧を本当に好きになっていた。
だけど、美緒は穢れてしまっている。学校の誰よりも、美緒は穢れた女なのだ。慧に、相応しいはずがない。
このままでは、いけない。そう思っているのだが、何をどうすれば良いのか、美緒には分からない。考えたくない。
圓治の愛撫を受けながら、美緒はそんな事を考えていた。
僅かに照明を落とした室内には、ピチャピチャと、圓治が美緒のヴァギナを舐める音が断続的に響く。
美緒は、カエルのように両足を曲げている。圓治は、美緒の股間に顔を埋めている。温かくザラザラした舌が、ラビア一枚一枚の間まで舌を這わせ、舐め上げてくれる。圓治のクンニリングスは、年の功といったところか。尿道口からアナルまで、綺麗に舐めて、美緒を絶頂まで押し上げてくれる。
「圓治、入れて……」
人差し指を噛み、美緒は口から漏れるあえぎ声を飲み込んだ。
「ああ」
手慣れた仕草でスキンをペニスに装着した圓治は、美緒を四つん這いにさせる。僅かに腰を突き上げ、唾液と愛液で濡れたヴァギナを、圓治の前にさらした。
圓治は美緒の臀部に手を当て、広げる。僅かに口を開けたヴァギナに、ペニスを押し当てた。
「美緒、実はな、子供が出来た」
「えっ……?」
振り返った瞬間、圓治はペニスを美緒に突き立てた。
腹部に入ってくる違和感。そして、遅れてやってくる快感。美緒は枕に顔をつけ、体に押し寄せる快感の波に身を任せた。
「半年後、生まれるそうだ」
「……奥さんの子供?」
当然そうなるだろう。圓治が、美緒以外の愛人を囲っていなければ。
「ああ、そうだ。遅くなったが、いよいよ俺も父親だ」
「…………そう」
体を巡る、マグマのように熱い快楽。それとは対照的に、心は氷水の中に押し込まれたように冷たくなる。
(私とやって、奥さんともやるんだ……)
圓治の腰を臀部に叩きつけられながら、美緒はそんなことを考えていた。
今の関係に満足しているか、そう聞かれると、満足していないと応えるだろう。それは、自分が一番になりたいという意味ではない。
圓治のことは、愛していない。彼とは、そんな感情で繋がってはいない。お金、体だけの関係でもない。美緒と圓治は、お互いの心に開いた穴を補完しあっているのだ。互いの体を重ね合わせることで、美緒は人の温もりを、圓治は優しさを、お互い必要なものを分け与えていた。
「嫉妬するか?」
「ううん……。おめでとう……」
子供が出来ると言うことは、喜ばしいことだと思う。そう思う一方で、これから生まれてくる子供が不憫に思える。
本気ではないとは言え、父親は不倫しているのだ。
私を馬鹿にして! 私だって、働いているの! 子育てだって頑張っているのに! それなのに、あなたは! あなたは! あんな若い子と浮気して!
離婚直前。母親が父親に叫んだ言葉だ。幼心に、鬼のような形相を浮かべた母親の顔だけは、はっきりと脳裏に焼き付いている。父親の顔は、もう忘れてしまった。母親に気を遣って、父親のことを思い出すことが悪いことだと思っていた。あの日から、父親のことは美緒達にとってタブーとなった。
(生まれてくる子も、私みたいになるのかな……)
可愛そうな子供。自分がその一端を担っている事を棚に上げ、美緒は圓治の子供をそんな風に思ってしまった。
「なあ、美緒も子供を作ってみるか?」
「え?」
「生でやっても良いか?」
美緒が返事をするよりも先に、ペニスがヴァギナから引き抜かれた。赤黒くそそり立ったペニスは、薄ピンクのスキンを付けている。圓治は、荒々しい手つきでスキンを外すと、むき身のペニスをヴァギナに押し当てた。
「ちょっと、圓治、待って――!」
濡れていたヴァギナは、美緒の意思に反してペニスをすんなりと受け入れた。
「待って――! 抜いて、圓治! アッ、アッ……!」
薄いゴム一枚を取り払った事で、圓治の暖かさが直接体に入ってくる。
「大丈夫だ、アフターピルを飲めば……」
圓治の腰が早くなる。
「ああ、若い子は良いな。締まりが違う……!」
体を捩る美緒を押さえつけ、圓治の腰がピストンを繰り返す。そして、程なくして熱い飛沫が体内に放たれた。
圓治の射精とタイミングを同じくして、美緒は逝ってしまった。『生』はいけない事だと分かっていても、その事による興奮と快楽は、倫理観を洗い流してしまう。結局、美緒は一時の快楽に負け、場に流されてしまった。
ペニスを引き抜いた圓治は、美緒の口元にペニスを差し出してくる。美緒は条件反射で、そのペニスを咥えた。