その後。
それから後の日々はというと、それほど変わりはなかった。元貴の反応が心配だったけどけっこういつも通りにふるまってくれている。ただやっぱり2人きりになると挙動不審になって目を合わせてくれないけどこればっかりは仕方ないかな。
これくらいならしばらく時間が経てば元貴も忘れてくれるだろう、と思いながらも寂しく感じてしまう気持ちを推し殺した。
ある日スタジオレッスン明けにスタッフと居酒屋で飲み会をする事になった。といっても10人ほどの小さな飲み会。俺は元貴たちとは離れたところでお酒を飲むグループでのんびり飲んでいた。若井がかなりの下戸なので飲むグループと騒ぐグループに自然と別れる事になる。
元貴は飲めないというわけではないが、やっぱり仲良く騒ぐ若井と一緒にいる事が多い。
みんなが騒ぐ声の中でもひときわ響く元貴の笑い声を遠くに聞きながらスタッフとわいわい飲んでいると、急に後ろから手が回されギュッと抱きしめられた。
元貴だ。
突然の事にびっくりする。こんなところなのに心臓がキュッとなってドキドキしだす。
でも…振り返るとそこには顔をしかめてどうしていいかわからないと困り果てた元貴の顔があった。
「お願いだからこれ以上お酒飲まないで…」
そう周りに聞こえない小さな声でつぶやく元貴の顔を見て「ああ、やっぱり」と思った。
やっぱり元貴は俺がゲイだなんて信じたくないんだろう。普段は忘れたふりしていても、ただこうやってみんなで居酒屋で飲んでいる俺を見るだけでもあの日が思い出されて耐え切れないくらい。
ふぅ、と一つため息をついて、安心させるように軽く頭をポンポンと撫でると元貴の顔がさらに歪んだ事に胸がズキっと痛んだ。
それからしばらくしてこの会はお開きになり、俺は家に帰ってベッドに仰向けに転がり大きなため息をつく。
きっと元貴は俺がお酒飲んでる姿を見てあの日を思い出して気持ち悪くなっちゃったんだろうなぁ。
あの日、たとえ間違いだったとしても満たされた感覚があったのは確かな事。俺はそれを味わってしまった。
二度と手に入らないとわかっていても、どうしてももう一度という気持ちが止められない。あれ以前はそんな事思わなかったのに些細なことに反応して期待してしまう自分が本当に嫌になってしまう。
その気持ちを見ない振りするのは想像以上につらくて、手に入らないのが当たり前だと思っていた時とは比べものにならない苦しみをもたらした。
元貴は女の子が好きなんだから。あの日は酔っ払って間違えちゃっただけ。
元貴が絡んでくるのはいつもの事。元貴は元々誰にだってすぐに抱きついて甘えるから。あれは特別な事なんかじゃない。勘違いしちゃダメ。
そうしっかりと自分に言い聞かせる。変な期待をしたら傷つくのは自分なんだから。
あの日を思い出させて気持ち悪い思いをさせないように。俺が元貴の事が好きなのがバレてこわい思いをさせないように。
それは最初思っていたよりもずっとつらい作業だった…。
涼ちゃん、もっくんに拒否反応されて落ち込んでます。
「あれだけ言ったのにバカね、期待をしたら傷つくだけと」ア・プリオリですね😅
コメント
6件
涼ちゃん、なかなかに辛いですね…💦
も〜大森さん意識してるんでしょ?ねぇねぇ…✨
涼ちゃん…もっくん視点も楽しみですね😁💕