テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夜も更け始めた室内には、ただ二人の怒りの声だけが響き渡っていた。
「……いねぇ……! いない……ッ!!」
すかーの息は荒く、手には汗が滲んでいた。
夢魔も額に手をあて、苛立ちを押し殺せずにいた。
「本気で隠れてんだな……。ガチでやりやがってる……」
部屋という部屋、押し入れ、クローゼット、ベッドの下──ありとあらゆる場所を何度も何度も探した。けれど、ネグの姿はどこにもない。
「クソが……」
すかーは壁を殴りつけた。
夢魔も、わずかに唇を噛みしめる。
一方その頃──
襖の奥、ネグは身体を丸めたまま、羽織った上着にくるまっていた。
表情は笑みを浮かべている。だが、声は一切漏らさない。
喉の奥でクスクスと笑いを堪えながら、スマホを開く。
LINEを開くと、知り合いとのやり取りが続いていた。
ネグ:『22時にはそっち行きたい。避難したい。』
知り合い:『大丈夫、待ってる。』
──そんなやり取りをしながらも、ネグはさらにスマホを持ち直し、再び電話をかけた。
相手はもちろん、すかーと夢魔。
コール音が数回鳴り、すぐに繋がる。
ネグは静かに息を吸い込み──
『あはっ♡♡ ねぇねぇ、すかーくんと夢魔くん? 何回探しても見つけられないとか、ほんっとに雑魚すぎ♡♡ そんなに必死になって、汗だくで、顔真っ赤で、探してるのにぃ……見つけられないんだ? 超ダッさぁ♡♡ もしかして、探すフリだけ? それとも本気? でも、本気でも見つけられないとか、やばぁい♡ 雑魚♡ 雑魚♡ ざこざこ♡ ざぁこな夢魔くんとすかーくん♡♡』
ネグの声は柔らかく甘く、それでいてひどく挑発的だった。
そして、すかーと夢魔の心は限界を超えた。
「っっっっ!!!!!」
「ふざけんな!!!!」
すかーの叫び声が部屋中に響き渡る。拳を握りしめた手が震えていた。
夢魔も目を見開き、奥歯を噛み締めたまま、電話を無理やり切る。
「何なんだよ、あいつ……!!」
「マジで絶対見つけてやるからな……ネグ!!」
二人は再び、ほとんど壊す勢いで部屋中を探し始めた。
クローゼット、棚の中、押し入れ、タンス、部屋の隅──何もかも。
だが、それでもネグは見つからない。
襖の奥で、ネグは声を出さず、表情も動かさず、ただ心の中だけでクスクスと笑っていた。
──心の中でだけ。
──絶対に声は漏らさない。
LINEをそっと確認し、知り合いとのやり取りを重ねながら、ネグは時計を見上げた。
22時までもう少し。
それまでは、ただ静かに隠れて、二人の大噴火を何度でも繰り返し見届けるだけだった。
そして、また……
スマホを手に取り、再びコールボタンを押す。
──雑魚♡ 雑魚♡ ざこざこ♡
その繰り返しが、終わる気配はまだなかった。