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使用人が夕食を告げるまでカイランは私の膝に頭を乗せていた。重くないかと聞いてきたけど、泣いてる人に重いからどいて、なんて言えない。もう二度とさせないから。平気よと答えておいた。暗い色の服でよかった、涙の染みが目立たない。お腹も空いて、出された食事は全て食べた。お兄様の言うとおり本当に太ったかもしれない。夕食が終わるとハンクは紅茶を飲まず食堂から退室した。最近は共にいたのに何かあるのかしら。ソーマもハロルドもいない。カイランも首を傾げている。なんだか落ち着かない私は紅茶を一口飲んで自室へ戻る。ダントルはまだゾルダークの騎士服を着ている。カイランが私の部屋にいたから、着替える暇がなかったようだ。
「ダントル、私が部屋に戻ったら着替えてらっしゃいな。心配なら居室の鍵をかけるわ」
ダントルは考え、頷いている。真っ黒で存在感が強いわ。自室に入り鍵を閉める。ソファに座りハンクに渡すハンカチに刺繍をする。落ち着かない。
ハンクがソーマを連れ執務室に入るとハロルドとライアンが待っていた。ハンクはソファに座りライアンの報告を聞く。
「ハインス姉妹ですね、王宮の医務室で父親を待つと言い張って診察を拒否したんですよ。さすがに公爵令嬢の体に無理矢理触ることはできないので待ちましたよ。報せを聞いたハインス公爵が急いでやってきたら、妹は泣き出して姉はしどろもどろ。公爵は何がなんだかわからず困り果て、僕が見たことを話したんですよ。王宮の使用人は一部始終見てましたから、呼んでおいたんです。公爵は使用人を問い詰め始めて、姉は困ってましたね。まだ指輪を外してないんですから。大きな指輪、あれに仕掛けがあったのかな?宝石を加工して空洞を作りどこか押すと開くのかな?蜂だ、と妹の方が言い出したらしくて、騎士に駆けよった、近くのキャスリン様にちくり、の所をダントルさんの足掛けで妹に刺しちゃった。何の毒かはわかりませんが遅効性でしょうね。青い顔はしていましたが発熱や発汗、呼吸困難などは発症してませんでした。さすがは公爵、使用人の話を聞いて、姉の着けている指輪に気がつき、憤怒の表情の後に真っ青な顔になってました。あれは事態を把握しましたね。近衛に頼んで妹を馬車まで運ばせて急いで帰りましたよ。勿論、口外禁止を言い渡されました。その前に閣下に使いを送ったんで。すでに遅し。なんの毒なんだろう?妹は確かに、刺さったと言っていたんですよね」
ライアンはソーマが入れてくれた紅茶を飲み、お腹がすいたと食事を要求する。
「終わったか?」
「ハインス公爵が退室した後、医務室に陛下が来ましたよ。何が起こったか僕に聞いてきたんで見たことを話しました。陛下も青くなって泣きそうな顔してたな。口外禁止は陛下には効きませんよね」
「毒が何か探れ」
えー、とライアンは抗議する。それは難しいんじゃないか、ハインス公爵が見張るだろうし、姉妹が何をしようとしていたのか気づいたなら、ハインス邸は悪事が漏れないように警備が厳重になるだろ。
「時がかかりますよ、その前にハインス公爵からゾルダークへ動きがあるかもしれないですね。足を掛けられたことに対する抗議か、閣下が気づいて報復されるのかと、今頃震えてるんじゃないですか」
ハンクに手を振られたライアンは退室を促された。ソーマに連れられ炊事場へ連れていかれる。先程の食事の要求が通ったらしい。椅子に座り待っているとソーマから、今日から医院へ泊まるよう要請があった。
キャスリン様には刺さってないのに心配性になっちゃって。子供を可愛がる閣下なんて想像できないよ。
ライアンは頷き、食事を終えたら帰るよう言われ、ソーマは離れていった。
「用意は?」
「騎士三名は選びました。日の出と共に出立できます。旦那様の馬も準備は終わっております」
ハンクは頷き、ハロルドに下がるよう命じる。
堕胎の毒を子を宿していない女が受けたらどうなるか、無害か石女か。二人共に手を下すが、そっちは戻ってからでいい。それより引退した年寄が何を言い出すか…手は打っておくか。
執務室の扉が叩かれソーマが入る。
「風呂はあれの所で入る、そのまま共にいる」
ハンクは立ち上がり、キャスリンの部屋へ向かう。夜が始まった時だろう、夜明けまでは長い。あれに話さねばならない。
「ソーマ、あれに何かあったら動け」
短くても三日は戻れない。側にいると言ったのは俺だ。怒られても仕方がない。
私が刺繍をしている間にダントルは戻り、アンナリアとジュノが湯を運んでくれている。あともう少しで空色のハンカチが縫い終わる。喜んでくれるといい。アンナリアが最後の湯を貰いに行くため部屋を開けるとハンクが立っていた。私は立ち上がりハンクの元へ行く。何かあったのかしら、随分はやい、共に湯に浸かる?
ハンクとソーマが部屋に入り、ハンクの着替えを棚に置く。ソーマに促されアンナリアとジュノは部屋から出ていった。私は目の前で立ったままのハンクに尋ねる。
「湯に入ります?」
ああ、と答えをもらい、手を引いて浴室へ向かう。動きの鈍いハンクは放っておき、私はシャツの釦を外していく。袖から腕を抜いても、腰紐を外しトラウザーズを脱がせても動かない。
「閣下、外してくださいな」
ハンクの手を掴み背中を向ける。黙ったまま後ろで胸を締めている紐を緩めていく。シュミーズは自分で脱ぎ、ハンクの手を引いて浴槽に座らせる。いつものように膝に乗り温まる。まだ動く気配がない。私はハンクの手を掴み下腹にあてる。子が叩いている。漸く指が動き下腹を撫で始めた。ハンクは私の頭に口を落とす。意識が戻ったようだわ。厚い体に寄りかかり上を見上げると、黒い瞳が私を見つめていた。困ったような顔をしている。やはり何かあったのかしら。
「日の出と共に邸を出る」
唐突に話し出す。どこへ行くの?長くかかるの?私は問わず、目を見つめたまま続きを待っている。
「ゾルダーク領へ呼ばれた」
呼ばれた?老公爵様に?ハンクを呼べるのはゾルダーク領に一人だけよね。
「長くなりますの?」
答えが返らない。困り顔の頬へ手を伸ばす。
「外には出ませんわ、ダントルも付けます。閣下が望むなら部屋から出ません」
口が額にあたる。
「側を離れる」
側にいると私と約束したことを破るから、困った顔をしているのね。私はハンクと向かい合う。少し窮屈だけど、太い首に腕を回し愛しい頬に自身の頬を合わせる。
「心細いけど我慢します。必ず無事に私の元に戻りますでしょう?」
ああ、と小さく答えが返る。ハンクが無事ならそれでいい。少し離れるくらい…想像すると悲しくなるわ。朝起きても、あの温もりはないのね。きっと寂しいわ。頬を掴み黒い瞳と見つめ合う。
「このまま日の出まで共にいてくれる?行く前に私を起こして」
口を合わせる。きっと起こさず行くつもりだった。そんなの嫌よ、約束してほしい。
「四日以内に戻る」
「馬車で?」
馬車で往復してそのくらいなのに、向こうで何もできないじゃない、まさか。
「馬で行くつもり?」
答えないということは、そうなのね。
私は見つめ合っていた瞳をそらし、肩に頭を乗せる。私のために最短で戻るつもりなのね。この人は私のことを常に考えてくれてる。それだけ私のことを想ってくれてる。本当は止めなくてはいけないのだろうけど、嬉しいが胸に満ちる。嬉しい涙が溢れる。
「怒るか?」
側を離れることを?馬で駆けることを?本当は馬で行ってほしくない、でも行くと決めた決意が私を満たす。
「いいえ、無事に戻るなら怒らない」
「泣くな」
頭を置いていた肩に噛みつく。歯を食い込ませ皮膚を破らないところで止める。口を離すと歯の痕がしっかりついてる。首に吸い付き痕を残す。離れていても想っていてほしい。
「いつもハンクを想うわ」
ハンクも私の肩に噛みついた。痛みに痺れ、下腹が熱くなる。濃い紺を掻き回す、秘所が疼くの、我慢できない。
「ハンク入れて」
ハンクは肩から口を離さず陰茎を掴み秘所に宛がう。狭い浴槽の中で私たちは繋がった。奥まで届くハンクの陰茎、上でも繋がりたい。濃い紺を掴んで引っ張り、肩から引き剥がす。大きな口へ舌を突き入れ絡ませる。隙間なんて許さない。ハンクの唾液も飲み込む。厚い舌を捕まえ私の中へ誘う。ハンクの全てを私の中に。