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貴君を送ってから、家に帰る。
駐車場に車がある、一台は旦那、もう一台は綾菜だ。
翔太も来てるのかな?
「ただいま、みんなどうしたの?集まって」
「おかえりぃー、だって今日はさぁ…」
綾菜が意味深に翔太をせかす。
「ほら、ばぁばに渡して」
「おめで、と、ばぁば」
「え?」
カレンダーを見た。
私の誕生日だった。
翔太が小さな花束をくれた。
「あのさ、これ…」
そう言いながら旦那が、プレゼントらしきものを出してきた。
私が好きだと言った、スィーツ屋さんのスフレだった。
「あ、ありがと」
意外なことに、少々びっくりする。
「それってさあ、お母さんが好きだって言ってたスフレだよね?ちゃんとお母さんのこと、おぼえてるって、よほどお母さんのことが好きなのね、じぃじは」
お父さんとは呼ばずにじぃじと呼ぶ綾菜。
私のことが好き?そうなのかなぁ?
じゃあ、なんであんなこと…。
ま、いまはそんな話はやめておこう。
せっかくの楽しいお出かけの余韻に浸りたいし。
「これ、なに?」
「あ、それは今日行ってきたミュージカルのパンフレットだよ、見ていいよ」
翔太は、うわぁと言いながらパンフレットを見ている。
「お母さん、好きだもんね、その劇団。…て、誰と行ったの?」
「あ、新しい職場でできた新しいお友達。今度紹介するね」
「そうなんだ、お母さん、1人になったから寂しいかと思ってたけどそうじゃなくてよかった。さて、そろそろ帰らないと!翔太、帰るよ。もうじきパパも帰ってくるから」
バタバタと帰り支度をする綾菜と翔太。
「えっ、帰っちゃうの?」
「うん、たまには夫婦水入らずで過ごしたら?せっかく帰ってきてくれたんだし」
肩越しに旦那を指さす。
「えー、翔ちゃんと遊びたかったなぁ、ばぁば」
「また来るから、ね、じゃ、バイバイ」
「またね」
旦那と2人きり。
なんか気まずい。
あ、それどころじゃない、税金立替分!
「あのさ、スフレもらっておいてなんだけど、この前の税金、立て替えておいたから。これ領収書、86万と3200円。あんまり滞納すると払うのきつくなるよ」
「…うん、今度帰ってくるとき、返す。今日は通帳もカードも持ってきてないから」
「まぁ、返してくれるなら次でもいいけど。私は扶養は抜けるから、その手続きはお願いね。個人事業主だとどうなるんだろ?
よくわかんないから誰かに聞いてみるか」
買ってきてくれたスフレを開ける。
「これこれ、この生クリームとイチゴ、たまらん」
「あ、あのさ…」
何か言いたそうな口ぶりの旦那。
「なぁに?」
「このあいだのヤツか?」
「ん?今日一緒に行った人のこと?あぁ、そうよ」
「もう、したのか?」
一瞬、何を聞かれたのかわからなかったけど。
「してなーい、そんな関係じゃないよ、ただの友達。異性だけどね」
この前のキスが頭をよぎったけど。
「もしも…」
「ん?」
「もしもするなら、俺の知らないヤツにしてくれ」
「はぁ?」
「そして、してもしてないって嘘ついてくれ。嘘ついてる顔して嘘ついてくれ」
どういう意味かわからない。
「ごめん、意味がわからない」
「俺に嘘をついてる間は、俺に対して気を遣ってるってことだから見て見ぬふりする。でも、嘘つかなくなったら、その時はもう俺のことなんかどうでもよくなってるってことだから…」
「わかるようなわからないような。でも、なら何故、あんなこと言ったの?外でしてこいとか」
「………」
「そこの説明はないのね、ま、いいや。とりあえず家ではしないってことだけは確かなんだね」
「…まぁ、そう…」
「あのさ!」
テーブルを挟んできちんと向かい合う。
「それって、夫婦の意味ある?もう別々に暮らしてるし。あ、半年したら帰ってくるらしいけど」
「夫婦の意味?」
「そう!」
「あると思う」
「ある?」
「好きだから、未希のこと」
言葉をなくしてしまった。
そうなのか、この人は私のことが好きなんだ、なんて他人事のように思えた。
でもしたくないのね、あ、できないとか?
それは聞かないことにしよう。
きっとプライドがあるだろうし。
それで、外で…か。
半年の出張も残すところ、あと1か月か。
なんて考えた。
帰ってくるんだ。
今の生活がすっかり気楽になってしまったから、また夫婦の生活になるのかと思ったら、気が重い。
洗濯物や掃除が増える、そう考えただけでうんざりした。