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ソフィアが放った魔法の光が消失すると、外に残されていたのは盗賊たちだけだった。
「チッ。立てこもりかよ、めんどくせえ……」
外の様子を小さな窓から覗き込むソフィア。ギルドを包囲する盗賊たちとカガリを諦め戻って来たウルフたち。
それを見たミアは、カガリが逃げきれたのだろうことを察し、安堵した。
「さっさと出て来い! 交渉の余地はねえ! ギルドに火を放つぞ!」
酷く動揺する村人たち。盗賊の狙いは金目の物。田舎ギルドといえど、そこそこ高価なマジックアイテムも保有している。
子供たちを奴隷として売ることも考えているのなら、自分たちの手でカネのなる木を、摘み取ることはしないはず。
しかし、このまま立て籠っていてもジリ貧なのは村側も同じ。時間を掛ければ、盗賊たちは躊躇なく突撃してくるはずである。
「くそっ……。乗ってこねえな……。……おい、その辺で寝てるやつを一人連れて来い」
ボルグの前に引きずり出された青年は、腹に深い傷を負っていた。
「いい声で鳴けよ?」
ボルグはそこを容赦なく踏みつけると、青年は激痛に顔を歪ませ、痛々しい悲鳴が村中に響き渡る。
「三分以内に出て来い! 出てこなきゃこいつは殺す。殺したら次の奴だ。出てくるまで続ける」
「どうします? 村長」
武器屋の親父が村長に尋ねると、高齢の村長に注目が集まる。
誰かが出て行き、交渉せねばならないのだが、貧乏くじを進んで引こうとする者はいない。
「仕方ない……ワシが行こう……。だが、村のカネを集めたとしても納得するかどうか……」
皆が黙り込む。わかっているのだ、村が出せる程度のカネでは相手が納得しないことを……。
「……私が……行きます」
その声に皆が目を向けた。
「ソフィアさん……」
「ギルドの保有資産を全て出します。それならなんとかなるかもしれません……」
「しかし……ギルドにそこまで頼るわけには……」
「ギルドだってこの村の一員です。大丈夫ですよ。皆さんが生きていれば村は再建できますから……。私は本部から怒られちゃいますけど」
ソフィアは明るい笑顔を見せ、ちょっとした冗談で場を和ませようとした。
しかし、それは建前。本当は緊張している自分を、少しでもリラックスさせようとしてのこと。
ソフィアの足は震えていた。それでも世話になっている村の為だと勇気を振り絞ったのだ。
「何から何まで申し訳ない……」
ソフィアの手を取り、村長は深く頭を下げた。
「あと一分!」
未だ動きのない村人たちに、新たな悲鳴を聞かせようとボルグが足を上げたその時。ギルドの扉をゆっくりと開け姿を見せたソフィア。
「私が村の代表です。その青年を解放しなさい!」
「見たところ――ギルドの支部長かな? 村長はどうした? まさかこの期に及んでまだ隠れてるのか? いい御身分だなあ?」
ボルグと共にゲラゲラと笑う盗賊たち。
「村長は高齢です。今は私が村の全権を任されています。なにか問題がありますか?」
それを聞いて盗賊たちの笑いがピタリとやんだ。
「ああそうかい。悪かったな。……で、早速だがこちらの要求は、村のカネ全てと十二歳までの子供。それと二十歳以下の女全員だ」
当たり前だが、その要求は呑めない。
「村のお金は全てお渡しします。しかし子供たちや女性は渡せません。かわりにギルドの保有資産を全てお譲りしますので、それでどうかお引き取りを」
「フン。何言ってやがる。村のカネの中にギルドのカネも入ってるに決まってるだろ? 奴隷の分が足りねえよ」
「――ッ!?」
ソフィアは唇をかみしめ、拳を握る。
「……奴隷分を金額に換算すると、おいくらになりますか?」
「そうだなあ……。金貨一万枚ってとこじゃねーか?」
再び笑い出す盗賊たち。もちろん村の子供や女性たちを奴隷として売ったとしても、それほどの大金になるはずがない。
払えないことをわかって言っている。ボルグは初めから交渉する気などないのだ。
「しかし、俺は優しいからな。三千枚で許してやるよ。分割払いでもいいぞ?」
それは王都に家が建てられるほどの額である。
だが、今ここで無駄に死人が出るよりはマシ。時間はかかるが、皆と助け合えば払えない額ではない。
ソフィアがそれに同意しようとしたその時だった。
「おっと、焦るなよ。分割でもいいが、その場合はお前が担保だ。逃げられちゃ困るからなあ」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる盗賊たちにソフィアは吐き気を催した。
盗賊たちに連れていかれれば、どうなるかは想像に難くない。ソフィアは気丈に振舞ってはいるが、恐怖からくる震えを抑えきれなかった。
しかし、断れば地図の上から村は消える。ソフィアが我慢すれば、村は助かるのだ。
「……わかりました……」
「へへッ……。交渉成立だ。ギルドの中にデケェキツネを使役してた|獣使い《ビーストテイマー》がいるだろ。そいつに金目の物を用意させろ、五分以内だ」
それを聞いていたミアは、震える足で立ち上がると、二階への階段を登っていく。
村人たちは悔しさを覚えながらも、ただその光景を見ていることしか出来なかった……。