テラーノベル
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レトロな雑貨や調度品が並ぶ、落ち着いた雰囲気の郊外のカフェに、彼らはいた。
各種メディアにも取り上げられた店なだけあり、店内は賑わっている。
阿部と岩本も20分ほど待って奥の席に通された。
周りは女性グループとカップルが多い。
「さすがに俺ら浮いてるな」
紅茶にミルクを入れながら岩本が苦笑する。
「そう?いいじゃん。俺たちだって”カップル”だし」
阿部はサラッと言う。その言葉に岩本は、そうだね、と微笑んだ。
しばらくしてケーキが運ばれてくる。岩本の前には、ザッハトルテ。阿部の前には、プリンアラモード。見た目にもお洒落なザッハトルテにフォークを入れようとして、岩本は阿部の視線に気づいた。
これは、あれが来るな
岩本は手を止め、阿部の台詞を待つ。
「…ねえ、一口ちょうだい」
予想した通りの言葉に、岩本は吹き出した。
「いいよ、ほら」
笑顔のまま皿を寄せてやる。ありがとー、と阿部はザッハトルテの端をほんのちょっと攫って行った。
「…うんまー♪あ、俺のもあげるね。硬めのプリン」
ザッハトルテの味に目を輝かせた阿部は、岩本にそう言った。ならば、と岩本は、フォークでプリンを貰おうと手を伸ばしかける。
が、阿部は先にプリンを一匙掬うと、岩本へ差し出した。
「!」
「どうぞ?」
ニコッと笑って阿部は小首を傾げる。岩本は、スプーンごと手で貰うか、そのまま口でいくか、一瞬戸惑い……後者を選んだ。
「照れてる」
阿部が笑う。
「…いきなりそんなんされたから」
プリンを咀嚼しながら岩本は、自分もあれをやれば良かったと、ちょっと後悔した。
ケーキを食べ終わり、ポットの紅茶が無くなると、2人は次の目的地に向かうため店を出た。
緑あふれる長閑な車窓の風景。
窓を少し開けて、爽やかな風に目を細める阿部。
夢でも見ている様な気分だった。
一生、この気持ちは報われないと思っていたのに、好きだと伝えれば、好きだと返してくれる。隣で微笑んでくれる。
「俺、あの塩対応に耐えて良かったわ」
岩本は、笑いながらそう言った。
「う…、それは、ごめん…」
阿部は、後に佐久間にも”なんか怖かった”と言われた自身の塩対応ぶりを思い出す。とにかく距離を置こうという一心だったとはいえ、あれを2週間近くやられた岩本は、だいぶメンタルをやられただろうと思った。
「まあでも、俺のこと好きって言って泣いてた阿部、可愛かったから帳消し」
イタズラっぽく笑う岩本の言葉に、阿部は赤面した。
「もう忘れて下さい…」
「なんで?俺まだあの可愛さ、毎晩、噛み締めてるけど」
冗談めかして言ったが、事実である。思い出しては悶えている。
「いや、もういいって!」
耳まで赤くなって阿部はいう。岩本は信号で車が止まると、その上気した頬にそっと触れた。
「俺、阿部のことずっと可愛いと思ってたし、多分これからも思うよ」
「!」
突然の甘い言葉に、阿部は言葉を失う。
「今までさ、言いたい事いっぱいあったんだよ」
頬を軽くつまみ、岩本は笑った。
「飲み込んできたけど、これからは全部言うから。…覚悟しとけよ?」
低く囁いて手を離す。
阿部は赤面したまま、口を尖らせた。
「俺だって…言いたい事いっぱいあるから…」
「楽しみにしとく」
余裕綽々な岩本の態度に、阿部は拗ねたそぶりで、ぷいと窓の方を向いた。
「…ひかる」
「ん?」
「大好き」
「…俺も」
岩本の返事に、思わず口元が緩む。
遠回りしたけど幸せだ。
望みを叶えてくれたのは神様だったのか、悪魔だったのか分からないけど。
阿部はこの世の全てに感謝した。
コメント
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阿部ちゃん照れてるの可愛すぎるᐡ⸝⸝> ̫ <⸝⸝ᐡ