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井野匠
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#すとぷり
るぃ@BL好き 🎀♡
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最近は毎日、放課後に図書室に来ている。
本の貸し借り、投票に向けた作戦会議、特に理由がなくたって、静かな空間で一息つきに。
幸い、宮殿の一部として建てられていそうなほどの施設の大きさに反して、来客は少ない。
他の生徒たちからすれば、日頃から授業で嫌ってほどの活字を読まされ、頭ん中に詰め込み教育させられてるってのに、わざわざ好き好んで図書室まで足を運ぶのは放課後の浪費にあたる非効率な行動、って認識なのだろう。
やっぱり、スマホは大いなる発明だ。
おかげで現代にゃ実物とほとんど同様の感覚で話題作を読み漁れる電子書籍なんてものもあるし、何か調べ物をしたいならネットに聞きゃあいい。
わざわざ大量の本棚から請求番号をチェックして希望に沿う一冊を探す手間はない。
だから図書室はいつも埃っぽい。
図書委員がどれだけ懸命に掃除当番を回そうとも、門前雀羅を張れる余裕があるほどに人の出入りがなければ、それも無駄というものだ。
「……こんにちわ、神無月さん」
「よう、今日は二冊だけか」
星栞花撫香の受付端にある「いつでも返却トレー」には、文庫本が二冊だけ積まれていた。
「……神無月さんも、ご返却……、ですか?」
「ああ、『ハーモニー(2008)』。 オススメしてくれてありがとうな。 いつもはあんまSF読まないんだけど、これは面白かった」
「……良かった。 私もその人の本、その……、好きだったので……、神無月さんも気に入ってくれて……、嬉しい、です」
花撫香は恥ずかしそうに、本の表紙で顔を隠してそう言った。
「カフカが教えてくれる本にハズレなしだな」
「そんなこと……。 わたしは、こ、ここでしか生きられないだけで……、ただの、本の虫ですから……」
「流石は図書委員」
「……私でよければ、いつでもお声かけしてください。 本を選ぶお手伝いしか……、できませんけど……」
「ありがとな。 でもオレさ、カフカにはオススメの本よりずっと聞かなきゃいけないことがあるんだよな」
何でしょう、という顔でこちらを見上げる。
「『支配者』ってのはお前のことなんだろ?
『少数派』の星栞花撫香」
「…………っ!」
大きな丸眼鏡の向こうで核心を突かれて驚く瞳。
イエスともノーとも言わないその唇は、少し震えている。
「否定なし……、認めるんだな?」
「あっあの、違……! なんでその名前……!」
「その名前?」
「『少数派』って……」
「……オレも組織に入れてもらったんだよ。 EXEに頼んでな」
「あの人のことまで……、じゃあ……、神無月さん、本当に……」
……あたりだ。
言質が取れた。
いいや……、取れてしまった。
一度は否定したものの、EXEなんて人名らしくもない名前を出して、ここまで違和感なく返答できるのは……、内部事情を知ってる関係者だけだ。
「……まさか、お前だったなんてな」
「……まさかって、私のこと、分かってて聞いてきたんじゃ……?」
「悪い、誘導尋問させてもらった。 オレは組織の仲間なんかじゃねんだ。 カフカの失言を待ってた」
「そんな……! で、でも……、なんで私のこと……」
「……どうしてカフカを『支配者』だと思ったか? 正直、思ってもみなかったよ」
「じゃあ、なんで…………」
『支配者』の存在は脅威だ。
もしオレが想像していた通り、一条を取り巻く不自然な出来事の数々を引き起こしていたのが、『支配者』の仕業だったとしたら。
きっとディオのような人間を操ったりするような権能を使っているはずだ。
その被害者が……、今度はオレの友達やクラスメイトになってしまうかもしれない。
それは許せない。
そんなことにはさせない。
だから、どうしても『支配者』を見つけ出さなければならなかった。
しかし、『支配者』の手がかりはほとんどない。正体の本名も、性別も、容姿も、何も知らない。
そこでオレが取った行動は――――、
「……総当たりしたんだ。 この日継高の生徒を、一人一人。 順番に。 お前が『支配者』かって聞いて回ったよ。 ……カフカ、お前だけだったよ。 この呼び名に反応したのは」
「そ、総当たりって……! この学校に何人の生徒がいると思っているんですか……!?」
「総在校生徒数、666人。 一条が言うには、日継は準過大規模校らしいぜ」
「……そこまで分かってて、……それを、全員って……」
「当然、無理だろうな。 とんでもない時間と労力がかかる。 だから、ある程度は狙いを絞った。 一条に帯びる不自然な噂、あれは一条が学内政治で権力を得られるよう、誰かが仕組んだとしか思えなかった。 つまり……、それを仕組んだのは一条に生徒会長になって欲しい奴、支持派ってことだ。 そんな裏仕事をするような奴が今回の投票会に来ないはずがない。 来る。 きっと来るさ。 例え一条の勝利を確信していたとしてもな」
今回の投票会……、投票用紙のフォーマットには選挙委員が持っていたデータをそのまま利用していた。
そこで、一条からフォーマットの改良をする提案が入ったのだ。
「今回の投票会は一条からの直々の希望を受けて、匿名起票制ではなく、記名制で行なうことになった。 ……あいつのことだ、自分の反対派のやつの名前を知るために匿名をやめさせたんだろう。 まったく、本物の投票だったら選挙法違反だぜあんなの。 でも、校則にそんな法はねえ。 法がないなら悪にゃならねえもんな。 ……ってことは、オレが盗み見たって悪くはねえはずだ。 利用させてもらったよ、一条に投票した奴、全員の名前を。 奴に投票された票数は、合計120票。 666人全員を調べるよりずっと楽だ。 ……カフカ、お前の名前もそこにあった。 本当だったら無記名か別人の名前を借りて使いたかっただろうが、投票用紙には記入された名前と学生番号の照合が取れない場合は無効票、と忠告が記されていた。 だから仕方なく本名で投票したんだろ?」
だが、120人でもまだ多い。
クラス四つ分に近い人数を、どうやって捌くのか。
「そこで参考にしたのが……、こいつだ」
学生鞄からクリアファイルを取り出し、そこに挟まった一枚を取り出す。
「こいつは候補者リストだ。 以前から『支配者』を探していた『分派』のメンバーから貸して貰った。 このリストにゃ、尾行や情報収集なんていう地道な捜査から得られた『支配者』の候補リスト。 こいつには200人近くの生徒名が載ってる。 全くと言っていいほど絞りこめちゃいねえ、これだけじゃ役立たずの紙切れだ。 ……だがな、このリストと一条に投票した120人を照らし合わせたらどうだ?」
『廃棄物』から借りてきた調査リストに名前が載っていて、投票会で一条を支持した者。
この両方に当てはまる生徒の数は、かなり絞られる。
「結果はこの赤線の通りだ。 『支配者』候補は48人まで絞れた。 ……かなーり現実的な数になってきただろ? あとはそれを総当たりして回ったってワケだ。 そして辿り着いたぜ、カフカ。 お前の失言に!」
「そん、な…………」
……ここまで追い詰めた風に話しておいて何だが、正直カフカが『支配者』だとは思えない。
こんな虫も殺せなさそうな子が、仮面の界隈に……?
「……なあカフカ、聞かせてくれ。 一条の対抗馬を落としたのは……、お前なのか?」
「……私、嘘つくの下手ですから、正直に認めます。 私は一条さんを応援、してます……。 図書室を……、私の居場所を潰さずにいてくれるから……。 それに、一条さんはすごく正しい、と、思います……、し。 ああいう人が上に立てば……、世の中は、漂白されるはず、ですから……」
「……漂白?」
聞き慣れない言葉だ。
洗濯洗剤とかで使われてるってイメージしかない。
漂白……、汚れたものを真っ白に染め直すってことか?
「……私は、あんまり、現代が好きじゃありません。 ……嫌い、嫌。 ……みんな疲れてる。 見通し不良の将来が不安で……、周りはみんな、自分より幸せな人ばっかりに見えて、辛い思いばかりしてる。 ……嫌。 ……電車に乗ったら、みんな携帯と睨めっこしてる。 現実から目を離して、隙間時間を潰してくれるちっちゃい興奮が癖になっちゃってる。 もう、それが、幸せに感じちゃってる……。 嫌。 こんな世の中、間違ってますよ……。 みんな幸せになりたいだけなのに、携帯のアプリで世界の裏側にいるお金持ちさんを見て、くちびる噛んで。 ゲームで遊んでるおばさんおじさんのストリーミングを見て……、僕も私も遊んで楽にお金稼ぎたいって思っちゃってる……。 みんな、インターネットのせいで今まで見えるはずなかった他人の幸せが見えるようになっちゃってる……! それで勝手に羨ましがって、苦しがって、最終的に人生こんなもんかって落ち着いちゃってる!! 嫌! 嫌……、気持ち悪いよそんなの……!! どれだけ本で壁を作っても、貫通して私まで辛くなってきちゃいますよ!!」
カフカの小さな拳に、いっぱいの力が込められる。
肩も震えて、隠してた想いを必死に伝えようとしている。
「……インターネットって、すごい発明ですよ。 でも、ダメ人間を沢山作っちゃう、すごく、悪い発明でもあるんです。 幸せ不幸せを発信するから優劣が生まれるんです。 ひとつふたつの優劣感なら……、競争心とかをくすぐる炸薬にもなり得るでしょう。 でも、それが無数となると、人は戦意喪失……、してしまいます。 無気力は人類の発展を停滞させる……。 そう、過剰な繋がりは人類を縛り付ける、敵になる……。 インターネットは、有害。 ……有害図書みたいに焚書しちゃうべきなんですよ」
そう言ってカフカが厚みのある本を両手で開き、バケツをひっくり返すように掲げると。
唐突に、ページの隙間から丸い鋼鉄が落下した。
それは卓上に重いバウンド音を響かせ、ゴロリとその場で回転した。
コケとサビで染まった表面に、三つのガラス窓と、先の繋がっていない伸びたホース。
それは、潜水士などが頭から被るようなヘルメットだった。
「私の願いは……、この世界を覆う毒蜘蛛の巣、インターネットを焼き払う、こと。 穢れたインターネットを、この地球から消し去ること、です。 ……そうすれば、みんな、元に戻るはず。 目の前の幸せを逃がさないように、一生懸命生きるように、なれる。 漂白、されるはず……。 それが、本当に正しい人のあり方の、はずなんです。 でも、それを叶えるためには、私じゃ力不足……。 身体も弱いし、心も……。 そんな時、出会ったんです、一条さんに。 一条さんはすごいです。 正義感が強くて……、人間強度もある。 一人でも戦い続ける。 あんな人、初めて……。 あの人にはきっと素養がある。 悪を握り潰す、素養。 あの人は、常に正しい。 だから……、表に立って、有害な文明を消滅させる……、立役者になってもらおうと思ったんです。 私は、一条さんが社会的に、国家的に、世界的に権力を得られるまでサポートすることに、しました……」
「権力を得られるまでって……、一条が大人になって、首相とかもっと偉え奴になるまで支え続けるってことか? ……上手くいくかも分かんねえのに、てかほとんど無理だろうに。 どんだけ想いが強けりゃそんな長期的な計画やろうって思えんだよ……」
「私はそのためなら幾らでも時間をかけるつもりです。 ……生徒会長は、そのための第一歩。 と、思いまして……。 いつかはフリーメイソンあたりに加入してもらって、幹部クラスまで一気にのし上がってもらう予定です」
……フリーメイソンって。
カフカの計画は、思想だけは強いくせに穴だらけというか、非現実的すぎる。
人の夢を無理だなんて否定するのは気が引けるが……、正直そいつはキツイだろ。
狂っている。
ロビンソン、ディオ、ラヴェンダー……、あいつらとはまた一味違う。別ベクトルに狂っている。
「その為に、あの人の邪魔になる人は、この仮面の力で……、どいてもらい、ました」
「……これが、カフカの仮面?」
……しばらく仮面の界隈と関わってきて、ふと気づいたことがある。
仮面の形状は、その持ち主の性格や嗜好、権能の詳細とある程度のシナジーがある。
曖昧を嫌う野崎は、無骨ながらもしっかりと存在感のある鉄仮面。
英雄を望んだディオは、まるで少年アニメのヒーローみたいな仮面だった。
だが……、この潜水ヘルメットは違う。
小さな身体で、いつも伏し目がちなカフカには似ても似つかないほど重苦しい。
「……仮面のことを知ってる、なら……、権能のことも知ってます、よね……」
「……ああ」
「私の仮面に宿るのは、『孤の息辛い権能』……。 『夢物語』。 ……一度でも読んだことのある本から、好きなページを抜粋して……、現実に再現する権能、です。 ……私はそれで『山月記』を選んだ。 人の言葉を話せる、怪物の出てくるお話……。 私は虎になって、一条さんを邪魔する奴の枕元に立った。 ……そして、脅迫しました。 選挙戦から降りなさい、生徒会長をやめて一条副会長に一任しないって……。 効果は……、覿面でした。 あっ、安心してください。 選挙が終わって……、用が済んだ後はちゃんと記憶を消しました。 証拠隠滅には『MIB』の小説版を――――、」
彼女は自分のやってしまった脅迫の事実を……、どこか自慢げに話した。
その口ぶりからは、罪悪感は感じられない。
カフカの弱々しい性格に騙された。彼女の小さい身体に……、ここまで強い思想と重い思念が内包されているとは。
「……そうか。 本当に、お前がやったんだな。 なんで、そんなこと……。 お前は権能を使って、人の未来を強引に捻じ曲げたんだぞ? もしかしたら、一条以外が生徒会長になって、この学校をいい方向に進めてくれるかも知れなかったってのに!」
「……それでも私は、……ただ一条さんにのし上がってもらいたい。 一条さんは、私の理想像ですから。 それは、異性としてではなくて……、私のなりたい姿。 現代を生きる人としての、強靭な理想像。 私の代わりに、この間違った世の中を……、壊して欲しいんです。 私のために……、人類のために……、次の、世代のために……」
「待てカフカ! お前、その泡は……?」
カフカの口端から小さな泡がポコリポコリと出てきて、まるで深海で素潜りしてるみたいに、天井へ浮き上がっていった。
彼女が自分の口に手を当てると、頬の内側から押し出された小粒の泡が一気にこぼれ出した。
すると途端に顔色が悪くなって、両手で首を押さえ始めた。
肺の空気が出ていかないように……、苦しそうに、必死で。
「…………ぅ……!」
「カフカッ!?」
受付台の向こうへ飛び入ろうとした時。
カフカの両足が、床から離れた。
その身体が、ふわりと宙へ浮いたのだ。
そのまま辺りの本棚より高くまで浮いて……、手も届かないところで苦しみ始めた。
「――――花撫香ヲ、穢スナ」
何処からともなく、声が響く。
それは日本語でも、英語でも、聞いた事のある如何なる言語にも似つかない。
獰猛な獣の慟哭とも、弦楽器を力任せに弾いた全音符とも取れる混雑音が、脳に直接、意味を伝えようと辺りを乱反射する。
「……逃、げて…………! 神無っ、月さ……!」
卓上に転がっていた潜水ヘルメットが飛び上がり、その口を塞ごうとするかのように、勢いよくカフカの頭に取り付いた。
ヘルメットから伸びるホースが蛇のように泳ぎだし、その先が彼女の腹部に接続される。
まるで……、臍の緒の様に。
「――――妾と、この娘の邪魔をするでない」
その声は、空中に浮かぶカフカから聞こえたものだった。
ヘルメットでかなり籠ってはいるものの、内蔵マイクでも仕込まれているのか、まるで無線機を介したような雑音声が流れる。
「この娘は、妾の依代じゃ。 汝が近付いてよい個体ではない」
「……テメェ、何モンだ。 カフカじゃねえな?」
「カフカであってカフカではない。 どうせ何を言おうと、穢れた人の子に理解など出来ぬじゃろうが……、汝はこの娘のお気に入りじゃったのう。 粗末に扱って、外方を向かれては叶わん……。 仕方のない、視せてろう」
直後、カフカの背後の空間が縦に裂けた。
その裂け目は開腹手術みたいに横に広がって、奥から巨大な目玉が現れた。
「 智彗が示すは暗き未来。
希望無き星に残る価値無し。
深淵を延ばす暴虐の翼。
伽藍に蠢く不可視の鱗。
支配を望むは白痴の瞳。
啓蒙を孕んだ原初の心。
ああ 嫌だ 嫌だ。
さあ、この物語に別れを告げよ。
『イルカの夢でさようなら』 」
忽ち、カフカの潜水ヘルメットが黒いゼリーを絞り出した。
それは緑に脂ぎって光り、粘着質なまま長く伸びる。
黒い触手が、何本も形成されていく。
木が軋むような、酷く冒涜的な音を立てながら。
「妾は『旧支配者』。
星栞花撫香の唯一の友達であり、
彼女の力で第二人格に昇格した顕現。
与えられた名を、星折過負荷。
地球の次なる支配者となる存在じゃ」
コメント
1件
いやっ……!カフカちゃんがまさか『支配者』で、しかもあんな強い思想を持ってるなんて思わなかったよ😭💦 普段の大人しくて控えめな姿からは想像できないほどの強い信念と、潜水ヘルメットの仮面……「イルカの夢でさようなら」の権能とかもう言葉にならない…!最後に出てきた『旧支配者』みたいな存在もヤバすぎる…続きが気になりすぎて今夜眠れないかも…! 一条くんの総当たり作戦も執念感じたし、この回マジで神回すぎた…✨