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最高ですт т 続き楽しみにしてます ♪♪
楓弥side
鈍い衝撃が襲い、
体は制御を失ってフローリングを滑った。
背後で「ガンッ」と鈍い音。
楓「…っ」
息が詰まる。
喉の奥から呻き声が漏れるのを、
何とか飲み込んだ。
そのあとに
――ガシャーン!
コップが床に落ちて、
派手な音を立てて砕けた。
顔を上げると、 割れた破片が
光を反射して、床の上で
小さくきらめいている。
彼「…チッ…おい」
楓「…はい、」
低い、地の底から響くような声。
目の前には、俺の体を蹴り飛ばした張本人――彼氏が、
彼「……片付けとけよ」
返事をする喉が震える。
楓「…はい、ごめんなさい、…」
コップを片付け終えたあと
リビングを出て、そのまま洗面所へ向かう。カギをそっと閉め、呼吸を整えた。
鏡の前に立つ。
ライトの下で見えるのは、
笑顔のない自分の顔。
シャツの袖をめくると、
痣が見える。
楓「…また、やっちゃったんだね」
自分に言い聞かせるみたいに、そう呟く。
本当は、“やっちゃった”のは
自分じゃないのに。
手首にも、肩にも。
脱げば 背中や脇腹にも
そこらかしこにある。
楓「…ひどいな、笑」
顔には――まだ、ない。
まだ傷のついてない頬をさわる、
指先が震えた。
それだけが唯一の救いみたいに感じる。
スマホの画面が光った。
〈明日は10時入だからねー!〉
ふみくんからのメッセージ。
いつもの明るいやり取りに、
ほんの少しだけ心が動いた。
楓「…みんなに、言えたらな」
言葉が喉の奥でつかえる。
最初は優しかった。
「楓弥はほんと、がんばり屋だね」
って笑ってくれた。
でも、ある日を境に――
小さな怒りが増えていった。
それを言葉にしたくても、
“好きな人を悪く言う”
みたいでできなかった。
俺が「彼氏がいる」と
メンバーに話したとき、
みんな心から祝福してくれた。
ふみくんは
「良かったな!しっかり支え合えよ」
と言ってくれたし、
ケビンくんももりくんも聖哉くんも
「紹介しろよ!」って笑ってた。
勇馬くんも祥くんも愁斗くんも拓也くんも、
みんな俺が
「幸せそうで安心した」
と 言ってくれた。
その時の幸せな話しか、
俺はメンバーにしていない。
彼が優しかった頃の、
キラキラした思い出しか話していないから、誰も知らない。
俺がこんな状況にあるなんて、
BUDDiiSの誰一人として
想像すらしていないはずだ。
俺の仕事柄、派手に怪我はできない。
だから彼も、
顔や人目につく場所は避けている。
彼なりに「配慮」している
つもりなのだろう。
もし、誰かに打ち明けて、彼が逆上したら?
もし、この状況が世間に知られて、BUDDiiSに迷惑がかかったら?
想像するだけで、足がすくむ。
楓「…早く、消えて」
鏡の中の、アザだらけの自分に呟く。
これは、誰にも見られてはいけない、
俺だけの秘密。
顔にメイクをするように、
傷の上に重ねるように、
俺は今日も「大丈夫なフリ」をする。