愁斗side
レッスン中、鏡越しに
楓弥の姿が映った。
いつものようにリズムを取って、
笑いながら動いてる。
でも、その瞬間――
Tシャツが少しだけめくれて、
お腹に、見えた。
確かにそこにある痣。
見えただけでも2つ、いや3つ。
思わず動きが止まった。
史「愁斗、どうした?止まってるぞ〜」
ふみくんの声で我に返る。
愁「……あ、ごめんなさい」
笑ってごまかしたけど、
頭の中がざわついて仕方なかった。
レッスンが終わって、
みんなが先にスタジオを出ていく。
楓弥は最後まで残って、汗を拭いてた。
その背中が、いつもより小さく見えた。
――今、聞かなきゃ絶対後悔する。
愁「……ねぇ、さっき見えたんだけどさ」
楓弥が顔を上げる。
楓「ん?」
愁「お腹のあざ。どうしたの?」
一瞬、楓弥の表情が固まった。
それからすぐに、いつもの笑顔を作る。
楓「…あ〜、ぶつけちゃっただけだから。大丈夫大丈夫」
その笑顔が、逆に痛かった。
愁「……誤魔化さないで」
気づいたら、声が強くなってた。
愁「俺、見えたんだよ。ぶつけたっていうより……あれは違う」
楓弥は小さく息をのんで、下を向いた。
静かなスタジオに、時計の音だけが響く。
楓「……誰にも言わないで」
愁「言わない。けど……」
楓「ほんとに、お願い。誰にも言わないで、はやちんにも、言わないで」
その声は、震えてた。
でも、必死に抑えてるのがわかった。
愁「……わかった。言わない。けど……どうしたの?あれ、誰かに……?」
楓弥はしばらく黙ってた。
そして、小さく息を吐いて――
楓「……その、彼氏にやられた」
「……っ」
喉の奥で言葉が詰まった。
思考が止まる。
愁「彼氏って……あの人?前に紹介してくれた、あの……?」
楓「うん」
愁「でも、あの人……すごく優しそうだったじゃん」
楓「最初は、そうだったんだよ」
かすかな笑い声。
でもそれは、笑ってない声だった。
楓「一緒に住み始めてから、少しずつ変わってって。
最初は言葉だけだったけど……そのうち、ね」
愁「……っ」
言葉にならなかった。
楓「誰かに言おうと思ったけど、
『俺が悪いんだ』って言われるたびに、そう思っちゃってさ。
気づいたら、言えなくなってた」
愁「楓弥……」
楓「でもね、愁斗くんに見つかって、ちょっとだけホッとした」
顔を上げた楓弥の目は、少し潤んでた。
愁「ホッとした?」
楓「うん。怖いけど……もう、隠すの疲れた」
俺は拳を握った。
怒りと、悔しさと、何よりも情けなさで。
愁「……ごめん。俺、全然気づけなかった」
楓「いいよ。俺、隠すの上手いから」
愁「違う、そういうことじゃなくて」
気づいてやれなかった自分が、
心底悔しかった。
愁「……あいつ、許せねぇ」
思わず口から出た。
楓「愁斗くん、ほんとに言わないで。誰にも。 今言ったら、もっとひどくなるかもしれないから」
愁「でも、このままじゃ……」
楓「いいの。また、俺が我慢すれば大丈夫だから」
“我慢すれば”
その言葉が、耳の奥でずっと響いた。
愁「……そんなの、もう大丈夫じゃないよ」
そう言いながらも、
どうしたら助けられるのか分からなかった。
何もできない自分が、ただ悔しかった。
愁「……ごめん」
楓「なんで愁斗くんが謝るの」
愁「好きだから、だよ」
楓弥の目が少し見開かれた。
でも何も言わずに、小さく微笑んだ。
楓「……ありがと」
その笑顔が、壊れそうなくらい優しかった。
コメント
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辛い😭😭 続き楽しみに待ってます🍀*゜
..泣いていいですか、? 辛すぎますってぇ..泣