「はぁ……。すごく気持ちいい。やっぱりなんだかんだで疲れたなぁ……」
私は、温かいお風呂に浸かりながら考えた。
昨日の夜、朋也さんは私の横にずっといてくれた。
私をベッドに寝かせ、何もせずに、ただ心配してそばに座って……
きっと全く眠れなかっただろうけれど、文句1つ言わずにいてくれた。
しかも、新しくディレクターという1番大変な仕事を任されて、朋也さんの方が私の何倍も疲れただろう。
男性に、自分の部屋の中を見られたのは恥ずかしいけれど……でも、やっぱり嬉しかった。
朋也さんのおかげで心から安心することができたから。
「……」
いやだ……
朋也さんの不器用な優しさに、どうしようもなく胸が熱くなる。
一弥先輩のように、女性に対して綺麗に言葉が出てくるわけではないけれど、それでも、誠実な行動で、朋也さんの気持ちがちゃんと私に伝わっている。
この気持ちはいったい何なんだろう?
私は、情けないけれど、まだまだ自分に自信が持てない。
朋也さんが、私のことを女として見てくれているのかもわからない。いろんなことが謎のままだ。
だけれど、今は……
この状況をほんの少し……幸せに感じられる自分がいる。
よくわからなくても……このままでいいのかな……と。
お風呂から上がり、パジャマに着替え、髪を乾かした。すっぴんになることはまだ慣れない。
まじまじと顔を見られるのは恥ずかし過ぎる。
「朋也さん、お風呂入ってくださいね。うわっ」
やっぱり、上半身裸の朋也さんが座っている。
「ま、またパジャマ着てないんですか? 早く着て下さいね。風邪引きますよ」
本当に、世話の焼ける人だ。
「わかってる。どうせ今からお風呂に入るんだから、着てなくてもいいだろ?」
「よ、良くないです。裸はやっぱり困ります。一応、私も女性ですから。何度も言わせないでくださいね」
「そんなに何度も注意されたかな」
「実家にいる時もお手伝いさんに注意されたんじゃないですか?」
「実家にいるときは、裸でウロウロしたりなんかしない。それこそ梅子さんに怒られるから」
どうやら、朋也さんは、梅子さんに頭が上がらないのだろう。そういう関係もなんだか素敵だ。
本当の親子ではないけれど、朋也さんは梅子さんのことを自分を育ててくれた人……と言った。
きっと、心から感謝しているのだろう。
「実家ではしなくて、ここではするんですか? ここでも裸は禁止ですよ」
だって……
そんなに美しい体を見せつけられたら、いつだって目のやり場に困るから。
私がその体に勝手にドキドキしていること……
朋也さんは知らないのだろうけれど、バレないようにするのが大変なんだ。
「まあ、気をつけるようにはする。でも、できない確率が高い……」
「そんな風に宣言されても……」
本当に、朋也さんは子どもみたいだ。
だけれど、こんな日常の些細なやり取りが……
なんだか、こんなにも幸せに感じるなんて……
「明日、楽しみです。すごく」
「バーベキューなんて久しぶりだ。いつ以来だろう」
「私も久しぶりなんです。ずっと前に夏希とバーベキューしたんですけど。それ以来です」
「浜辺さんと?」
「はい。どこか近くのキャンプ場で、夏希と夏希の男友達と4人でバーベキューしたんです。あの時、夏希、めちゃくちゃ酔っ払っちゃってちょっと大変だったんです。でも、一緒にいた夏希の友達が、ちゃんと家まで送り届けてくれたんで」
「そっか……」
「……どうしたんですか?」
朋也さんは、急にトーンダウンした。
私は、何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
「いや、何でもない。男女4人でバーベキューなんて青春だな」
「別に青春なんかじゃないですよ。男子2人が夏希のことが好きで、3人で行くのが嫌だからって私を無理やり誘ったんですよ。でも、2人ともとても良い人達でした。話してて、夏希のことを本当に大切に思ってくれてるのがわかって……」
「……そうか。浜辺さんはその2人とは付き合わなかったのか?」
「はい。タイプじゃないからって言ってました。夏希はとても面食いなんです。自分でそう言ってました……って、その2人にはちょっと申し訳ないですよね」
朋也さん……
もしかして、夏希のこと、気にしてる?
「いろいろ話して悪かった。先に休んでて」
そう言うと、立ち上がって、さっさとお風呂に行こうとした。
「あっ、おやすみなさい、朋也さん」
「……ああ、おやすみ……恭香」
朋也さんは、振り返り、私のところにわざわざ戻ってきて、頭を二回ポンポンしてくれた。
何なんだ、このポンポンは――
こんなことをされたら照れてしまう。
この人の行動は、やはりとてつもなくカッコ良い。
異常なほどに心臓が高鳴る。
私は、こんな人と一つ屋根の下で眠っているのか……
これは、正直、世界の七不思議のひとつだ。
本当に、まだ全然信じられない。
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