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わーお…ひやひやさせて来ますねぇ〜 とても最高、!!!💘💘💘
おぉ…… 大森さんすっげぇ… そしてミセスを賭ける…怖すぎる!! 続き気になります!!!
第10話 蠱毒
あらすじ
藤澤は湯ノ内の策略を前にしても、信念を曲げない。
しかし、湯ノ内のカードはまだ枚数が残っていた。
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「君…なかなか諦めが悪いね」
湯ノ内が頭を搔くと自分に言い聞かせるように呟いた。
「まぁ、いい」
「まだ、やりようはいくらでもある」
湯ノ内は大森の頭を踏みつけたまま、慣れた様子で秘書を手招きした。
秘書がすかさず、湯ノ内の近くに向かう。
「どう、反響は集まってるかな?」
質問を受けた秘書は 素早くタブレットを操作して、すぐに返答をする。
「はい、ミセスというワードは注目が集まりやすい傾向にあるようです。 」
湯ノ内は深刻そうな顔して、頷く
「そうかい、それは難儀だね
ファンは同時に監視者でもある」
湯ノ内は やっと大森の頭から足を外すと、大森の顔を見た。
しかし、大森はぼーっと床を見続けている。
まるで夢の中にいるように、現実味がない。
限界の末に現実逃避を始めた脳は、どこかの空想を漂い始める。
湯ノ内は膝を折って、大森の顔を覗き込んだ。
「何を勝手に休んでいるのかな?君の仕事は、まだ終わってないだろ」
そういうと、タブレットを見せた。
「君が育てて来たものだ、見なさい」
大森の瞳だけが動くと、タブレットを見る。
画面には、流失した写真に対する反応が写っている。
すでに、いいねは300程付いていて、コメントも20個程集まっている。
這いつくばっていた大森は、弾かれるように起き上がると秘書からタブレットを奪った。
その様子に、湯ノ内は口角をあげて微笑む。
「私の友人はフォロワーが多いからね、情報はすぐに回るよ」
大森はすぐにコメントを開いた。
集まってるコメントの大多数は困惑のコメントだ。
自分の存在よりも、この写真の過激さに言及する声が多い。
内心、ほっとしながら見ていると一つだけ “大森元貴” とだけ書いてあるコメントがあった。
いいねが二つ付いている。
そのコメントを見た瞬間、大森の中で何がが湧き上がった。
大森自身もコントロールできない程の恐怖と嫌悪だ。
それが身体を包むと、大森は激しい吐き気を催した。
大森は口を抑えると、えずく。
頭が悪い方向へと、想像を進めていく。
それを、止められない。
湯ノ内はそんな大森を見下ろして、観察した。
水晶玉のような瞳が、一瞬だけ喜びを写す。
わさわざ 膝を折ると、大森の顔を覗き込んだ。
大森の瞳の動きを注意深く観察する。
「今、何を想像した」
大森な湯ノ内の言葉に、追い立てられるように吐き気が増す。
抑え込むように、さらに強く口を抑えた。
湯ノ内の瞳が、一層ギラつくと大森の頬に手を伸ばす。
大森は身体を強ばらせたが、湯ノ内は髪を微かに撫でるだけに留めた。
湯ノ内の全ての行動は、大森の心の動きを測るため。
大森は、そんな風に感じて身震いした。
湯ノ内が再び口を開く。
「断言しよう、君のその想像。私が実現させる」
大森の呼吸が早くなる。
視界が、ぐらっと揺れた。
到底、笑い飛ばせなかった。
湯ノ内なら、本当にこれを実現させるんじゃないか。
大森が本当に恐れている事が、もうバレているんじゃないか。
大森はそう思ったら、身体の震えが止まらない。
湯ノ内は、すっと立ち上がると後ろで手を組んだ。
大森にとっての支配者は自分だと、示すような立ち姿だ。
「それを変えたいのなら、君はどうするべきかな?」
大森はもう、藤澤の存在も若井の存在も忘れていた。
湯ノ内と二人きりで地獄に取り残された気分になる。
震える身体から、涙が零れる。
津波のような恐怖が耳鳴りとなって、大森を襲った。
大森は急き立てるように、立ち上がると湯ノ内に顔を寄せた。
湯ノ内の薄い唇に、自分の唇を押し付ける。
その瞬間、大森は全ての矜恃を捨てた。
唇を離すと、潤んだ瞳で湯ノ内を見つめる。
大森は、初めて心から湯ノ内に振り向いて欲しいと願った。
「もう、なんだっていいです。貴方しか僕を救えない…だから僕を見捨てないで」
湯ノ内の瞳孔が開く。
珍しく、息が荒れた。
「いいだろう、合格だ」
湯ノ内は興奮を、抑えられないように微かに震えた。
大森の心を掌握できた実感が湧く。
しかし、大森は顔を顰めると叫ぶ。
「そんなのいらない!!」
湯ノ内は、予想外の返答に驚く。
一応、ご褒美をやったつもりだ。
だが、大森は湯ノ内の胸に縋るように抱きついた。
「そんなの…それよりも、もっと僕を見て」
大森の声が震える。
「ねぇ、湯ノ内さん…僕の事どう思ってるの?」
湯ノ内には、大森の意図が分からなかった。
なぜ、このタイミングで質問をするのか。
大森ほど勘が鋭ければ、これが湯ノ内の神経を逆撫でする事だと解るはずだ。
何かの時間稼ぎか?
しかし、大森はさらに質問を重ねた。
「ただの接待相手?ただの暇つぶし?」
湯ノ内は、周りの状況を見た。
何か企んでいるのかもしれない。
そんな湯ノ内の様子に、大森は焦燥感が募る。
「僕…分からない、どうしたらいいの?」
大森は湯ノ内の頬に手を伸ばすと、そっと触れた。
「湯ノ内さんは空っぽなんかじゃないよ、ちゃんと愛がある。そうでしょ? 」
湯ノ内は苛立ちを感じた。
いいや、私の中にそんな下らないものは無い。
大森を見下ろすと吐き捨てる。
「君、まるで売春婦の様だ。やり方を変えなさい」
大森は目を見開く。
湯ノ内は、さらに牽制しようと口を開く。
しかし大森は、勢いよく立ち上がると湯ノ内が飲んでいたお酒を手に取る。
そのまま、湯ノ内の頭にぶちまけた。
湯ノ内にとっては初めての経験だ。
呆然としていると、大森が叫ぶ。
「他の奴と一緒にするな!!」
湯ノ内は、立ち上がると優位性を示すために腕を振りあげた。
暴力的な行使も必要だと判断したからだ。
しかし、大森は目を逸らさなかった。
湯ノ内をただ真っ直ぐに見つめる。
その視線が、湯ノ内の手を止めさせた。
大森が何を伝えようとしているのか、その続きを聞きたい。
好奇心が抑えられない。
「湯ノ内さん、僕の心を壊したいんでしょ」
大森が一歩、近づく。
「好きにしていいよ」
大森が踵を浮かすと、湯ノ内に顔を寄せる。
瞳が、湯ノ内の心を覗こうと光った。
「その代わり、貴方を逃がさない。
地獄には一緒に行こうね」
そういうと、大森は湯ノ内にキスをした。
湯ノ内の衝撃は、相当なものだった。
濡れた髪から雫が垂れるのも、気にならないほど大森に興味が湧く。
「一緒に?」
湯ノ内はゆっくりと繰り返した。
大森が瞳を開けると、湯ノ内を見つめる。
「うん」
大森が甘えるような声で答える。
湯ノ内は初めて、意図的ではなく何かに駆られるように大森から目を逸らした。
本気で言っているのか?
いや そもそも、 こいつは負けたんだ
私が心をゆっくりと折って、白旗をあげさせたはず
しかし、なんだこの状況は
これが、本当に白旗を上げた奴の態度か
湯ノ内はもう一度、大森の顔を見る。
大森は、いたずらぽく笑った。
湯ノ内は意図的に口角を上げた。
優位に立つために、思考の転換を行う。
まぁいいだろう、どっちにしろ大森が降参した事には変わりない。
私は仮面を被ったまま、地獄まで案内してやればいい
「面白そうじゃないか」
湯ノ内はゆっくりと頷く。
「しかし そういう君こそ、もう逃げられない。覚悟を決めろ」
湯ノ内は脅しのつもりで言ったが、大森は溢れるほどの笑顔になる。
そして、嬉しそうに頷いた。
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湯ノ内は秘書から渡されたタオルで濡れた身体を拭いていた。
大森は、その様子を申し訳なさそうに見つめる。
「…ごめんなさい」
大森が小さい声で謝る。
湯ノ内は腕を拭きながら答える。
「私は、言葉には価値を見出さない
私を知りたいのなら覚えておきなさい
この世には、言葉よりも重要なものが山ほどある」
大森は、じっと湯ノ内を見つめる。
すっと、立ち上がると秘書からもう一枚タオルを貰った。
座っている湯ノ内に近づくと、当たり前の様に膝の上に座った。
湯ノ内の目線が、大森の身体を頭から足まで見渡す。
性的な目線と言うよりも、心理を探るような そんな目線だ。
大森は湯ノ内の頭にタオルを被せると 子供にやるように、わしゃわしゃと髪を拭く。
湯ノ内は大人しく、それに従った。
今は出来るだけ情報が必要だ。
大森が、どれほど心を開いているのか
その程度が、まだ不透明だ。
私を道連れにすると宣言したのだから 再起不能になるまで、打ちのめそう
しかし この子が本当の意味で壊れる時、必ず何かが起きる。
それは確信がある。
私も地獄に引き込まれないように、慎重に行わなければ
湯ノ内のプライドが静かに燃えた。
大森はタオルで髪を拭きながら、湯ノ内の顔を見つめる。
目線が ぶつかったので顔を寄せたが、湯ノ内は拒否をした。
「キスはもういらない」
そういうと大森を見据える。
大森は、どきどきとしながら湯ノ内を見つめた。
「君が 本気だと言うのなら、ゲームをしよう」
湯ノ内の視線が抉るように、大森を観察する。
「もちろん、嫌だと言うならそれでもいい。
まぁ…そんなものでは、この私を地獄になど連れて行けないがね?」
大森は生唾を飲み込むと、頷く。
「いいよ、何すればいい?」
湯ノ内の口角が上がる。
まず、第一段階は成功だ。
このまま、少しづつ引きずり込もう。
「愛を測るんだよ、互いにね」
湯ノ内は自分の胸に手を当てた。
「まずは私から。
これは君に対する敬意の形だ。
ありがたく思いなさい」
湯ノ内はそういうと、秘書を呼んだ。
タブレットを受け取り、操作すると大森に画面を見せる。
大森が覗き込むと、動画が再生されていた。
そこには 大森が映っていた。
過去の大森が湯ノ内の下半身に顔を埋めている。
しかも、大森の顔がよく見える角度だ。
大森は肩が強ばる。
こんなにしっかり撮れているとは
つまり 湯ノ内はあの時、画角を意識していたという事だ。
思ったよりも早い段階から、大森は湯ノ内の手の中にいたんだろう。
大森は、つい苦虫を噛み潰したような顔になった。
湯ノ内は再びタブレットを操作すると、その動画をゴミ箱に入れた。
大森は驚いて、湯ノ内の顔を見る。
湯ノ内も大森と目線を合わせた。
「私が以前、人の恐怖を大切にすると言ったこと…覚えているかな?」
大森の脳裏に記憶が浮かぶ。
あんな衝撃的な言葉、簡単には忘れられない。
大森は頷いた。
「だからこそ、私が1番嫌いなのは手札の公開、そしてそれを使用できないという状況だ。」
大森は少し、祈るような顔をして湯ノ内を見つめる。
「この動画を公開しないと約束しよう。
それが私の愛だ 」
湯ノ内は秘書にタブレットを返す。
「この愛を信じろとは言わない。
愛の押しつけは見苦しいからね。
しかし、私は君に愛を見せた。
さて君はどんな愛を見せる?」
大森の瞳が揺れる。
僕の愛、そんなのどうやって見せれば…
そもそも、湯ノ内の心に何が響くのかも分からないのに
大森は考えても、考えても、”そういう事” しか思い浮かばなかった。
大森は、葛藤しながら自分の服を脱ごうと白いニットの袖を掴んだ。
しかし、湯ノ内が釘を刺す。
「あぁ 言っておくが、私は下らない恋愛ごっこは好きじゃない」
大森は服を脱ごうとしたまま、固まる。
これも、恋愛ごっこに入るのか?
湯ノ内はニットを掴む大森の手を、ぐっと抑え込んだ。
「そんなものでは、私の心は動かないよ 」
大森は、さらに困惑した。
これ以外の方法が、思いつかない。
他に大森が持っているものと言えば、 ミセスの特権くらいだ。
しかし、それも大森が操作権を持っている訳ではない。
大森が、産み出せるものなんて一つだけだ。
「じゃあ、曲…描きましょうか?」
湯ノ内が愉快そうに笑う。
「絞り出しても、それかい?
残念だが要らないね」
大森は、寂しさと悲しみが混ざった顔で湯ノ内を見る。
そして 俯くと分かりやすく、落ち込んでしまった。
「僕…いらない?」
湯ノ内は、その様子に口角が上がりそうになる。
しかし、抑えた。
まだ、攻めのターンが終わっていない。
「うーん、君にそんな顔をさせたい訳ではないんだがね…」
湯ノ内は、自分の顎を擦る。
「じゃあ、これはどうだろう?」
湯ノ内が、顔の前で人差し指を掲げる。
そして、そのまま人差し指を藤澤と若井に向けた。
「彼らを使おう」
大森は勢いよく、顔をあげると顔を横に振る。
「それはだめ!!」
湯ノ内は首を傾げた。
「なんでかな?」
大森は頭を回転させる。
しかし、どんな言葉も湯ノ内の前では甘すぎる。
分かってはいるが、それでも反論した。
「だって…二人は僕のじゃないし」
湯ノ内は首を振る。
「いいや、彼らは君の物だ。
まさか地獄まで着いてきて貰うつもりかい?」
大森は振り返ると、2人を見つめる。
湯ノ内が言葉を続けた。
「彼ら以外のカードは、私にはつまらなすぎる。それではゲームの意味がない。」
湯ノ内の手が大森の肩を叩くと、顔を覗き込んだ。
「私の心を暴きたいのだろう?
だったら全てを捨てる覚悟で来なさい。
それとも、それも出来ないのに私を道連れに出来るとでも思ったかな?」
大森の潤んだ瞳が、湯ノ内を見つめる。
何かを考えているのだろう。
瞳が細かく揺れる。
湯ノ内は あと少しで大森の心の底に、手が届く感覚がした。
興奮で心が震える。
大森の瞳が、ゆっくりと二人を見る。
大森は自問自答した。
湯ノ内と言う強敵の前に、自分は降参した。
それは、二人を守るための唯一の手段だった。
しかし大森の心は予想外の方向へ動いていた。
自分にとって、湯ノ内と言う存在が脅威だからか。
それに対する防衛本能なのか。
本当に何を考えているのか掴みたくなってきた。
大森は、湯ノ内と二人を天秤にかけた。
しかし、湯ノ内の方が重いという事実に戸惑っている。
二人を見捨てるつもりか?
でも、地獄で一人は寂しい
湯ノ内なら本当の理解者に
大森はそこで、思考を断ち切った。
自分の本能が何かに気付こうとしている。
「貴方は勘違いしてる」
大森な顔を上げる。
「涼ちゃんも若井も、僕が操作してるから一緒にいるんじゃない」
大森は心の天秤を壊した。
見ない振りをした。
「二人とも、自分の意思で着いてきてくれてる。
だから僕は感謝しないといけないんだ」
湯ノ内の視線が刺さる。
大森は内心、凍りつく思いだった。
この感情だけはバレたくない。
二人より湯ノ内に惹かれ始めている事。
そんな事が露呈したら、湯ノ内にも、そして二人にも見放される気がした。
湯ノ内は、ため息を付く。
「仕方ないね。
それでは別のものを賭けよう。
君が持っている他のカードと言えば…」
そういうと、湯ノ内の目が光った。
「ミセスを賭けよう」
大森は、つい息を飲んだ。
湯ノ内の本当の目的はこっちだったのではないかと思ったからだ。
そういえば 湯ノ内は本当の目的を示す前に、二人の存在をチラつかせる癖がある。
大森にとって一番の弱みだからだ。
大森の喉が急激に乾いていく。
「どうやって…?」
大森は探るように質問する。
湯ノ内は、わざとらしく考える仕草をした。
「例えば…そうだね」
そういうと、湯ノ内は口角を上げた。
「二人にライブ配信をして貰おう」
大森は、もう悪い予感がした。
湯ノ内は続ける。
「君はカメラの後ろ側にいる。
だから映らない。
そして、君の存在もバレては行けない。
所謂かくれんぼだ。」
大森の心臓が激しく脈を打つ。
「ゲームオーバーの条件は、視聴者が君の存在に気づいた時。
例えば君の声に反応するコメントなどは、それに当たるね?」
大森はどうしても息苦しさを感じて、口から息を吸った。
湯ノ内が胸の前で、手を広げる。
「どうだい?面白そうだろう?」