第11話 服従
あらすじ
湯ノ内が用意していたゲームの内容。
それは大森の立場を揺るがす程のものだった。
大森は自分の立場を守りきれるのか…
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「ゲームオーバーの条件は、視聴者が君の存在に気づいた時。
例えば君の声に反応するコメントなどは、それに当たるね?」
大森はどうしても息苦しさを感じて、口から息を吸った。
湯ノ内が胸の前で、手を広げる。
「どうだい、面白そうだろう?」
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湯ノ内とメンバーは宴会卓から少し離れた、静かな部屋に移動していた。
大森はこのゲームを受け入れた。
他に 愛を示す方法なんて、 思いつかなかったからだ。
例えば、嘘の愛を差し出すとしても
それでも、何をしていいのかすら分からない。
そもそも 大森からしてみれば “愛” なんて 正体の掴めない怪獣の様なものだ。
それを捕まえて、審査して、見せる。
それが 出来ないから、こんなに藻掻いているのに
しかし 運が良かったと思うべきか、湯ノ内には考えがあるらしい。
それなら、大人しく従っておこう。
映像の流出も抑えられたし、案外いいかもしれない
大森は、 どうにか自分に言い聞かせた。
湯ノ内が、柔らかい声で藤澤と若井に話しかける。
「いつも通りでいい
君たち、よく配信もするんだろ」
藤澤が鋭い目つきで湯ノ内を睨んだ。
文句は何も言わないが、一切許していないのが伝わる。
大森はつい、藤澤に口を出した。
「りょうちゃん、配信だから… 雰囲気優しく行こうね」
藤澤は大森を見ると、無理矢理な笑顔を作って頷いた。
「そ、うだよね…分かった」
大森も、なんとも言えない気持ちになる。
結局 二人にも、辛い思いをさせている。
全てはミセスのため。
それが こんな状態でも、効力を発揮するとは思わなかった。
藤澤が、きょろきょろと部屋の構造を見渡すと言う。
「画角…どうしようか」
若井は湯ノ内が座っている位置から、出来るだけ離れた所にスマホをセットした。
「これくらいで…いいんじゃない?」
藤澤が、隣で頷く。
若井はSNSの設定画面を開くと、こっそりと外部マイクの音声を下げた。
こうすれば、少しは大森の声も聞こえずらいはずだ。
一方、大森は配信のセッティング進める二人の様子を見ていた。
久しぶりに、強い緊張が身体を支配する。
配信を見るであろうファンを想像すると、奈落に引き込まれるような気分になる。
上手くできるかな
バレないかな
バレたらどうなるんだろ
大森は、頭を振って考えないようにした。
そんな様子を見ていた、湯ノ内が大森に言う。
「大森くん、私の隣に来なさい 」
大森が、ぱっと顔を上げる。
今更、怖気付いて来たのか泣きそうな顔になった。
ふらっと揺れると、足元を見て固まってしまう。
湯ノ内はさらに、言葉をかける。
「まだ私たちは地獄の入口にすら、立てていない」
大森がゆっくりと顔を上げる。
湯ノ内は、抉るように大森を見つめた。
「私と一緒に地獄に行くんだろう?
君からした約束だ
守って貰わないと困るね」
そこまで 焚きつけると大森は、やっと足を進めた。
まるで 処刑台に上がるかの様な面持ちで、
湯ノ内の方に歩いてくる。
大森が弱っているので、湯ノ内はさらにカウンターを入れる。
「いや、やはり膝の上に来なさい」
大森の足が、ぴたっと止まる。
何かを考えているようで、瞳がきょろきょろと動く。
そして、大森が口を開く。
「あ、あのルールを決めませんか?」
湯ノ内が、首を傾げると机をトントンと叩いた。
「いや これは、ただのかくれんぼだ
見つかったらゲームオーバー
子供でも知っているはずだけどね?」
大森は湯ノ内を見つめると、一歩寄る。
「僕の知ってるかくれんぼには、妨害者の役はない」
湯ノ内は目を細めると繰り返す。
「妨害者…」
大森は頷くと湯ノ内を指さした。
「貴方がそれです
ちょっかいをかけて敵に見つかるように促す」
湯ノ内は首を横に振った。
「いいや、私が子供の頃にはいたよ?
わざと大きな声を出して、敵を注意を引き寄せる
陽動作戦ってやつだね
単に、君…そこまでの頭が無かったんじゃないか?」
しかし、大森も湯ノ内と同じように首を振る。
「いや、違います
それは妨害者じゃない、貴方の仲間じゃないですか
実際、敵に見つかれば その人だってゲームオーバーでしょ」
大森はそこまで捲し立てると 一旦、深く息を吸う。
そして、さらに続けた。
「対して、貴方は敵に見つかっても無傷
僕のファンは貴方を知らないから
だから、名前を呼ばれることもない
つまり、フェアじゃないんです
そうでしょ?」
湯ノ内の口角が上がる。
大森は、まだ死んでいない。
ここまで来ても、惨めに自分の立場を守ろうと足掻いている。
なんて、長生きする玩具だろう。
湯ノ内は、頷く。
「確かに、その通りだ
かくれんぼにしては特殊だね
君の追加ルールを聞こうじゃないか」
大森の心臓が、ばくばくと高鳴る。
抑えるように、そっと息を吐いた。
正直、刃が通るとは思わなかった。
頭の回転を早める。
比較的、軽いルールを提示して飲み込みやすくさせるか。
それか、どうせならこのゲームを無効化する程のルールをぶち込むか。
どちらも思いついているが、後半はリスクが高すぎる。
これ以上は、駆け引きを長引かせない方がいいかもしれない…
でも この条件を呑み込ませれば、ミセスを確実に守れる。
大森は覚悟を決めると言う。
「当たり前な話ですけど、プライベートな所には触って欲しくないです。」
湯ノ内は片眉を上げると、足を組んだ。
「これは、愛を証明する為にやっているゲームだけどね」
大森は頷く
「僕もそうです
だからこそ、一方方向じゃ意味が無い
湯ノ内さんのペースは僕には早すぎます」
湯ノ内の口角が上がる。
「それで君のプライベートゾーンはどこなんだ?」
大森は少し緊張しながら答える。
「せ、性器…」
湯ノ内は頷くと、あっさりと答えた。
「いいだろう、そこには触れないと約束しよう」
大森はつい声が出る。
「え、」
湯ノ内が、観察するように大森を見る。
「なんだい、何か不満かな?」
大森は慌てて、首を振る。
「い、いいえ」
大森は内心、勝ちを確信していた。
下半身を直接 触れられないのなら、声が漏れる事は まず無いだろう。
大森は、自分の感度が低い事を自覚している。
大森の初経験は7年程前。
初めて、好きな人とベットに入った時
相手に恥を欠かせないように、必死でサポートした。
だからか正直、大森に楽しむ余裕はなかった。
その後も、そういう機会が何度があった。
その度に相手が辛くないか、強引に進めていないか、自分はどう見えているのか
そんな事ばかりを考えて 触れ合ううちに快感という物が、よく分からなくなった。
それを 相手に悟られないように、無駄に快感を演じたり
凍りつく様な心を 誤魔化すように愛の言葉を囁いた時、自分に嫌気が指した。
その日から、そういう事はしていない。
多分、自分は相当な不感症なんだろう。
しかし、今回それが功を奏す事になった。
大森は、心の中でガッツポーズをする。
大森は湯ノ内に寄っていくと、一応断りを入れる。
「えっと、失礼します…」
大森は湯ノ内の肩を掴むと、よいしょ と膝の上に座った。
湯ノ内のガタイが、まぁまぁ良いので 座りづらい。
顔の距離も、ぐっと近くなる。
湯ノ内が 若井と藤澤を指さす。
「さて、君たち
準備は出来たかな?」
若井と藤澤が 同時に湯ノ内を見る。
藤澤がこくりと頷いた。
つい、大森は緊張した声で聞く。
「え…もう、始めるんですか」
湯ノ内は大森の質問には答えず、言い放つ。
「配信を始めなさい」
若井は、藤澤の様子を伺った。
対して、藤澤は大森の挙動を観察している。
二人ともなかなか、踏ん切りがつかない。
ボタンを押してしまえば、同時にゲームが始まってしまう。
湯ノ内が、カウントを取り始める。
「三…二…」
大森は若井を見ると、頷いた。
“始めてくれ” という合図だ。
若井は頷くと、大袈裟に言った。
「じゃあ、始めます!!」
若井の 指が震える。
一瞬の葛藤の末に、ボタンを押した。
藤澤が始まったという事が、分かるように挨拶をする。
「皆さん…こんにちはー」
声が少し、上擦る。
藤澤は 冷静を保とうと、生唾を飲み込んだ。
コメントは、夜のゲリラ配信に驚く声で埋め尽くされる。
そうか、今の時間は22時
比較的、人が集まりやすい時間帯だ。
リスナーは、瞬く間に2万を超えた。
若井が手を振りながら、聞く。
「もう夜遅いよ、みんな…まだ寝てないの?」
若井は、自分の手が震える事に気がつく。
どうしても抑えられないので、腕を下げた。
藤澤が、出来るだけ無音の時間を作らないうにテンションを上げて話す。
「まだ22時だよ?みんな起きてるでしょ!!僕はこれくらいの時間、全然起きてるよ」
藤澤は多少 話の流れがおかしくても、話を止めない事を第一に考えた。
そして、若井も藤澤もリスナーの人数は口に出さない様に気を使った。
配信の観覧数は、呆気なく4万人を超えた。
その頃 大森は二人の声を聞きながら、湯ノ内を見つめた。
湯ノ内の目線が、大森の身体を観察する。
今までと違って、性的な色が含まっている目線だ。
大森は、つい身体を強ばらせた。
大丈夫、性器は触られないんだ
それなら、大丈夫
大森が湧き上がる恐怖と戦っていると、湯ノ内と視線がぶつかる。
あ、キスされる
大森は、空気感で察した。
案の定 湯ノ内が、顔を寄せてくる。
唇が触れそうになった時、大森は顔を背けた。
やっぱり、嫌なものは嫌だ
湯ノ内の顔が離れる。
大森は、頑なに横を向き続けた。
湯ノ内が小さく笑うので、大森の肩が跳ねる。
まだ 何もされていないのに、胸が動くほど呼吸が速い。
湯ノ内の作り出す緊張感に、大森はすぐに飲まれた。
湯ノ内の手が、上着の袖を持ち上げる。
そして、するっと素肌を撫でた。
腰を撫でられた、大森は身体を強ばらせた。
つい、次の行動を探るように湯ノ内に目線を投げる。
湯ノ内は 大森の身体を調べるように、ねっとりとした手つきで身体を触った。
大森は気持ちが悪くて、眉間に皺を寄せる。
湯ノ内の指が 大森の素肌の上を、さわさわと動く。
爪を立てて、くすぐる様な触り方に 大森は身を捩った。
なんで、こんなに触り方が気持ち悪いんだろう
大森は、苛立った。
湯ノ内の指が、脇腹からお腹
そして へその周りを、くるっとくすぐる
大森はつい、息を吐いた。
すぐに自分で、はっとする。
いや、今のは吐息なんかじゃない
気持ちが悪くて、お腹から息を吐き出しただけだ。
大森は 息を吸って、心を落ち着かせる。
すると 湯ノ内の指先が背骨を、下から撫でた。
「ぅん゛」
大森は、ぱっと口を覆った。
瞬く間に、頭が混乱に包まれる。
気が付いたら、声を上げていた。
大森は瞳を揺らすと、配信している二人の様子を伺う。
二人とも、何も起きてない様に話を続けてくれている。
それでも、大森の動揺は治まらなかった。
湯ノ内に背中を撫でられただけ
それだけで、反応したのだろうか。
いや、単純にびっくりしたんだ
ただ、それだけだ。
湯ノ内は、大森の動揺が治まらないうちに胸を撫でた。
大森が、身体を強ばらせる。
突起には あえて触れずに、その周りを爪を立てて くすぐる。
大森の腰が、ぐっと動く。
胸をくすぐっていた指先が、脇の方に少しづつ移動していく。
大森は、慌てて脇を閉じた。
しかし、湯ノ内が耳元で囁く。
「腕を上げなさい」
大森は、ぶんぶんと首を振った。
湯ノ内が、咎めるような顔で大森を見る。
そして、小声で話す。
「私は君のプライベートゾーンには触れないと約束した。
私はルールを守っている
さて、君はどうかな?」
大森の呼吸が早くなる。
予想外の展開だ。
くすぐってくる なんて
小学生の嫌がらせみたいじゃないか
大森は、そっと息を吐くと腕を上げた。
湯ノ内が、満足気に微笑む。
湯ノ内の指先が、大森の脇の下を撫で始める。
くすぐったい
それでも腕を下げられないので、とても屈辱的な気持ちになった。
湯ノ内は指先でくるくると、円を描きながら肌を刺激した。
その指が少しつづ、上がってくる。
「っ…く…ふ、」
大森は、くすぐったさに笑いそうになるのを 抑える。
何してんだ、こいつは
あまりの下らなさに、腹が立ってきた。
湯ノ内が 爪を立てると脇の下を、くすぐる。
まるで、蜘蛛が歩いてるような触り方だ。
身体が、ゾワっとする。
本当に気持ちが悪い
大森はバレないように、そっと腕を下ろそうとする。
しかし少し下げただけで、湯ノ内の鋭い目線が飛んでくる。
大森は 悔しく思いながら、腕を上げ直した。
湯ノ内が耳元で釘を刺す。
「いいかい?
私が、君に与える物は全て受け取りなさい
それが、どんな物であってもだ。
少しも逃がす事は許さないよ」
大森は、むず痒さに下唇を噛んだ。
すると、脇の下をくすぐっていた指が するりと脇を撫でる。
「っは…」
つい、大森は息を吐いた。
腰が少し揺れる。
爪先で こしょこしょと刺激されると、何故か物足りないような気持ちになる。
下腹部が、ぎゅっと苦しくなる。
大森は その感情を認めないように、自分に言い聞かせた。
これは、違う
ただ、くすぐったいだけだ。
しばらく 声を殺して我慢していると、やっと脇から手が離れる。
大森は つい安心して、ほっとした顔をしてしまう。
しかし、次はその手が胸を撫で始めた。
しかも、何故か服の上からだ。
湯ノ内の手のひらが、胸を包むとぎゅっと握る。
それを、何回か繰り返した。
大森にとっては、謎だ。
自分は男だし、柔らかくもないし
湯ノ内が何をしたいのか、理解できない。
もしかして、単純に変わった性癖の人なのかもしれない。
大森は、困惑の表情で湯ノ内を見つめる。
すると突然、湯ノ内が爪を立てる。
そして、服の上から突起を引っ掻いた。
「ぅえ゛!!」
大森の身体が跳ねる。
大森は再び、口を塞いだ。
まぁまぁ、大きな声が出てしまった気がする。
ちらっと、若井と藤澤を伺う。
すると、若井と目線がぶつかった。
やっぱり、若井にも聞こえてる。
あまりの恥ずかしさに、顔に熱が上がっていく。
大森は急いで、湯ノ内の方を向く。
そして 3度目は無いようにと、口を両手で強く塞いだ。
その頃若井は、よこしまな考えを振り払らおうと必死だった。
配信に集中しようと思っても、湯ノ内の動きを目で追ってしまう。
大森が 耐えられずに上げた声、 淫妖に動く腰つきが頭から離れない。
それを、何度も頭の中で再生した。
こんな気持ち、絶対に抱いたら駄目だ。
大森は戦友で、家族より大切な幼なじみで
堅実で、誰よりも強くて、でも繊細で不器用で
そんな大森が崩れる所を見てみたい。
手が届きそうで届かない、 心の底を掴んでみたい。
再び若井の視線は、大森に向かっていた。
コメント
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えええっ、、大森さん大丈夫かー!!!!!?若井さんそんな外に視線向けて大丈夫?リスナーにバレそう、、ひやひやしてくるううう
え、若井さん? そんなやめて〜!! 湯ノ内氏どこまでも怖い:(´◦ω◦`): 続き待ってます
湯ノ内、どこまでもやばいな… 続き楽しみです!!