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友達以上相棒未満
あの日を境に彰人や神代先輩が家に来るようになった。
望月さんは、彰人たちの事を俺たちの面倒を見てくれるからと好意的に思っていた。
俺が彰人達と一緒にいる間咲希さんは、望月さんにベッタリだった。
自分のよく知る人物が望月さんしかいないのだろう。
俺は、最初に神代先輩に話を聞く事にした。
リビングのソファーで優雅に読書をしている神代先輩を見つけたとき。
俺は、小走りで神代先輩の元へと向かった。
「神代さん何を読んでいるんですか?」
「これかい?
これは、映画で使われる演出についてがまとめられた本だよ」
神代先輩は、本に栞を挟んで表紙を見せてくれた。
「神代さんは、演出家なんですか?」
俺が聞くと神代先輩は、少し悩んでいた。
「僕は、とある劇団の演出家兼脚本家と言ったところかな」
「では、どのように司君と出会ったのですか?」
俺は、一方的に質問しているばかりだが神代先輩は嫌な顔一つせず答えてくれた。
「僕と司くんが出会ったのは、脚本家としてドラマの撮影現場へ向かった時、 初めて彼の演技を見て とても感動したんだ。」
やはりこの世界の司先輩は、俳優になる道を進んだのか。
少し寂しい気持ちもありながら俺は、神代先輩の話を聞く。
「一度シーンの切り替えが入ってその隙に司くんに話しかけたんだ。
僕らは思っていた以上に馬があってね
それで今の関係になったんだよ」
神代先輩の話を聞いて俺は、少し思った事があった。
この世界は、顔や性格は同じでも出会いや仕事がほんの少し違う場合が多いのか?
しかし神代先輩は、今も演出家として仕事をこなしている。
何か司先輩にしかない出来事でもあったのか?
考えても出るのは予測に過ぎない。
俺は、次に彰人と話をしてみようと思う。
彰人は、神代先輩が来た日から1週間後にやって来た。
その日は司先輩が休みの日だった。
司先輩と彰人が話している間、俺と咲希さんは部屋で過ごしていた。
しばらくするとドアがノックされた。
ドアの先には、司先輩が立っていた。
「2人とも彰人が持ってきてくれたクッキーがあるから一緒に食べないか?」
咲希さんは、走って司先輩の元へと行き俺は、歩いて2人の元へ向かった。
しかしなぜか足取りが重たい気がする。
もしかしたら俺は、彰人に新しい相棒が出来ているのではないかと怖がっていたのかもしれない。
司先輩の元へと着くと背中に手を置かれた。
見上げると司先輩が優しく俺を見ていた。
「なにか悩みがあるなら遠慮せず言ってくれ。
オレは、お前の父親としてしっかり相談に乗ってやるからな」
「うん。 ありがとう」
そんな会話をしリビングに向かう。
リビングに着くと携帯を片手にクッキーを食べる彰人の姿があった。
彰人は、俺たちに気づいたようで携帯をパーカーのポケットにしまった。
「よう。えーと… さき、とうや」
俺は、軽く会釈し彰人の隣に座った。
咲希さんは、あまり彰人と話した事がないからか司先輩の隣に座った。
そして司先輩が手を合わせた。
それを見て俺たちも手を合わせる。
彰人は、不思議そうにこの光景を見ていた。
「せーの!」
「「いただきます」」
俺たちは、司先輩の合図に合わせて挨拶をした。
クッキーの方に目をやるとプレーンにチョコチップ、焦茶色と緑色と様々な種類があった。
俺は、緑色のクッキーを取った。
咲希さんは、チョコチップ司先輩は、焦茶色を選んでいた。
クッキーを一口食べるとほろ苦い抹茶味に後からほんのり甘さが広がる。
俺には、丁度いい味だった。
黙々と食べていると司先輩が立ち上がった。
「紅茶を淹れてくるから少し待っていてくれ」
「あ…アタシも、手伝う!」
司先輩の後を追うように咲希さんも立ち上がりキッチンへ向かう。
「…」
ほぼ毎日一緒にいたはずなのに気まずい空気が流れる。
まあこの世界ほとんど初対面だが、だとしても会話がなさすぎる。
彰人と話したい事が山ほどあるはずなのに中々言い出せない。
「…お前抹茶ばっか食ってるよな
他のは良いのかよ」
「ああ、俺は甘いものは苦手で」
「お前、司と話してる時となんか雰囲気違くね?」
「え?」
無意識だったのだろうか
いつも通り話しているつもりだったが司先輩と彰人と接し方の違いが出てしまったのかもしれない。
彰人は、この事に対してどう思っているのだろうか?
色々と考えが頭をよぎる。
頭を整理したくても思うようにいかない。
そんな俺を心配したのか彰人は、少し焦った表情を見せた。
「おい大丈夫か?」
「ああ大丈夫だ。 心配かけてすまない彰人」
俺は、無言で下を向いてしまった。
何を話して何から質問するべきか…
「なんか言いたいことがあるなら言えよ
そんな人の顔覗かなくても良いだろ
それともお前が言った言葉でオレが怒るとでも思って怖がってんのか?」
え?
俺は、彰人の顔をそんなに覗っていたのか?
またしても無意識のうちの出来事だった。
しかし今は考えている時間がない。
そう思い俺は、話す事を決心した。
「…彰人は、今歌手として活動していると言っていたが具体的にどんな事をしているのか知りたい。」
最後の方が少し小さい声になってしまった。
だが言いたい事は、はっきり言った。
だが心臓が先ほどよりずっと早く鼓動を続けている。
どんな回答が返ってくるのか予想がつかない。
緊張と恐怖が頭を掻き乱す。
「具体的…まぁ作曲は、誰かに依頼するけどそれ以外はほとんどオレ自身でやってるな
あー経費とか数字に関わるのは、事務所のマネージャーがしたりするな」
俺は、その話を聞いて彰人の歌手としての事情と今は1人で活動をしているという事を知り嬉しくなった。
緊張していた体が一気に緩んだ。
その瞬間手のひらに痛みを感じた。
「いっ…!」
小さく悲鳴をあげて手のひらを見てみると、くっきりと爪の跡がついていた。
きっと話している時につけてしまったのだと思う。
彰人は、俺の声に気がつき少し顔をこちらに寄せ俺の手のひらを見た。
「 大丈夫か?血は…出てないな
つか、んでそんなんになるまで手握ってたんだよ」
”彰人に相棒がいないか不安だった“なんて言えるはずがない。
どう言い訳しようかと悩んでいるとキッチンから司先輩たちが戻ってきた。
彰人の方を咄嗟に見ると司先輩を待っているようだった。
もしかしたら手のひらのことを報告されるかもしれない。
もしそうなったらきっと嘘を吐いてもバレてしまう。
俺は、彰人の袖を軽く引っ張ると 彰人は、それに気付きこちらを見た。
そして俺は、彰人に耳打ちをする。
「今度、彰人が来る時に司君と俺でパンケーキを作っておくからこの事は黙っておいてほしい」
「おまっ!なんでオレがパンケーキ好きって…」
顔を赤くした彰人がオレに問いかける。
やはり俺の知る彰人とは違うところが多いようにも思える。
本当に俺たちの知る世界とは違うのだな。
「彰人は、パンケーキが好きだったのか!
ならば次彰人が来る時は、とびきり美味しいパンケーキを作っておいてやろう!」
司先輩は、自信に満ちた笑顔で彰人に宣言をし 彰人は、面倒くさそうに司先輩の事を見た後、 少し笑顔を見せる。
「はぁ…ほんとお前ら親子だな」
彰人は、小さい声で言い注がれた紅茶を飲んだ後またクッキーを食べ始めた。