テラーノベル
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早朝のスタジオ。僕は、誰よりも早くスタジオに入った。
『 こんなんじゃダメ。もっと上手にならないと 』
この思いを胸に、脚がボロボロになるまでステップを踏んだ。メンバーが帰った後の静かなスタジオでも、鏡が曇るまでたった一人、ダンスの練習をし続けた。 ボイストレーニングは基礎からやり直し、録音した自分の歌声を何度も聴き直しては理想の響きを追い求めた。喉が潰れる寸前まで、ひたすらに歌い込んだ。
自分を磨くために、メイクもスキンケアも徹底的に研究した。 鏡の中の自分が少しずつ、でも確実に「 誰より輝くアイドル 」に変わっていくのがわかった。
僕は、彼らの嫌がらせに怯える時間を、全て自分を磨く「 砥石 」にしたんだ。
変化は、一本の大きなライブから始まった。
僕のソロパート。練習でも特に力を入れていた部分だ。
フォーメーションが激しく入れ替わり、バックダンサーとしての統制された動きから、僕は群れを抜き出し、ステージのセンターへと躍り出る。
楽曲はいよいよ、僕に与えられた最大の見せ場、超高音のロングトーンへと差し掛かる。
『 …… 見てろよ 』
そう心の中で呟いた。一瞬の静寂。全ての照明が落ち、スポットライトの白い光が僕の喉元を鋭く射抜いた。基礎から叩き直した呼吸が、深く、静かに肺を満たす。録音機が壊れるほど聴き直し、ミリ単位で調整し続けた「 理想の響き 」のイメージを、脳内のキャンパスに鮮明に描き出す。
『 ーーーっ!!! 』
地声の力強さを保ったまま、天を突き抜けるようなミックスボイスが会場を包み込んだ。数万のペ ンライトの光は、まるで僕を祝福する銀河のように広がっている。 その眩い光の奔流に身を委ね、僕は一瞬、時を止めるように息を呑んだ。視界に入るすべての瞳が、僕だけを見ている。
最前列で涙を流すファンも、二階席の隅で呆然と立ち尽くす観客も、そしてステージ上で僕の影に隠れたメンバーたちさえも。
. . .
幕が上がる前、俺たちは確信していた。
あいつは今日も、俺たちの影で怯え、使い捨てのバックダンサーとして消えていくはずだと。
「 せいぜい足引っ張んなよ 」
そう吐き捨てた言葉に、あいつは何も言い返さなかった。ただ、今まで見たこともないような、静かで透き通った瞳で俺を見返しただけだった。その違和感に気付くべきだったんだ。
フォーメーションが激しく入れ替わり、ステージの熱気が最高潮に達したその時。あいつが、流れるような動きでセンターへと躍り出た。
一瞬、世界から音が消えた。スポットライトに射抜かれたあいつが、喉の奥を開く。
『 ーーーっ!!! 』
放たれたのは、天を貫くような、あまりにも純粋なハイトーン。圧倒的なまでの熱量を孕んだあいつの響きは、聴く者の魂を震わせ、一瞬にして会場全体の空気を塗り替えた。
「 …… 何だよ、これ 」
震える声で漏らした言葉は、歓声にかき消されることもなく、自分自身の耳にだけ重く響いた。
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