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 その夜は、ねぐらに帰って来てからも、ナッキも仲間達も殆(ほとん)ど話をする事無く、


「皆、もう休みましょう…… 今日はとても疲れてしまったわ」


元気無く呟いたオーリの言葉を合図に無言のまま眠りに着く事になった。


 いつも若鮒達はねぐらのそこかしこ、てんでに自分のお気に入りの場所を選んで、胸鰭に思い思いの小石や流木、水草の根を挟み、掴んで眠っていた。

 彼らは掴む対象を枕と呼んでとても大切にしていた。


 ヒットも良く、


「枕が変わると眠れないんだよなぁ、何て言うか眠りが浅い感じなんだよぉ」


と、以前使っていた流木が流れて行ってしまってから何度も愚痴っていたが、これにはナッキも全面的に同意できた。


 この夜も、てんでばらばらに眠り始めた若鮒達だった。

 ナッキもお気に入りの緑の小石を胸鰭に挟んで、一所懸命に眠ろうとしていた。


 今まで、どんな時でも、例えば遊びに夢中になりすぎて、食事を取れずに空腹で震えていたあの夜だって、この緑の枕を鰭に抱けば、何故かは分からないけれどいつの間にか安心して深い眠りに就けていたのだ。

 但し、この夜はいつもの夜とは全然違っていたのである。


 眠れない。


 単純に言えば、不眠症、それだけなのだが、もっと切ない様な、苦しい様な、まるで体の中の一部が空洞になってしまっていて、その部分に不安が一杯に詰め込まれ、何だか冷たく沈み込む様な感覚に包まれたナッキの体は、実際にも小刻みな震えを止める事が出来ずに居た。


 何をかははっきり浮かんでこないのだけれど、空洞に詰まった物、恐らく不安な気持ちを誰かに聞いて貰いたいという思いが今までに無く湧きあがって来るのだ。

 そうしなければこの震えも不安も消えはしないだろう、そんな風に思えた。


――――ああ、でも……


 ナッキは心の中で呟き、そして続けて自身に言い聞かせる様に思った。


――――皆、疲れ切っていて、もう眠りに着いたのだから、騒いで迷惑になっては駄目なんだ


 そう思って必死に目を瞑り、体に生じた冷気を無視しようと思い直した時だった。


「ナッキ大丈夫かよ? お前、そんなにガタガタ震えちまって……」


 驚いて目を開いたナッキの前には、ヒットが心配そうに覗き込む姿があり、ヒットの声に目を覚ましたのか、オーリも他の若鮒達も揃ってそそくさとナッキの回りに集まって来ていたが、例外なくナッキを案じる気持ちがそれぞれの|面《おもて》に見て取れた。


 ナッキは嬉しい様な、それでいて泣きたくなる様な気分になり、不安な気持ちを、我知らず仲間達に吐露してしまうのである。


「僕、不安になってしまっていたんだ…… どうしようもなく恐ろしくなってしまって、体の震えも止められなくて…… 先生が話した辛くて仕方が無い悲しい経験や、犠牲になった多くの鮒達の事を思うと居た堪れない気持ちが消せないんだ…… それと、想像するだけで全身の鱗が逆立ってしまう、あのニンゲンの事、僕は恐ろしくて仕方が無いんだよ! ニンゲン…… 恐すぎるよ…… だって、僕自身もそうだけど、皆やヒットやオーリ、今ここに居ない他の鮒達だって、いつか釣られてしまうかもって、そう考えたら、そんなの絶対嫌だって思って、悲しくなってしまったんだ…… ああ、でも皆ごめんよ…… 疲れて眠った所だっただろうに、僕のせいで起こしてしまった、僕が辛抱出来なかった為に…… 本当に僕は小さくて弱くて、その上こんなに臆病で…… 皆に又迷惑を掛けてしまっている…… 僕は本当に……」


 そこまでナッキが一気に捲くし立てた時、無言で固まるヒットの横から、オーリが言葉を遮る様に、然(しか)し優しく告げたのである。


「ち、違うのよナッキ、私も恐ろしくて眠り付けなかったの、それで、あなたやヒットを起こしてこの不安な気持ちを聞いてもらいたいなって思っていたのよ? でも、皆を起こしてしまうって、あなたと同じ事を考えていたんだと思うわ…… だって、あんな恐ろしい事を聞いた後なんですもの、誰だって普段と一緒ではいられなくて当然でしょう? どう皆、違う?」


 彼女の問い掛けに、集まった鮒達は揃って同意を口にし、矢継ぎ早に各々の感じた恐怖や、この世界の理不尽さ、運命の残酷さを語り始めたが、それらはナッキを安心させる為の方便ではなく、皆がそれぞれ本当に感じた事を堪え切れずに言葉にして居るのが、聞いているナッキには十分に理解出来たのだった。

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