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『お母さん』
ガチャ 「ただいま!」
玄関を開けると、母親の声がした。
「おかえり〜」
大学生のAさんは、靴を脱ぎながら答えた。
「今日、早かったんだね」
「うん。夕飯できてるよ」
Aさんはリビングに入った。
母親は台所に立っていた。
いつも通りだった。
夕飯を食べながら、Aさんは学校の話をした。
母親は相槌を打ちながら聞いていた。
「そういえば、お父さんは?」
「まだ帰ってないよ」
「そっか」
それから二人でテレビを見た。
夜11時。
Aは自分の部屋に戻った。
ベッドに入ったところで、スマホが鳴った。
父親からだった。
『今から帰る』
Aは、
『了解』
と返信した。
その直後、母親からメッセージが来た。
『A、今どこにいるの?』
Aは不思議に思った。
『自分の部屋だけど』
すぐに返信が来た。
『そうじゃなくて』
『家にいる?』
Aは笑った。
『いるよ!』
少し時間が経ってから、
『お願い』
『絶対に部屋から出ないで!』
と送られてきた。
Aは首をかしげた。
『どうしたの?』
既読がつかない。
そのとき、
**ピンポーン。**
玄関のチャイムが鳴った。
Aは部屋から出ようとした。
するとスマホが震えた。
母親から。
『出ないで』
『玄関にいるの、私じゃない』
Aの心臓が跳ねた。
『じゃあ今リビングにいるの誰?』
既読がついた。
しばらくして、
『A』
『今すぐ窓から逃げて』
Aは恐る恐るドアに近づいた。
廊下から声がする。
「A?」
母親の声。
「どうしたの?」
Aは答えなかった。
「開けて」
ドアの向こうから、
母親が笑っている。
「夕飯、冷めちゃうよ」
Aは震えながらスマホを見る。
母親から新しいメッセージ。
『まだ家に帰ってない』
『今日は仕事で遅くなるって言ったでしょ』
Aは画面を見つめた。
「……じゃあ」
廊下にいる母親は誰だ?
そのとき、ドアの向こうから声がした。
「A」
「……」
「スマホ見てるんでしょ?」
Aの血の気が引いた。
「お母さんね」
声が少し低くなる。
「あなたが一人になるの、ずっと待ってたの」
Aは後ずさった。
すると玄関のほうから、
**ガチャッ**
と鍵を開ける音がした。
父親が帰ってきた。
「ただいまー」
Aは安心しかけた。
だが、
廊下の女が言った。
「おかえり」
父親が答える。
「ただいま」
Aは凍りついた。
父親は何も知らない。
女は玄関へ向かっている。
そのとき父親が、
「Aは?」
と聞いた。
女が答える。
「寝てるよ」
父親は笑った。
「そっか」
そして二人の足音が、
Aの部屋へ近づいてくる。
Aは窓を開けようとした。
だが、窓は開かない。
鍵がかかっている。
その瞬間、母親から最後のメッセージが届いた。
『A』
『ごめんね』
『もっと早く言えばよかった』
『あなたが今いる家は』
『**もう私たちの家じゃない**』
Aは意味が分からなかった。
ドアの前で、足音が止まった。
父親の声。
「A、開けろ」
母親の声。
「大丈夫だから」
Aは震えながら、
「……お父さん?」
と聞いた。
「何?」
「お母さんは?」
沈黙。
しばらくして父親が答えた。
「……お母さん?」
その声が震えていた。
「A」
「うん」
「**お母さんは、三年前に死んだだろ**」
Aは息を止めた。
ドアの向こうにいる女が、
初めて笑った。
「そうだよ」
「私はお母さんじゃない」
そして、
「**あなたが私をお母さんだと思ってくれて、嬉しかった**」
Aはようやく気づいた。
今日一日、
母親と話していたと思っていた。
でも――
**父親は一度も「母親」を見ていない。**
そして、母親から届いたメッセージも、
Aが自分から連絡したものではない。
では、
**誰がAのスマホにメッセージを送っていたのか。**
最後にスマホが震えた。
母親からだった。
『A』
『振り返らないで』
Aはゆっくり画面を見た。
『あなたの後ろにいるのは』
『私じゃない』
その瞬間、
耳元で声がした。
「……お母さんだよ。」
コメント
1件
**はる。です。** このお話、めっちゃ怖かった……!最初は普通の家族の会話だと思ってたのに、後半からの「ほんとのお母さんは三年前に死んでる」「玄関にいるのは私じゃない」で心臓止まるかと思った。ラストで「振り返らないで」→耳元で「お母さんだよ」って流れが完璧すぎて鳥肌。テラーノベルでこういうホラーに出会えるとテンション上がるわ。続きめっちゃ気になる🔥