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――それは違うだろう? ――余りにも違い過ぎる!
教会へ行ってユカリーナさまの像を拝むたび、俺はいい加減辟易していた。
女神さまは、あんな ”ぷよんぷよんのぽっちゃりへちゃむくれ” ではない。
そこで俺は真のお姿を模した女神像の制作に乗りだしたのだ。
趣味でやっていたフィギュア作りをもとに長期にわたる研鑽の末、大小様々な女神像を作り出していたのである。
王都バースにある大教会はもちろん、モンソロ・デレク・カイルといった町にある教会には、すでに ”真の女神像” として安置されている。
それで、シロが雑木林の中で見つけたこの祠なのだが、さてどのタイプを置くか……。
……う~ん……
あっやべっ! 降ってきたな。
「シロ、一旦戻るぞ! 雨が上がってからまた来てみよう。一応この場所に認識阻害の結界を張っておいてくれるか」
「ワン!」
俺たちは人気のない神社の本殿裏へ転移した。
「ただいまー。いやー降ってきましたねぇ」
玄関からあがってくると茂さんが居間でテレビを見ていた。
「お帰り~。こっちはまだ梅雨だから、仕方ないよ」
あっ、そうか。
今日は7月7日、考えたら梅雨まっただ中じゃないか。
梅雨明けがだいたい20日近くだから、まだ2週間程はぐずつく感じかな。
この日は雨がしとしと降り続き、一向に止む気配はなかった。
紗月 (さつき) は5時過ぎに学校から帰ってきた。
今日は買い物には行かず、家にあるもので済ませるみたいだ。
「お好み焼きソースなんかあったりする?」
俺が確認すると、まだ封を切ってない物があるとのこと。
「じゃあ、今夜はホットプレートでお好み焼きにしない? 」
「ああ~いいですねぇ、お好み焼きパーティーですね!」
(お好み焼きをするとパーティーになっちゃうんだ……)
みんなの了承はすぐに得られた。
茂さんはからしマヨネーズを用意してくれるらしい。
台所から持っていったのは、ボール・粉からし・コップに入れた湯冷ましの水・割り箸・でっかいマヨネーズ。
粉からしの入ったボールにぬるま湯を少しずつ加え割り箸の背でぐりぐりぐりぐり。
居間のテーブルでやるものだから部屋の中はからしの匂いが充満している。
これには、さすがのシロちゃんも台所に逃げ出してきた。(笑)
インベントリーからオーク肉を適当に出していく。
キャベツは昨日の残りがあるので、それも一緒に使う。
肉と野菜の処理は紗月に任せ、俺はスーパーへ飛んだ。
キャベツ・揚げ玉・青のり・紅しょうが・長芋を買ってすぐにもどる。
そして、みんなでワイワイやりながらのお好み焼きパーティーだ。
紗月もコテ (ヘラ) をもってにっこり笑っている。
焼いて食べて、焼いて食べて、とっても楽しく、そして美味しかった。
……残ってしまった ”からしマヨネーズ” だったが。
明日の朝、ハムとキャベツを刻んで、からしマヨネーズたっぷりのホットサンドを作ってくれるそうだ。
おおっ、それはまた楽しみだな。
お風呂からあがると、みんなはそれぞれ居間で寛いでいた。
シロもごろんしてテレビを見ており、隣の紗月のから撫でられている。
そこで俺は、今日雑木林で見つけた祠の話をすることにした。
………………
ある程度、事と次第を説明し、
最後に御本尊 (フィギュア) をどれにするのかみんなで決めることになった。
今あるユカリーナさまのフィギュアは全部で5種類。
順番にテーブルの上へ並べていく。
ベ○ダンディー白ビキニ&パレオVer. と、俺が選んだ Re:ゼ○ スープレフィギュア“レ○”あめの日Ver.は即却下となった。
――何故だ!
……坊やだからさ。
この透明な浅葱色のマウスレインコート。これを再現するのに、それは涙ぐましい努力があったのだが……。
う――ん残念。
結局一番女神らしい、胸の前で手を組んだブルーに金ギザの縁取りのベ○ダンディーを模したものに決まった。
バニーガールVer.は見向きもされなかった。
茂さんは選びこそしなかったが、白ビキニ&パレオVer. がとても気になってる様子だったので、あとでそっと渡しておくことにした。
まごうことなき、れっきとした女神さまなので適切に扱うようにとお願いしておいた。
しかしながら、本殿への安置は止めておいたほうが無難だろう。
天神様に怒られそうだからな。
そして次の日も雨。その次の日も雨。
7月9日。
特に外に出る用事もない俺は居間でテレビとパソコンの毎日だ。
お陰で日本での生活にもだいぶ慣れてきた。
地震についてもおおよそ把握することができた。
確かに半年程前から頻発しているみたいだな。
それに今回の多発性地震は、ユーラシアプレート・南海トラフといった各プレートや活断層による影響だけではないと訴えている学者さんもいるようだ。
ネットを見ても、それらが様々な憶測を呼んで混沌としている状態だ。
ただ今回のように直下型地震が同時多発的に起こることは極めて稀であり、テロの可能性も有るのではと取りざたされている。
なるほど。
原因が判明しないことには対処のしようがないだろうね。
だけど、何か引っかかるんだよなぁ。
俺たちがこちらに飛ばされたことも無関係ではないような気がしてきた。
まあ、その辺も含めて女神さまとお話ができるといいのだが。
………………
そして翌日。
ぺしぺし! ぺしぺし!
『いく、はれた、おいしい、おきる、さんぽ、おそと』
う、うん。朝か……。
シロにリードをつけて参道にでる。
掃除をしている紗月と挨拶を交わし階段を一気に駆けおりた。
そのままジョギングしながら路地裏に入り、折を見て光学迷彩をはる。
まずは吉牛へ、続いてスキ家へ、牛丼のストックを増やして油山展望台へ転移した。
今日は誰も居なかったのでシロと景色を眺めながら牛丼をかき込む。
そういえば、豚骨ラーメンもまだ食べてないぞ。
シロも居ることだし、やっぱり長浜の屋台がいいかなぁ。
屋台ならシロと行っても外で食べられるよな。夜だし問題ないだろう。
あっ、屋台なら中洲にもあるよな。夜の中洲かぁ…………。
久しぶりに行ってみたいな~。
散歩を終えて神社にもどる。
「いってらっしゃい! 車に気をつけてねぇ」
朝食を済ませ、学校に行く紗月を玄関で見送った。
さて、祠にいって女神像を置いてみますかね。
何とか女神さまと話ができるといいんだけど。
外出する旨を茂さんに伝え、俺はシロを連れて表に出た。
第二の鳥居をくぐり抜け階段を下りていく。
なぜ、第二なのかというと第一鳥居は階段を下りた所にあるからだ。
『参道の鳥居をくぐる事に神域が深まっていく』
なんて昔聞いた覚えがあったなぁ。
階段を中腹まで下りて、そこから右の雑木林に入っていく。
例のふしぎな空間へと入り祠の正面へ回りこんだ。
そこで、インベントリーから女神像 (フィギュア) を取りだし、祠の石扉を開いて中央部分へ丁寧に安置した。
よし、これで良いかな。
俺は三歩下がると、片膝を突き手を胸の前で組んで、……静かに低頭した。