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とあるビルのとある無機質な部屋の中で男は黒いソファーにもたれかかっているその男は見るからに若く20代後半といったところだろう
「私の妻を殺してください」
大量の金を持ってきて彼はそう言った
白髪の彼は珍しく大きく目を見開いた
これは、依頼なのだろうか
「…僕には貴方が自分の妻を殺して欲しい。そう聞こえてしまったのですが」
「えぇ、そう言ってるんです。金ならあります!!どうか…どうか…」
「私の妻を殺してください…」
汗をだらだら流して真剣な顔で俺を見る
どうやら本気らしい
「分かりました。」
これは依頼だ
金がある以上拒否する理由なんて俺には無い
「どのようにしてなどご希望はありますか?」
その言葉に今度は彼が目を見開く番だった
意味を察したのだ
「それは殺し方、ですか?」
「はい」
そう言うと彼はまたいっそう寂しそうな顔を見せた
死なないで欲しい
まるでそう願っているかのようだった
そしてその予感は的中する
「死なない程度に、だけど傷がつくように」
「…は?」
何を言ってるんだこいつは
それが率直な感想だった
依頼は妻殺し
内容は死なない程度に
意味がわからない
「すいません、意味が理解しかねます。殺すということはつまりその人に死んでもらうということ。死なないで殺すなど無理があります」
「分かります、知っています、でも、どうか、」
またその言葉
君は何を願っている
ここまで来て罪悪感でもあるのか?
君が殺すわけじゃない。殺すのは俺なのに
なんで君が悲しそうな顔をする
恨んで、憎んで、だからここに来たんじゃないのか?
「お願い、します、」
声を振り絞るようにそう言った
依頼主に頼まれたら断れない
「分かりました、」
そういうしか無いのだ
はぁ、こんなことになるならどうやってなんて聞かなければ良かった
だけど、愛している人だったから
愛してる人がもし死ぬなら、殺し方ぐらい自分で決めたいよな。憎んでる相手だとしても
もし、俺も愛してる人の死に方を決めることが出来たらな、なんて思ってしまった
そんなことあるわけないのに
「あの、ナルさん?」
突然黙ってしまった俺を不思議そうな顔をして見つめてきた
「あぁ、いえなんでもないです」
「僕なりに方法を探してみますのでまた後日連絡させていただきます」
「分かりました」
そう言って彼は部屋から出ていく
死なずに殺す方法…?
そんなものがあったら教えて欲しいぐらいだ
この世には分からないことばかり
「はぁ、どうすればいいんだよ」
とりあえず調べてみるか
見つかるはずがないがスマホで検索をかけてみる
出てきたのは精神科の電話番号やあなたはひとりじゃないなどといったホームページだった
期待はしてなかったがここまで絶望的とは
思わずため息をついてしまった
あの人だったら知ってるかな
遥斗さん
あの人はあんな性格だが腕は立つ
一応聞いてみるか
そう思い彼が営業しているカフェに向かった
「というわけなんです」
俺は彼に依頼内容について話す
「うーん…?」
彼は珍しく顔を傾げながらどうすればいいか考えているようだった
「死なずに殺す方法なんてあるのかな?」
「ないですよね…」
「はるちゃんのとこにもそんな依頼来たことないよぉ」
厄介なお客さんが来たねと彼は困ったように笑う
「いっその事お客様ごと殺しちゃったら〜?」
「それはダメです」
思わず即答してしまった
だってお金が入らないから
俺たち殺し屋への依頼は極めて少ない
みんな嫌いな人や合わない人はいる、だけどいざ殺すとなると罪悪感が生まれてしまい依頼がキャンセルになることがほとんどだ
だから最近はキャンセル料を付ける殺し屋や遥斗さんのように副業につく人が増えている
「けどそれ以外に手ある?」
「ないです、けど今お金が無いんですよ…」
「はるちゃんのとこで働くって言うのもありだよ?♡」
♡がつきそうな勢いというかもうついてるんじゃないかと思うほど甘ったるい声で言ってきた
「遠慮させていただきます。俺いまの仕事以外なにも出来ないので」
教わってないから
コーヒーの入れ方や一般のお客さんの対応の仕方などが分からないんだ
「えぇ?もったいなーい。かいとちゃんなら看板娘ならぬ看板息子になれるのに!」
なんて寒い冗談を言ってくる始末だ
「はいはい。分かりましたよ、他当たってみます」
荷物を持って店を出ていこうとした時だった
「かいとちゃん、お客様について調べてみてもいいと思うよ?」
「はるちゃんにできるアドバイスはこれだけかなぁ」
なんてまた嘘くさい笑みを浮かべる
この人は知ってるんじゃないか?
どうやるのが正解かを
知ってる上で俺を試すためにわざと黙っている
そうとしか捉えられなかった
ならここは素直に
「わかりました」
そう一礼して店を出ていった
依頼主の名前はなんだっけ
確か…
鈴木 優太
どこにでもありそうな名前だなと思ってしまった
俺も人のこと言えないか
名前がわかるならあとは楽だ
彼の元を訪ねてみよう
そう思い次に足を向けたのはとある美容室だった
ーーー補足ーーー
殺し屋は本名や顔が架空の名前や仮面を使いバレないように隠している
主人公は狐の仮面とフードを付けており名前はナルと名乗っている