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「失礼します…」店に入ると美容院特有のシャンプーの匂いがした
いい匂い…
「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」
レジに行くと受付の方がとても素敵な笑顔で聞いてくる
同じ笑顔でもあのカフェの店長とは大違いだ
「お客様…?」
何も言わないのが不思議に思ったのか心配そうに受付の女性に見つめられる
「あ、えっと、予約じゃないんですけど…」
「でしたら、少しお待ちして頂かないといけなくて、今からでしたら…」
俺髪切りに来たわけじゃないんです
今更そんなこと言えるはずない
女性は予約表を見ながら待ち時間を計算しているようだ
予約すればよかった…
ごめんなさい、多分あなたが何分と言っても俺は断ります。今度予約してちゃんと髪を切りに行くので許してください
そう願ってしまう
「大変遅くなりました。今からですと」
「あれ?カイトくんじゃん」
女性の声が突然後ろから遮られた
振り返ってみると紫髪にピンク色のメッシュが入っており目は少し垂れている俗に言うオシャレさんがいた
その男性は俺の頭に手を置いてフラフラ揺らす
多分撫でてるつもりなんだろう
「ごめんね、この子僕の甥」
「あ!桐生さんの!」
と妙に納得したかのような声が聞こえる
絶対納得してないな
きっと彼女は桐生さんの部下で気を使ってわざと納得したかのような声を上げたんだ
「うん、そうそう。僕に会いに来たと思うからちょっと借りるね」
そう言うと彼は俺の手を引いて関係者以外立ち入り禁止と書かれてある部屋に入った
そこには相変わらず無機質な空間が拡がっていた
桐生さんは慣れた手つきで部屋に鍵をかける
「それで、どうしたの?」
ソファーに腰かけたと思ったらいきなりそう聞いてきた
この人には前置きというのがないのだ
「鈴木 優太という男性について調べて欲しいんです」
そう言って依頼主である鈴木 優太の写真を見せた
「へぇ、この子がねぇ…どこにでもいる普通の人っぽいけどなんかしたの?」
「大量虐殺とか?世間を揺るがすテロとか?」
なんでそうゆうのがポンポン出てくるんだ…
「いえ、俺の依頼主です」
そう言うと不思議そうな顔で俺を見つめる
「依頼主?なんで?」
「実は、この依頼が少し厄介でして…」
この依頼のことを彼に伝えた
「へぇ、たしかに不思議だねぇ」
「けどやり方を調べさせればいいのになんでこの人自身なの?」
トントンと桐生さんは写真を指さす
「それは、遥斗さんがそうした方がいいと言ってたので」
遥斗、という名前が出た瞬間彼はあからさまに嬉しそうな顔をした
「はるとはると」
「あの、桐生さん…?」
「はるとは元気だった?今何してるの?ってかどこにいるの?殺しは続けてるのかな?なんか困ったこととかない?お金は持ってる?あと」
たんたんとした口調で色んなことを聞いてくるから一瞬で頭がパンクしそうになる…
遥斗さんは何故か知らないけどこの人に異様に好かれている
だけど、遥斗さんはそれが嫌だったみたいで今は彼に一切の情報を与えてないらしい
「遥斗さんはげんきですよ」
そういっただけなのにまた1層嬉しそうな顔をした
まるで犬みたいだ
「そっかよかった良かった。」
「ほんと遥斗さんのこと好きですよね」
「うん、はるととかいとくんは僕のお気に入り」
取ってつけたように俺を巻き込みやがって
正直俺は好かれているかとかどうでもいい
だがこの人に好かれるのは真っ平御免だ
遥斗さんから話を逸らすためにまた仕事の話に戻すか
「それじゃ、お願いできますか?」
「えっと誰だっけ、田中二郎?」
「鈴木 優太です!!」
「あーそんな感じの名前だったね。分かった、この写真は貰っとくね。明日またおいで」
「はい分かりました」
それじゃあ帰ろうかな
そう思って扉を開けようとした時だ
「あれ、あかない」
「あ、さっき鍵閉めちゃって」
桐生さんが俺に近づいて鍵を開ける
「ありがとうございます」
「ううん、お礼はいいかな」
お礼を言う時間があるなら仕事しろ、そーゆうことだろう
この人はいつも効率的だ
「ただ、ちょっと相手してくれない?」
「え?」
そう思った瞬間にはもう遅かった
体が宙を浮き目の前に扉があったはずだが気づいたら天井が目の前にあった
投げ飛ばされた
そう気づくのに時間がかかるほど鮮やかな手つきだった
横になった俺の体に桐生さんは股がる
「あの…!」
「黙って」
彼には謎の威圧感があった
なんか怒らせるようなことしたか…?
記憶を辿ってみるが失礼な振る舞いをした覚えは無い
「何かしたなら謝ります!だから離れてください!」
「ううん、かいとくんは何もしてないよ」
「これは実験」
実験
その言葉に喉がひゅっと鳴る
この人の実験という言葉にはいいイメージがない
前はどれだけ人間が電流に耐えられるのかと言いながら捕まえた人間に電流を流し続けた、らしい
やばい、俺死ぬ?
なんの実験?
俺はどうなるの?
「まずはどうしよっか、殺し屋の耐久値でも確かめようかな」
うんうんと考えてるその動作すら怖くて抵抗したいのに金縛りにあったかのように動けない
「どこまでトラウマに耐え切れるかな」
「大丈夫だよカイトくん。僕は君が好きだからこれが終わったらちゃんと消してあげる」
「カイトくんのトラウマか…そういえばかいとくん。君さ」
そう言った瞬間扉が開いた
「え、桐生さん…?」
さっきの女性が扉の向こうには立っていた
チャンス!
そう思って彼を勢いよく跳ね除けカバンを持つ
「お邪魔しました!!」
逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!
必死になって美容院から離れた
ーーー設定ーーー
美容院の店員
桐生 弓弦(きりゅう ゆずる)
裏世界では情報屋として働いている
容姿が整っているため彼を指名する客が多い