テラーノベル
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両親に日和美のことを話した数日後。
日和美がマンションへ遊びに来ている時、たまたまそこへ鉢合わせた体を装って、信真、マノン、信武、日和美の四人でお茶を飲む機会を設けた。
信真もマノンも仕事でバタバタとあちこち飛び回るタイプだったから、日和美が信武の両親と顔を合わせた時間なんて、トータルで三〇分にも満たなかったと思う。
だが、彼氏の家でホワンとテレビを観ていたら、突然彼の両親が訪問すると言うドッキリなシチュエーションを経験させられた日和美にとってみたら、きっと物凄く長い三〇分間だったはずだ。
そもそも信武、日和美にはまだ同棲計画のことを打ち明けていなかったし、そのために近々引っ越ししようと画策しているだなんてことも、話していなかったから。
信真たちにもその辺りは口止めしておいたので妙な空気にはならずに済んだけれど、信武としてはかなり後ろめたい時間だった。
日和美が両親――特にマノン――の好奇の目にさらされて質問攻めにあっている横で、信武は必死に日和美の盾になったつもりではあったけれど。
(ごめんな、日和美。全部話してお前からOK勝ち取ったら、俺もお前の家族にちゃんと挨拶行くから……。今回は許せ)
日和美には父親しかいない。アポを取るならその父親と、彼女を育ててくれた祖父母の三人に、になんだろうなと頭の中でぼんやり考えて。
別に現段階で日和美との結婚云々を計画しているわけではない信武だったけれど、「同棲するなら彼女のご家族にもちゃんと許可を取りなさい」と、信真から嫌と言うほど言われてしまったから、そんなことを慮らずにはいられない。
日和美自身はもちろんのこと、日和美側のご家族からも同棲の許可を取ること。
決して仕事に穴をあけないこと。
お互いに子作りの意志がないうちはちゃんと避妊をすること。
その三つが守れるならば、信真もマノンもいい年をした息子のやる事に干渉はしないと約束してくれた。
そもそも弟の真武の方が破天荒な性格で親を振り回しているから。
何だかんだ言って大きく道を踏み外さない、如何にも優等生な長子気質の信武のことは信頼してくれているらしい。
***
両親には次の印税が入ったらとか話した信武だったけれど、結局のところ次々と立て続けに仕事が入って、なかなか身動きが取れなくて。
そうこうしている間に萌風もふとしての新刊『あなたと二度目のフォーリンラブ~記憶喪失の彼と、恋のおさらい始めます!~』の発売日が決定してしまった。
新作はタイトルの通り、日和美と自分とのことを敢えてヒーロー目線ではなくヒロイン目線で描いた、実話が元ネタの作品だ。
茉莉奈に許可を取って、日和美にはプロット段階で一度だけ「こういうのを世に出そうと思ってんだけど、構わねぇか?」とチェックしてもらっている。
実際は書きあがった原稿に関しても、校正前のものならば彼女もモデルの一人ということでまずいところがないか読ませても構わないとまで言われていたのだが、これに関しては日和美から「めっちゃ気になるし、すっごくすっごく読みたいけど……お願い! 本の形になるまでは我慢させて? 私、信武がノンフィクションをフィクションに仕立て上げられる優秀な作家さんだって信じて待ってるから!」とかわされてしまって。
もちろん信武自身、二人のプライベートを洗いざらい世間に発信する気なんてさらさらなかったから、プロットの段階からヒロインとヒーローは同じ文具会社に勤める同僚と言う設定に変えてあったし、ジャンル的に言うといわゆるオフィスラブ仕立てにしてあった。
男が記憶を失った理由も、道を歩いていたらいきなり空から布団が降って来た!だなんて突飛なものではなく、交通事故に巻き込まれそうになった彼女を庇った際に、頭を強く打ったからという当たり障りのないものに変更してある。
デビューからずっとファンタジー系しか書いてこなかった萌風もふとしては、現代もののオフィスラブを書くのにはかなり苦労したけれど、この作品だけはどうしても〝立神信武〟としてではなく、日和美が最初に自分を見つけてくれた〝萌風もふ〟として書き上げたかったのだから仕方がない。
萌風として書くと決めたことで思いのほか書きづらくて執筆に手間取ってしまったけれど、最終的には納得のいく仕上がりになったと断言できる。
その本の見本誌を茉莉奈から数冊受け取った際、信武が誰よりも一番最初に読んで欲しいと思ったのは、もちろん日和美だ。
――発売日より二週間ばかり前のフライングだが、そのくらいは関係者ということで許して欲しい。
そんなことを言って、見本で届いた一冊を日和美に渡す許可を版元社長である父と、担当編集者である茉莉奈から取り、日和美に渡せる手配を整えた信武だったのだけれど。
ほんの少し前まで自分がそうだと打ち明けられずに隠してきた萌風もふとしての本を、いざその大ファンである日和美に手渡すとなったら、やたら照れくさくなって。
「ん、コレ! 本の形になったからお前にも一冊やる。発売日はまだ二週間ほど先だからオフレコな?」
照れ隠し。
少し視線を逸らしながらぶっきら棒にサインまで入れた見本誌を日和美の前に突き出したら、日和美が「キャー! 嘘ぉーっ! 信武! 有難う!」っと黄色い声を上げて受け取ってくれた。
その上で――。
「信武っ。本当申し訳ないけど私、今から二、三日音信不通になるね! 読み終わったらファンレター持って遊びに来るから! ……それまでは絶対絶対会いに来たりしないでね!? 電話も駄目よ? 萌風先生の世界に浸るの、邪魔したら許さないんだから!」
大事そうに本を抱えた日和美から、まくし立てるようにそう告げられて、「何だよそれ!」と反論する間も与えられず即行で逃げ帰られてしまった。
(連絡もすんなって……マジか……)
立神信武としての新刊を渡しても、ここまで言われたことはなかったのに。
改めて日和美は、萌風もふ側のファンなのだと思い知らされた信武だ。
はぁーっと大きな溜め息をついたところで携帯が鳴って。
もしや日和美か?と期待して画面を見た信武だったけれど、表示されているのは市内からの着信を現す数字の羅列のみだった。
未登録の番号からの着信で、今一番可能性が高そうなのは――。
(不動産屋か?)
引っ越しを決意して割とすぐ。
とりあえずと思ってネットや電話である程度希望を伝えて物件探しを頼んでいたいくつかの不動産屋のうちのひとつからの着信か?と思った信武だ。
「もしもし?」
『夜分に申し訳ありません。わたくし、ペリー不動産の中谷と申します。立神信武さんの携帯電話でお間違えないですか?』
応答してみれば、矢張りビンゴ。
連絡していた不動産屋のひとつ――ペリー不動産が、信武の条件にハマりそうないい物件が出たのでご連絡を差し上げました、と言う。
問い合わせをしたどの不動産屋からも、『現行の物件でご満足頂けない場合、三月から四月辺りにかけての人の出入りが多い時期ならばまだしも、それ以外の時期――特に閑散期と呼ばれる梅雨時分から夏辺りにかけた丁度今時分は人の動きが鈍いぶん新しい物件自体出にくいのでお時間を頂くかも知れません』と言われていた。
日和美と一日も早く一緒に住みたいのは山々だが、だからと言って妥協はしたくなかった信武だ。
『出ねぇもんは仕方ないか』と長期的スパンで探すことも覚悟していたのだけれど。
期せずして希望に当てはまりそうな物件が出ましたと言われたら、見に行かないわけにはいかないではないか。
「――明日朝一でうかがいます」
引っ越しを決意した頃はじめじめと雨の多い梅雨時分だったけれど、今は残暑厳しい九月初旬。
真夏はもちろんのこと、晩夏に差し掛かった今日に至るまでほとんどエアコンのきいた部屋から出ていなかった信武にとって、夏の気配を残す日差しに晒されるのは正直うんざりだ。
だがそんなことを言っていては、いつまで経っても前には進まないから。
日和美からもつい今し方音信不通宣言を出されてしまったし、これはある意味その間に雑事をこなしておけと言う神の啓示かも知んねぇなと考え方を切り替えた信武は、明朝早速不動産屋に出向くことを決めた。
正直引っ越したいと考えてから無駄に時間ばかり経っていたのも事実だし、今すぐ伺いますと言いたいところだったが、物件を見るのに陽が沈みつつある時間帯を選ぶのは得策ではない。
明るくなってから下見をして……もし気に入ればそのまま契約して引っ越しの手配に移るという流れもありだなと考えて。
もしそうなれば、萌風としての新刊の仕事はひと段落付いたばかりだけれど、今度は立神信武としての原稿も待っているし、忙しくなるだろう。
正直なところ、バタバタと立ち居振舞っていれば二、三日くらいあっという間に過ぎる……と自分に言い聞かせたかっただけの信武だ。
なのに――。
不動産屋からの電話を切って、じゃあもう一仕事頑張るかね……と伸びをしたところで、突然部屋の中が一瞬だけフラッシュを焚いたみたいに明るくなって。
何事だ?と思う間もなく地響きを伴ったドォォォォン!と言う物凄い音がした。
「……雷?」
雨なんか降ってたか?と不審に思いながら外を見たら、程なくしてざぁーっという音とともに大雨が降り始めて。
いわゆるゲリラ豪雨と言うやつだなと思った信武だったけれど、雨が降り始める前に見遣った外は、明らかに日和美の家の方角の方がこちらより煙って見えた。
恐らくはあちら側からこちら側に向けて雲が流れてきているんだろう。
(日和美のやつ、無事家に帰り着けただろうか)
車で来ていたので急な雨でもびしょ濡れになってしまったということはないだろうが、数メートル先も見えないような豪雨を見て、信武は無意識に眉根を寄せた。
(緊急事態だし……電話、かけても怒んねぇかな)
常とは違う状況だ。彼氏として大切な彼女の身を案じるのはきっと許されるはず。
そう思ってスマートフォンの画面と向き合ったと同時、突然着信音が鳴って、思わず肩がビクッと跳ねた信武だ。
鷹槻れん

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#シングルマザー
水羽凛
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#大人の恋
月詠 涼
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コメント
1件
うわあ、新刊を日和美に渡すシーン、照れ隠しが男っぽくてかっこよかったです!「連絡もすんな」って言われてぼう然とする信武、ちょっと切ないけど日和美の萌風もふ愛が伝わってきて微笑ましかったな。最後のゲリラ豪雨、タイミングが不穏で心配になっちゃいました…電話したところで終わったのが気になる!次の展開が楽しみです🥀